第1話 ありのままで
若くして生涯を終えるなんて、とんだ災難でした。ですが、私は幸運にもすぐに転生を果たすことができました。
身動きひとつ取れない骨格標本として生まれ変わるとは、夢にも思いませんでしたが。
今のままでは何もできません。
私は理想の肉体を手に入れ、必ずこの生を謳歌して見せます。
「凌太郎、早く私をここから連れ出しなさい」
「それならまず、舞踏会へ行ってみませんか?」
「舞踏会? この世界にもあるんですの?」
「もちろんでございますとも、お嬢様」
この男、意外にちゃんと分かってますわね。急に執事らしい言葉遣いになっているではありませんか。
見た目はそう悪くありませんが、随分と無表情。少し心配いたしましたが――。
ルクセンブルク家の執事に選ばれるという名誉、しっかりと理解できているようですわね。
「では凌太郎、さっそく私に相応しい衣装を準備なさい」
「かしこまりました。それならばご心配には及びません」
なんということでしょう。この男、すでに準備をした上で舞踏会の話をした、というのでしょうか?
ぼんやりした雰囲気とは裏腹に、かなり優秀な人材なのかもしれません。
ですが――そんな私の期待は、一瞬で打ち砕かれるのでした。
「お嬢様に衣装は必要ありません」
「はあ? 今なんとおっしゃいまして?」
「おやおや、お嬢様はお耳が遠いようですね。あなたに衣装など必要ないと言ったのですよ」
何を言ってますの? まさか、舞踏会に裸で行かせるつもりなのでしょうか。
いくら卑しき者でも、さすがにそれは非常識だと分かりそうなものですが。
「どういう意味ですの? 服を着ずに参加できるはずありませんことよ?」
「いえいえ、できますとも。実のない骨体のお姿だからこそ、重宝されるイベントがあるんですよ」
言っていることが全く理解できません。骨体だから重宝されるとは、どのような舞踏会なのでしょう。
この世界はどうなってますの?
「何ですの? そのイベントというのは」
「はい、お嬢様。『ハロウィン』というお祭りにございます」
「『ハロウィン』? 聞きなれない名ですね。それに今あなた、お祭りとおっしゃいまして?」
「ええ、確かにそう言いましたが?」
舞踏会をお祭りと勘違いするとは、やはり教養のない男ですわね。私のような淑女を、野蛮な裸祭りにでも出すつもりなのでしょうか。
「あなた、私に何をさせるおつもり?」
「特には何も。今のお姿にそのまま飾りを付ければ、全く違和感なく参加できますよ」
「それ、舞踏会ではありませんわよね?」
「似たようなものですよ。運の良いことに祭りは明後日です。さあ、さっそくお召し物を」
一体この男は何を考えているのかしら。この世界の人間の感覚が、私には少しもつかめません。
「ではお嬢様、お飾りを取って参りますので、しばしお待ちを!」
「ああ、どこに行くのです? 私もいっしょに……」
私の言葉など聞こうともせず、さっさと部屋を出ていってしまいました。
私が召す服だというのに、本人を置いていくなどありえません。やはりあの凌太郎という男を執事にしたのは失敗だったでしょうか。
そうはいっても、背に腹は代えられません。他に頼みの綱はないのです。
それに、動けるようになってしまえば、ゆくゆく他の人材を探せば良いこと。
今しばらくは、あの男に頼るしか。
――半時ほど経ったでしょうか。
ようやく凌太郎が戻ってきました。
「遅いですわよ!」
「いやいやすみません。いろいろと声をかけて手伝いを集めていたもので」
まあ、ついでに召し使いを探しに行っていたとは感心ですわ。早合点だったでしょうか、考えているよりは使える男かもしれませんわね。
「お嬢様、こちらがお召し物にございます」
「え? こ、これはなんですの?」
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