すぐにできちゃう魔改造

第9話 色白をご所望で?


 私の体は、二晩も凌太郎の部屋に吊るされていました。幸いだったのは、彼が特に何もしてこなかったことでした。正しく言えば、彼は寝るとき以外ほとんど部屋には居なかったのですが。


 私は再び荷台に乗せられ、もとの理科準備室へと連れていかれました。そしてそのまま数日間、私はずっと放置されたのです。


 散々私の体を辱めておいて、薄暗い部屋にしまい込んだら挨拶ひとつ来ないだなんて、物扱いにしてもひどい仕打ちです。ひょっとして忘れられているのかと不安になりました。


 それからさらに数日が過ぎた頃、凌太郎は何食わぬ顔で姿を現したのです。


「スカルさんはどんな肌がお好みですか?」


「そんなの、かつての私と同じ、色白で柔らかい肌に決まっていますわ」


「わっかりました!」


 返事するなり、さっさと部屋を出て行ってしまいました。詳細を全く聞かず、何が分かったというのでしょうか。


 かつての彼もそうでした。ろくに確認を取らずに行動して、いつもお粗末な結果ばかり。少しも変わっていません。


 ものの二、三分で帰って来ました。フックをつかんで私を運び出します。


「ちょっと、どこに連れていくおつもり?」


「美術室です」


 美術、ということは少しはまともな場所なのでしょうか。凌太郎の足取りの軽さがどうにも気にかかりますが。


「色白の柔肌をご所望でしたよね?」


「ええ、まあそうですが……」


 ちゃんと覚えていますわね。それは良いのですが、要望にしっかり答えられるか、随分と怪しいものです。


 連れて来られた美術室なる場所には、すでに何人かの男たちが控えていました。それぞれの手に、何か白い物を持っています。


「みんな、よろしく!」


「おうよ!」


 私の了解を得ることなく、男どもが白い物を私に巻き付けていきます。ぺたっぺたっという音が部屋に響きます。


「これは何ですの?」


「紙粘土です!」


「はあ?」


「ですから紙粘土です! 真っ白くて綺麗なんですよ」


 粘土? わざわざ集めた資金をそんなものに使ったと言うの?


「お待ちなさい! そんなものでまともな体が作れると、本気で思っているの?」


「大丈夫ですよ。粘土と肉って、ほぼおんなじ感じじゃないですか」


「同じじゃないわよ! 今すぐおやめなさい!」


「買っちゃたんですから、モノは試しということで」


 ほんのわずかでも期待した私が愚かでした。


 そもそも、肉体改造の材料として何を買うのか、事前に私に相談すべきなのです。それが全くなかったという時点で気づくべきでした。迂闊な自分自身に失望を感じざるを得ません。


 無情にも響く、粘土をこねる音。足、腕、肩と塗りたくられ——。


「なあ凌太郎、体の中身どうすんだ? 空洞だぜ?」


「なんか白くてふわふわしたもんない?」


「あるぜ。文化祭んとき使った綿の余りが」


「それでいいじゃん。白くて柔らかければオッケー」


 何てことですの!


 綿なんか詰めたりしたら——


「それではまるで、ぬいぐるみではないですか!」


「おお、確かに。可愛くなりそうですね、スカルさん」


「可愛くないわよ! 私はそんなものになりたくて見世物にまでなったのではありませんよ? ちゃんとした素材を準備し直しなさい!」


 とても看過できません。綿の内臓に粘土の肉体では、いくら色白でも、泥人形にも等しいおぞましい姿になってしまいます。


「今すぐおやめなさい!」


「ええ~、別にいいじゃないですかあ」


「粘土では、すぐに体がぼろぼろに崩れてしまいますわ」


「ああ、それもそうですね。じゃあ……、あれを上から塗って固めましょうか」


 凌太郎が指さす先にあったのは——。


「私の見間違いでなければ……、石膏、と書いてありませんか?」


「そうですね。石膏ですね」


 そんなもの塗りたくったら、今度は白い石像になり果ててしまいます。


「もしかして、……ふざけてませんか?」


「……ええ。ふざけてますが?」


 この男ときたら——!


 はじめからそのつもりで金集めをさせて、そのうえ私に新たな辱めを加えようとくだらない物を買い込んだ、ということなのでしょうか。


「なんてひどい男!」


「いやあ、それほどでも~」


「褒めてません!!」


「またまた~。ひどいと言っても、あなた様にはかないませんよ」


 話になりません。それに、私の方がひどいというのはどういう意味でしょうか。聞いたところで、まともな対話ができそうにもありませんが。


「とにかく、これ以上の戯れは許しません」


「そんなこと言って~。少しくらい遊び心を入れたっていいじゃないですか。転生前の世界じゃ気を抜く暇もなかったんですから」


 それは確かに言う通りですが――。









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