5話 レースラインと天樂の宮

「一通り見させてもらった。 決まったよ。」

「決まった? 何が...。」

「天樂の宮に行く。神は間違えなく私に用があるような口ぶりだ。直接会わないことには始まらないと思う。」

「呪いが...怖くないの?」

「神の住処に関する契約は、あくまでもハイデンス家に課せられた契約。私はその血をひいていないから呪いを受けるリスクは小さいと思う。」

「じゃあ私もつれて行ってくれない?」

「...行きたいの?」

「時々神の鼓動が聞こえるって言ったでしょ。その鼓動がとても弱弱しいの。だから苦しんでいるんじゃないかってずっと思ってたんだ、私に出来る事があるかもしれない。それにもう私呪われてるんだし。」


レースラインは何故か少し口調が明るくなっていた。

ずっとこの部屋に閉じ込められてる訳だし、外に出られるきっかけが欲しかったのかな。


「分かった。貴方を連れていく事にするよ。もしかしたら呪いを解いてもらえる可能性だってある訳だし。」

「呪いが解ける...か。また前みたいな生活が出来るようになれば良いんだけど。」

「アンナちゃんと遊びたい?」

「アンナ...元気にしてるのかな。私の視力が落ち始めた時急に会えなくなってしまったから。申し訳ないと思ってたんだ。」

「アンナちゃんは元気だよ、もし呪いが解けて元気になれたらまた遊ぶと良い。」


レースラインの今後の生活の為にも、なんとかして呪いを解きたい。

体が不自由になるにはまだ早すぎる。人生はまだこれからという時なのに。


「行こうか 天樂の宮に。」

「うん。」

「アーク 認識阻害の魔法を解くよ。彼女を在星の湖まで抱えていってほしい。」

「やっと僕の出番? ずっと静かにしてるのは疲れたよ。」


アークは肩を伸ばすようなストレッチをしながら少し不服そうに言った。


「もう1人いたんだね。こんばんは。」

「こんばんは。僕の名前はイベザル・アークと申します。カサブランカの助手です。 貴方を在星の湖までお連れします。」

「お願いね。」


アークはレースラインを抱えて窓を抜け、湖まで移動した。

湖は月の光で満ちていて、とても幻想的であった。水面には波1つなくあたりは静まり返っていた。


「在星の湖...久しぶりに来た。」

「ここが入口なんだね。私の目にもここはただの湖であるかのように見える、まるで何の気配も感じられない。」

「それだけ上手に隠されてるんだよ、じゃあ開けるよ。」


レースラインは膝をつき手を会わせて何かを言い始めた。


「崇高なるルミナスフェアの神よ、我の名はハイデンスレースライン、天樂を管理する者である。そなたの願いのために深星の扉を開錠する。」


波1つなかった湖に波紋が...草木まで揺らぎはじめた。

明らかに周りの雰囲気が変わっていくことに、カサブランカは不思議な感覚を覚えた。


レースラインは手を水につけた。


「天樂開錠」


湖の水面は2つに割れていき、下には水面のようなものが映っていた。


「湖の下に...湖?」

「在星の湖とは実はこの水面の事をさすの、元々の湖はただのカモフラージュに過ぎない。」


なるほど、ハイデンスの人間しか辿り着けないようにこんな仕掛けを...

