やられ役の魔王がバッドエンドに突入したヒロインを救ったらめっちゃ崇拝された件~推しが全員悪堕ちしちゃった……どうしよう!? ~

ナガワ ヒイロ

第1話 やられ役の魔王に転生しちゃった……どうしよう!?




「俺、転生してたのか」



 ある日突然、俺は前世の記憶を思い出した。


 しかもただの転生ではない。

 前世の俺がリリース初期からやり込みまくったソシャゲ『オルフガルド戦記』のキャラに生まれ変わっていたのだ。

 ただし、主人公ではなく、物語の終盤に登場する悪役――



「ルーデルトじゃん。魔王じゃん。キャラデザまんまじゃん」



 広間の大きな窓に写る自分の姿を見ながら、俺は思わず呟いた。


 純白の長い髪と黄金の瞳、恐ろしく整った顔立ちと高長身&細マッチョの美ボディー。

 更には厨二心をくすぐる軍服のようなデザインの黒衣をまとっており、背中がちょっぴりむず痒く感じる。


 見た目は人間とあまり変わらないが、人間にはない特徴がいくつかあった。

 まず目立つのは、ガントレットのような金属質の両腕だろう。鉄など容易く切り裂いてしまえそうだ。

 更には側頭部からは禍々しい角が生え、背中からは漆黒の翼、腰の辺りからは尻尾が生えている。


 そして、最も魔王らしいのは額にある第三の眼だろう。

 この眼は『万里眼』と言って、世界のあらゆる場所を見ることができる。



「まじか。どうせなら教官プレイヤーに転生したかったな……」



 『オルフガルド戦記』にはプレイヤーの分身となるキャラが登場する。


 それが教官だ。

 教官はオルフガルド王国という国が異世界から召喚したヒロインたちを育成して魔王軍と戦い、最後には魔王を倒してハッピーエンド。

 その過程でヒロインたちとの絆を深め、最後には結婚することができる。

 コツコツ育成したヒロインと教官の甘酸っぱいイチャイチャが見られるシナリオとスチルが最高で、それらを早く見たいがために育成効率を上げようとよく課金したものだ。


 そして、魔王ルーデルトはどのヒロインのシナリオでも必ずラスボスとして立ちはだかる悪役だ。

 とはいえ、しっかり育成したヒロインならば難なく倒せる程度の強さなので、やられ役とまで言われる始末である。


 よりにもよって俺はそのやられ役の魔王、ルーデルトに転生してしまったらしい。



「ルーデルト様、いかがなさいまシタ?」


「あ、い、いや、何でもない」


「左様でございますカ。何かあればお声がけくだサイ」



 いきなり俺の視界に入ってきたのは、黒い球体の謎生物だった。

 コウモリの翼と悪魔の尻尾を生やした一つ目の魔物である。


 彼の名前はクロ。

 俺が使役している使い魔であり、俺の補佐をしている執事だ。

 今まで気にならなかったが、改めて考えると口がないのにどうやって喋っているのだろうか。


 と、そこまで考えてからハッとする。

 少し顔を上げると、そこにはクロと同様に不思議そうな表情で俺を見つめる配下たちの魔族たちの姿があった。

 ……しまった。

 いきなり前世の記憶を思い出したのでボソボソ独り言を呟いていたが、今は魔王軍の会議中だった。



「お、俺の独り言は気にしないでくれ。会議を続けよう」


「「「「は、はあ……」」」」



 さて、どうしよう……。

 配下の魔族たちが会議を再開する傍ら、俺は一人心の中で頭を悩ませる。


 俺改めルーデルトは大陸中央に位置する魔王国の支配者で、周辺の国々と戦争をしている。

 当然ながら、今まで数え切れないほど大勢の人間たちを殺してきた。

 人間だった前世の記憶を思い出したからと言って、今さら人類と友好的な関係を構築するのは不可能だろう。


 でも、俺は急に死ぬのが怖くなった。

 散々多くの人間を殺してきて勝手だと思うが、前世の記憶を思い出して人間らしい感覚を得てしまったからだろう。


 幸い、俺はあらゆるヒロインの固有スキルや特性を熟知している。

 やられ役でも魔王なので、しっかり対策を練ればどのヒロインを相手にしても勝利を収めることはできるはずだ。


 しかし、できることなら戦いたくない。

 

