第4話 もしもを語る教室

そこはどこにでもある教室だった。


放課後の光が机に差し、静かな空気が漂っている。


けれど、その静けさの中でだけ語られる話があった。


その教室に二人の男女がいた。


彼らが語るのは――歴史の影に隠れた、もしもの話


「では今日は武田信玄女説について話しましょうか」


「いやそれ陰謀論じゃないですか」


「ええ確かに戦場での活躍、子どももいる、そして後世に残る肖像――史書を開けば、そこには男の名しかない。


それゆえにすべてが男である証拠だと思われてきたわ


でも、ここで立ち止まってみましょう」


「なんでですか?」


「戦乱の世で武将は男であり女が戦場に立つことなど本来許されないことなのは知ってるでしょ?」


「はい有名な話ですよね。」


「それゆえにもし女が男として戦ったなら記録上は当然、男として扱われるしかないのよ


また、女であることを隠すため徹底して生きてきた者がわざわざ自らの性別を文献に残すはずもない」


「確かにそれは納得します。


ですが隠し通せるとも思いません。


それに歴史の教科書とかに載ってある絵はどうなるんですか」


「肖像画だって女であることを隠すため意図的に男性として描かれた可能性が絶対にないといいきれる?


そして、そもそもなぜ男ばかり記録に残っているのか


それは時代と社会制度によるものだとわたしは解釈した」


「社会制度とはなんですか」


「そうね少しだけ説明しましょうか


戦国期、武士の家督や軍事権は基本的に男子が継ぐ慣習であり女性が公的な戦闘行為に参加することは少なかったのよ。


まあ危険だからとか女性の立場があまりなかったからとかそういった理由と思えば良い。


人口全体では男女ほぼ半々でも家督を継げる武士層に限れば圧倒的に男性が多いのは自然である」


「へえそういった社会制度があったんですね」


「男性が記録される数が多いのは当然といったわ


でもそれにしたって記録上の男性の数は非常に多い。


側室や正妻の存在を考えれば家族単位での人数差はそこまで大きくはないはずよ。


なら戦場や公的記録に「男性」として登場する人物の中に本来は女性であった者が紛れていてもおかしくはない。


男として生きることで存在が隠され後世には誰も気付かない


そんな可能性がここには残されているのよ。


隠された事実を解き明かせるかもって興奮しない?」


「いや別にしませんけど」


「ええええ連れないわねえ」


「戦乱の世で武将は男で女は武将にはなれない。


女の名が戦場に刻まれることなど、本来あってはならないことなの」


「そんな時代を抗った存在が女武将として名を馳せるのは有名な話しですよね」


「でも名を残した彼女たちだけが全てではない。


これはもしもの物語


――戦場に立ちたいと願う女がもしも女を隠していたら


彼女は己の名を捨て髪を断ち声を変え男として戦の列に加わった。


そのようなことがあり男の武士に女が紛れていた。


そして――そんな想像の先にもしも武田信玄という名があったとしたら……面白いと思わない?」


「でも、武田信玄はさすがに……無理じゃないですか?

子どもも妻もいるし、さすがに隠し通せるものでも……」


「確かにその疑問は正論よ


でもそもそもその前提条件を崩せるものがあるなら?」


「そんなことがあるんですか?」


子どもがいても妻がいても崩すことの出来る可能性の過去とは


「――それは記録の裏に書かれなかった関係があったとしたらという仮説よ」


放課後の光が、彼女の瞳の中で揺れていた。

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