第15話 おじい様の言葉
休日の朝、私とレオンはおじい様とおばあ様の部屋を訪れていた。
今日はしっかりとレオンのことを調べてもらわなくちゃ。
だけどその前に、私の前世の話をしておいた方がいいのかもしれない。
そんなことを言ったら、おじい様もおばあ様も、自分の孫が転生者だったと知って、ショックを受けるかもしれない。
そう思って迷っていると、私より先にレオンが口を開いた。
「ミレニスおじい様!マルタおばあ様!
僕、前世の記憶があるのです!」
「えっ?!レオン?!」
「ほほう?」
「僕、前世は“チワワ”という犬種の犬でした!
トラックに轢かれて死んじゃって…
その時にね、神様に聞かれたの。“どうしたい?”って。
だから、“もう一度ママと一緒にいたい”って言ったの!
そしたら、“姉弟としてママを護れる世界に行こうね”って言ってくれたの!
だからね、姉上は僕のママなの!」
「レレレレレレレオン!!?」
何を言うのかと思えば、レオンは何の迷いもなく自分が転生者だということを告げた。
それを聞いたおじい様とおばあ様は、一瞬眉を上げたけれど、
すぐにいつもの優しい表情へと戻った。
あれ?何とも思っていないのかな?
そう思って慌てていると、そんな私を見たレオンが首を傾げながら言った。
「あれ?これ、言っちゃダメなやつでしたか?
でも、おじい様とおばあ様は絶対に分かってますよね?」
「…え?」
「レオンは本当に賢い子じゃな。それに、素直でよろしい。
リオラ、リオラも何も隠さなくていいんだよ。」
「おじい様…おばあ様…
あの…私…」
レオンがきょとんとしていると、クシャッと頭を撫でて「賢い子」と言ったおじい様。
そして私の方に視線を向けると、「何も隠さなくていい」と言ってくれて…
その言葉に背中を押されるように、私は今までのことをすべて話した。
転生前の記憶はあるけれど、リオラとしての記憶は曖昧で、分からないことも多い。そう伝えると、おじい様はいつも通りの笑顔で「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「リオラ。星はいつでも人々を見守っておる。
今回の転生は、きっと星が選んでくれたんじゃよ。
リオラとレオンの優しい魂を、もう一度輝かせてやりたいという思いが形になったのかもしれんなぁ。」
「星が…わたくしたちを…?」
「この世には、“まさか”と思う出来事が起きるもんじゃ。
だから気にせんでも良い。記憶が戻る前も今も、リオラはリオラじゃ。
欠けた記憶は、そのうちすべて思い出すじゃろう。
そうなった時、何をすべきか決めるのはリオラ自身じゃ。
それまでは、この世界をとくと楽しめば良いのじゃよ。
大好きな家族と一緒にな。」
「おじい様…あれっ…ごめんなさいっ…泣くつもりなんてなかったのにっ…」
「今まで、不安に押しつぶされそうになっていたんですもの。
でも、もう安心しなさい。わたくしたちは皆、リオラちゃんの味方だからね。」
「マルタおばあ様ぁぁぁぁっ!」
ミレニスおじい様は、私たちが“星に選ばれた”結果、転生という形になったのだと語ってくれた。
その言葉は、心に深く染み渡って…
そして、マルタおばあ様もすべてを分かってくれているように、
優しく包み込んでくれて、私は思わず涙が溢れて止まらなくなった。
この世界に来て、ミカミが同じ転生者だと知ってホッとしたけれど、
やっぱり家族に内緒にしておくのは、とても辛かった。
全員に話せたわけではないけれど、
おじい様とおばあ様が分かってくれたことで、
「もう隠さなくていい」と思えるだけで心の底からホッとした。
「リオラ、レオン。聞かせてはくれぬか?二人が過ごしていた世界の話を。」
「え?いいですけど…どんなことを話そうかしら?」
「そうじゃのう…。まずは、二人の出会いなんかから聞かせてくれぬか?」
「私たちの?えっと―」
おじい様とおばあ様にすべてを打ち明けたあと、ミレニスおじい様は私たちの前世について知りたがった。
こちらの世界とはまったく違うから、ある意味驚かれるかもしれない。
それに、私とレオンの出会いは、この世界ではありえない出会い方。
あ、でも…お金を出してレオンを“買った”という点では、この国でも行われているから、似ているのかもしれない。
そう思いながら、私たちのことを話した。
すると、おじい様もおばあ様も、同じタイミングで同じような表情で驚いていて。
それが少しおかしくて、思わず笑ってしまった。
こちらの世界では魔法が存在するけれど、私たちの前世では魔法は創作の世界の話。
その代わりに、便利なものがたくさんあって、
馬や馬車を使わなくても、電車や飛行機、車といった移動手段があることなど、いろいろ教えてあげると、「世界は広いのう」と笑っていた。
こちらの住人と、こんなふうに私たちが住んでいた世界の話をする日が来るなんて思いもしなかった。
これは絶対に語ってはいけない秘密だと思っていたから。
「リオラよ。今と昔、どちらが好きじゃ?」
「え?んーと、正直に言うとね、前世との違いがあまりにも大きすぎて、まだ比べてしまいますの。
だけど、周りの方々に、わたくしは恵まれているなって思う。
とても親切で、優しくしてくれて。それが、わたくしは嬉しくて。
前世の時は、学生の頃はそれなりにお友達もいて、楽しい日々を過ごしていましたけど、年齢を重ねるごとに、上辺だけのお付き合いが増えていきました。
ですが、こちらではとても濃くて、驚きの毎日を過ごしています。
まだ一ヶ月も経っていませんから、これから同じようなことになるかもしれませんが…
それでも、この世界が好きかもしれないと、少しだけ思い始めているところですわ。
だから、わたくしはどちらの世界も好きですわ。」
「僕はママとお喋りできるから、今が本当に嬉しいです!」
「そうかそうか。二人とも、突然のことで戸惑うことも多いじゃろうが…
この世界を好きになってくれているようで、安心した。
それに、前世の世界とその自分のことも愛せるというのは、素晴らしいことじゃ。
その気持ちを、忘れぬようにな。」
「はい!おじい様、おばあ様!」
ふいに問いかけられた「前世と今世、どちらが好きか」という質問。
私は、今の自分の気持ちを正直に話した。
レオンは、どちらかといえば私と話ができる“今”の方が好きそうだったけど。
私は、この世界で皆が親切にしてくれることが、とても嬉しく感じていたから。
それに、前世は前世で、楽しいこと、苦しかったこと、泣いたこと。思い出がたくさんある。
それはそれで、大切な世界だったし、大切な時間をたくさん過ごしてきたから。
だから私はこの世界も、あの世界も、どちらも好き。
それが、今の答えだった。
そう伝えると、おじい様もおばあ様も、とても優しい顔になった。
そんな二人に、この秘密を打ち明けられたことは本当に良かったなと思う。
これで、心置きなくいろんな相談ができるもんね。
なんて思いながら、レオンのことについて何から相談しようかと考えていた―…
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いつも読んでくださってありがとうございます!
登場人物たちのキャラクター紹介ページを作りました。
まだ未完成ではありますが…
AIイラストと一緒に、物語の世界を少しでも感じていただけたら嬉しいです。
https://note.com/sorariaru_17/m/mbd4c8be85572
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