 戦いたくない理由はたった一つ。

 もしヒロインを返り討ちにしてしまえば、彼女らは役立たずの無能として人類から迫害を受けるバッドエンドに突入してしまうから。

 その末路は例外なく悲惨で、最悪な最期を迎えることが多い。

 まあ、そういう悲惨な最期とイチャイチャシーンのギャップが話題を呼び、『オルフガルド戦記』は人気ゲームになったわけだが。


 ゲームではヒロインが戦闘で敗北しても、悲惨なバッドエンドシーンが映った後、その戦闘が始まる前に戻る仕様だった。

 しかし、この世界は現実だ。都合よく時間は巻き戻ったりしない。


 では、俺はどうすべきなのか。



「よし!! もう戦争、やめようか!!」



 俺は『オルフガルド戦記』が大好きだ。

 より正確に言えば、このゲームに登場するヒロインたちが大好きだ。

 高校時代、初恋の女の子にこっぴどく振られて傷心し、引きこもっていた俺を慰めてくれたのが『オルフガルド戦記』のヒロインたちだったから。


 俺は死ぬのが嫌だが、彼女たちが傷付くのはもっと嫌だ。

 ならばいっそ人類への攻撃をやめて、彼女たちが戦う理由を失くせばいい。


 我ながら実に素晴らしいアイデアである。


 しかし、俺の突然の言葉に猛反対したのは会議中の配下たちだった。



「なっ!! いきなり何をおっしゃられるのですか、魔王様!!」


「人間どもの治める大国、オルフガルド王国を滅ぼすまであと一歩なのですよ!?」


「そうです!!」



 おっと。

 俺の何気ない一言が配下たちの逆鱗に触れてしまったらしい。



「い、いや、その、あれだ!! ここ数年は激戦続きで兵たちも疲弊しているからな!! こちらから仕掛けるのをやめて、防御と戦力の回復、内政に専念するというのも――」


「ルーデルト様は我らのことを気遣ったりなどしません!! 内政など欠片も興味がない、死ぬまで我々に戦えと命じる非情な御方だ!! さては貴様、偽物だな!!」


「えっ」


「本物のルーデルト様をどこにやった!? いや、答えなくていい!! 拷問して吐かせてやる!!」



 なんでやねん。

 まあ、たしかに今までの俺なら絶対に言わないようなこと言ったけどさ。

 まさか前世の記憶を取り戻して、少しだけ配下を思いやるような言動をしただけで偽物扱いを受けるとは思わなかった。


 今にも俺に襲いかかろうと配下たちが臨戦態勢を取るが、やられ役でもルーデルトはラスボスだ。

 配下数名をまとめて相手しても余裕だが、身内同士での殺し合いは御免被る。


 どうにか配下たちを宥めて、この状況を丸く収めないと。



「俺を拷問する、か。面白い」


「!?」



 俺は全身から『闇の力』を解き放ち、配下たちを威圧した。


 『闇の力』というのは魔族や魔物にとっての生命力だ。

 人間から見ればただの黒いモヤだが、魔族は『闇の力』を見分けることができる。


 前世の記憶を思い出したとはいえ、俺が俺であることに変わりはないので『闇の力』は魔王ルーデルトのままだ。


 俺の『闇の力』を見た途端、配下たちが戦意を失ってその場でビクリと肩を震わせる。



「こ、この『闇の力』は、まさか本物のルーデルト様!?」


「そうだ。本物だ。全然偽物じゃない」


「じゃ、じゃあ、どうしてオレたちに気遣うようなことを……?」


「別にお前たちを気遣っての発言ではない。ただ、俺は気付いたんだ」


「気付いた?」



 首を傾げる配下たちに、日本人の感性を獲得した者として一言。



「――戦争は、よくないことだ」


「「「……は?」」」



 配下たちの「コイツ、何言ってんの?」みたいな視線が突き刺さる。

 いやまあ、つい昨日まで『戦争大好き最高ヒャッハー!!』してた奴の台詞じゃない自覚はあるけどね。



「俺たちが人間を殺せば殺した分だけ、人間たちは恨みを募らせて魔族や魔物を殺すだろう。戦争はその繰り返しだ」


「戦争とはそういうものかと思いますが……」


「ハッキリ言って不毛だ。ならばもっと文化、文明の発展に力を入れるべきだろう」


「し、しかし、我々が剣を置いたとて人間どもが武器を捨てるとは限らないのでは? 我々はもう大勢の人間を殺しているのですから」


「だから防衛に専念する。こちらから攻撃はもう二度としない」



 そうすれば、ヒロインと戦わなくて済む。


 そもそもオルフガルド王国がヒロインを召喚するのは魔王軍に追い詰められてしまったからだ。

 こちらから攻めるのをやめてしまえば、王国がヒロインを召喚する必要はなくなる。


 推しに会えなくなるのは残念だが、ヒロインたちが悲惨な目に遭わなくて済むと思えば安いものだろう。



「反対意見のある者は?」


「わ、我々は魔王様の恐ろしさを知っています。魔王様の命令に逆らうことはありません」


「ならばよし。今日の会議はここまでにしよう。少し整理したいことがあるからな。俺は自室のベッドで休ませてもらうぞ」



 広間を出ていく俺に、配下たちは無言で頭を下げ続けた。