やはり、この仕掛けは魔法の原理で動いていない。


3人は湖の下の空間まで降り、水面に近づいた


「ここからどうやって天樂に入るの?さっきみたいにまた何か儀式を...。」」

「いや、足を踏み出せば良い。その先はもう天樂の宮だよ。ちなみにだけどこの湖の開錠儀式が行われたのは直近で110年前だからね。」

「あの事件以降開かれてすら無かったんだ。」


満ち溢れる神聖な雰囲気に2人は息を呑んでいた。


「準備は...良い?」

「良いよレースライン。何か危険な事になっても私が2人を守るから安心して。」


3人はゆっくりと水面に足を踏み出す


光が体を包み込み水の中に吸い込まれた。

不思議な感じだ、広大な湖の中を水流に乗って運ばれているような感覚がする。

先へ進めば進むほど魔力濃度は低下していく。


それにしてもこの空間頭がおかしくなるほど大きい、水中には見たことも無いような構造物が漂っている。

ここが天樂の宮。


水流に身を任せていると明るい光が見えてきた。


3人は光へと吸い込まれて地上へと降り立った、洞窟の先に再び光がともっていた。


「ここが...天樂の宮。」

「多分そうだよ。初めてここに来るはずなのに何故かしっくりくる。」

レースラインは何かを感じ取っているかのようだった。

「カサブランカあの先に洞窟の出口があるみたいだ。」

「よし...行こうか。」


洞窟を抜けた先には信じられないような景色が広がっていた。


自然に満ちた広いドーム空間の真ん中には半球状の青紫に光輝くなぞのエネルギー構造物があり、その上には鎖で右手と天井を繋がれぶら下がっている何かがいる。

そして何より目に入ってくるのは、おぞましい数の終焉獣だ。

エネルギー構造物から何かを回収しては謎の空間へ消えている。


「こ...これは。」

「アーク レースラインを連れて洞窟まで退避、私は終焉獣を一掃する。レベル3の終焉獣も数体確認できる、危険だから良いというまで絶対に出てこないで。」

「分かった。」

アークはレースラインを抱えて洞窟の奥へ退避した。


どういう状況下は分からないけど、久々に腕が鳴りそう。 とりあえず防御結界魔法を。


洞窟の入り口には防御結界魔法が張られ、ドーム状の空間にカサブランカは取り残された。

終焉獣は一斉にカサブランカの気配に気づいた、今にも襲撃準備に入っている。

両者殺伐とした雰囲気がそこにあった。

「正直君たちを全て一掃するには、一般攻撃魔法が一番手っ取り早いのだけれど。

今私はもっと高位の魔法を使いたい気分だから、サンドバックになってよね。」


カサブランカは解放する魔力量を増やしていた。

そこから来る威圧は、襲い掛かろうとする終焉獣の足を止めた。

眼球の赤いリングの光が強くなっている。


「レジストメモリア・リリウムカサブランカ」

リライトメモリアが魔導書の召喚であり、レジストメモリアは魔導書の出力解放のである。


「グラビエイト」

足元の地面が全て赤い水面のように変わった。

明確な敵対心を感じた数百数千の終焉獣は恐れを捨ててカサブランカの元に進行を始めている。


がもう遅かった。全ての終焉獣の体はすでに3枚おろしになりその全てが息を引き取った。


相手が私じゃ無かったら少しは奮闘出来たかもしれない。

この量の終焉獣を一度に見たのは、今まで魔女として生きてきた人生の中で初めてのことだ。


グラビエイトが持つ効果

それは広げた水面から、円柱やブレード形状の物体などを無制限に引き出す事が出来るというもの。この水面は地面だけでなく、空間上どこにでも広げる事が出来る。

ただそれほど強い代償に恐ろしい想像力と集中力を要する。

なぜなら出現させる物体1つにおいてその構造や性質を瞬時に想像しなければ

いくら水面があっても物体が生成されないからである。魔法使いの域をこえるまさしく神の技である。


「防御結界解除。 アーク出てきて良いよ。」


アークは驚いていた、先ほどまで数えきれない程いた終焉獣が綺麗さっぱりいなくなった事に。


「終焉獣は...?」

「全て倒したよ。数百年ぶりの高位魔法はやっぱりちょっと疲れるかな。」


「感じる。 気配を感じる。」


レースラインが急に話し始めた。

「気配?」

「神の気配。 鼓動を感じる。 すぐそこだよ。」


レースラインが左手で指さしている先には、鎖で手と天井を結ばれてつり下がっている何かがいた。

まるで人間の男性のような姿をしているけど、私の目には彼が人間として映っていない。何か得体の知れないおぞましい生命体のように見える。


カサブランカはつり下がっている生物についてレースラインに説明した。


「彼を解放してあげて。苦しんでいる。ずっと。」

「分かった、アークまた何かあったら洞窟に逃げてね。」

「まかせて。」


カサブランカは鎖を切り、神を地上まで下した。

切られた鎖は不気味な色を放ちながら腐食していき全てが灰となる。

その瞬間神はゆっくりと目を開いた、その目は人間の目では無かった。


立ち上がる神を前にしてカサブランカは言う。

「私の名はカサブランカ。ハイデンス家 ハイデンスレースラインの元に貴方を助けに来た。」


神はゆっくり答えた


「我の名はオベロン。 星廻せいかいを管理する守律者が1人、星核の守律者である。 礼を言おうアリス・カサブランカよ。我の事はオベロンと呼びたまえ。」


アリス... 200年前の名前。






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