第11話「それぞれの終着点」

 セリアがエデンから追い返された後、元勇者パーティーのメンバーたちは、まさしく転落の人生を歩んでいた。

 勇者の称号を剥奪されたアルスは、完全に牙を抜かれた獣のようだった。プライドだけは異常に高いため、日雇いの仕事も長続きしない。酒場で「俺は元勇者だ」と吹聴しては、周りの客から笑われ、喧嘩騒ぎを起こしては衛兵に叩き出される毎日。かつての英雄の面影はなく、ただの哀れな酔っぱらいに成り下がっていた。彼は酒に溺れ、過去の栄光という幻影の中でしか生きられなくなってしまったのだ。

 セリアは、神殿からも追放された後、その美貌を武器に貴族の愛人になろうとした。だが、「勇者を捨て、今度は追放された鑑定士に媚を売った性悪聖女」という悪評が広まっており、誰も彼女を相手にしなかった。結局、彼女は安酒場で体を売ることでしか日銭を稼げなくなり、かつての輝きを失った瞳で、虚ろに日々を過ごしているという。

 他のメンバーも同様だった。リアムの重要性を理解せず、アルスに同調して彼を追い詰めた者たちは、その罰を受けるかのように、次々と落ちぶれていった。冒険者として再起しようにも、彼らの実力はリアムの【鑑定】に支えられていた部分が大きく、単独では低ランクの依頼すらまともにこなせなかった。彼らはやがて盗賊に身を落としたり、路地裏で無様に命を落としたりと、惨めな末路を辿っていった。

 自らがまいた種の結果とはいえ、その話を聞いた俺の心に浮かんだのは、憐憫でも嘲笑でもなく、ただ虚しさだけだった。彼らの物語は、もう終わったのだ。

 一方で、俺たちの物語は、まだ始まったばかりだった。

 エデンは、その後も驚異的な発展を遂げた。

 俺は【神の万年筆】の力を使い、新たな作物を次々と生み出した。一年中収穫できる米、どんな病気も治す薬草、暗闇で光るコケ。エデンの産物は大陸中の人々の生活を豊かにし、都市にはさらに多くの人が集まってきた。

 人間だけでなく、エルフやドワーフ、獣人といった亜人たちも、エデンの噂を聞きつけて移り住んでくるようになった。彼らは俺が築いた「種族による差別のない法」のもと、互いの文化を尊重し合い、助け合って暮らしている。多様な種族がもたらす知識や技術は、エデンをさらに活性化させた。

 俺は、もうただの領主ではなかった。様々な種族からなる連合国家「エデン連邦」の、初代国王として推戴されていた。

 そんなある晴れた日、俺はリーシャを連れて、エデンの街を見下ろせる丘の上にいた。

「綺麗…。リアムさんが創った街、本当に綺麗ね」

 眼下に広がる、活気に満ちた美しい街並みを見ながら、リーシャが幸せそうに微笑む。

 追放されてこの村に来た日、彼女の涙を見て、この村を救おうと決意した。あれから、ずいぶんと遠くまで来たものだ。

 俺は、隣に立つ彼女の手を、そっと握った。

「リーシャ」

「はい、リアムさん」

「いつも、そばにいてくれてありがとう。君がいなければ、今の俺はいない。今のエデンも、なかっただろう」

「そんなこと…。私は、何も…」

「ううん。君の笑顔が、俺の支えだったんだ」

 俺は彼女に向き直り、覚悟を決めて、言葉を続けた。

「リーシャ。俺と、結婚してくれないか。これからもずっと、俺の隣で笑っていてほしい」

 プロポーズの言葉に、リーシャは大きく目を見開いた。その大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。それは、初めて会った日の絶望の涙ではなく、温かい、幸せの涙だった。

 彼女は、何度も何度も、力強くうなずいた。

「はい…! 喜んで…!」

 俺は彼女を強く抱きしめた。温かくて、柔らかい。俺が本当に手に入れたかった、かけがえのない宝物だ。

 俺たちの婚約は、エデンの民すべてから祝福された。かつて俺を追放した王国からも、今や対等な国家として、祝賀の使者が送られてきた。皮肉なものだ。

 過去との決着はついた。そして、俺の隣には、未来を共に歩むパートナーがいる。

 俺はもう、過去を振り返らない。この愛する国と、愛する人々のために、俺はこれからも世界を創り続けていく。

 創生王リアム。それが、今の俺の名前だ。この物語は、まだ始まったばかりなのだから。

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