 魔王城の長い廊下を足早に歩き、最上階にある自室に辿り着いた俺は、頭からふかふかのベッドにダイブして今後のことに頭を悩ませる。



「ルーデルト様、失礼しマス」


「む、クロか。どうした?」


「先ほどの会議、なぜ急に人間どもへの攻撃をやめると決めたのデス?」


「さっきも言ったが、戦争は不毛だからだ」


「ワタシはルーデルト様の執事デス。それが建前であることくらいお見通しデス」


「……別に、完全な建前ってわけじゃないけど」



 クロはただの使い魔ではなく、俺が『闇の力』で生み出した魔物だ。

 俺の分身のようなものなので本音を話しても問題はないだろう。



「実はかくかくしかじかで」


「……ふむ」



 俺はクロに前世の記憶や『オルフガルド戦記』について洗いざらい全て話した。

 俺の前世が人間だったと知ったら少しは驚くかと思ったのだが……。


 クロは俺の話を聞いても全く取り乱さなかった。


 一通り話し終えたところでクロが目をパチパチさせながら頷く。



「なるホド。大体の事情は理解しまシタ。しかし、もう手遅れなのデハ?」


「え? 何が?」


「ちょうど一ヶ月前、魔王城に侵入した教官やヒロインと思われる人間たちの少数部隊をルーデルト様自らが撃退していましたヨ」



 ……あっ。



「あああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」


「忘れてたんですネ」


「完ッ全に忘れてた!! まずいまずい!! 一ヶ月前ならもう今頃はかなり酷い目に遭ってるはず!! ああ、でもクソ!! 誰が攻めてきたか思い出せない!! クロ、どういうヒロインだったか覚えてるか!?」


「やたら露出度の高いシスター服を着た胸の大きい金髪の少女デス」


「それはティルシアだな!! 巨乳で清楚な金髪美少女という王道の中の王道、その王道から敢えて外れたエッチなデザインのシスター服!! 第四回人気キャラランキングで一位を取ったヒロインだ!! たしかティルシアは敗北からちょうど一ヶ月後に処刑されるはず!! すぐに助けに行かないと、十字架に磔にされて火炙りにされちゃう!! ちょっと行ってくる!!」


「いってらっしゃいマセ」



 俺は慌ててバルコニーに飛び出し、背中の翼を大きく広げた。


 俺の背中の翼は飾りではなく、実際に翔ぶことができる。

 その最大速度は音速を軽く超える超スピードで、遠い場所でも一瞬だ。


 とはいえ、肝心のヒロインの居場所が分からなくては意味がない。

 俺は第三の眼である『万里眼』を使い、心当たりのある場所を片っ端から調べて目的のヒロインを探した。



「見つけた!! うわ、もう磔にされてる!?」



 このままでは救出が間に合わず、ヒロインが火炙りにされるだろう。

 しかし、俺には『闇の力』がある。

 これを全身にまとって肉体を強化することで、更に加速することができる。


 俺は全速力で目的地に向かった。

 地上から今の俺を見れば、黒い流れ星に見えるかもしれない。


 向かった先は『オルフガルド戦記』の舞台、オルフガルド王国の王都だ。

 その王都の広場には大勢の人々が集まり、十字架に磔にされた少女が民衆から罵倒され、石を投げられていた。



「この役立たずが!!」


「無能はとっとと死ね!!」


「お前が魔王を倒せなかったせいで、魔物に家族が殺されたんだ!!」


「死んで償え!!」


「聖女を騙る魔女なんて火炙りにしちまえ!!」



 ……ゲームの時はあまり気にならなかったが、オルフガルド王国って最低だな。

 自分たちじゃ魔王軍を倒せないから異世界から少女を召喚して戦わせて、負けたら石を投げて処刑するとか酷すぎる。


 いや、原因の魔王が言うのは間違ってるだろうけどさ。



「ちょっと邪魔するぞ」



 俺はスピードを一切落とさないまま、広場に着地した。

 着地の拍子に発生した衝撃波が広場に集まっていた民衆をまとめて吹き飛ばしたが、細かいことは気にしない。


 俺は十字架に磔にされているヒロイン、ティルシアを見上げた。

 本来は美しい金髪も今は土と血で汚れており、全身に酷い暴行を受けた痕がある。


 見るからに痛々しい姿で、まともに直視することができなかった。



「同じ人間に、よくここまで酷いことができるもんだな」


「あ、なたは……魔、王……?」


「ああ、そうだ。待ってろ、すぐに助けるからな」


「どう、して……? わた、しは、あなたの、命を狙った、敵で――」


「好きだからに決まっているだろう」


「……え?」



 俺は『オルフガルド戦記』に登場するヒロインたち全員が好きだ。

 とにかく課金して全キャラ集めて、そのシナリオを全て解放する程度には各ヒロインのことを愛している。


 俺は重傷のティルシアを抱え、騒ぎを聞いて集まってきた兵士たちを軽く吹き飛ばしながら魔王城に帰還した。



「おかえりなさいマセ」


「クロ、ティルシアを治療をしてくれ」


「承知しまシタ。ではルーデルト様、彼女の服を脱がせてくだサイ」


「えっ」



 服を、脱がせる……?



「な、何故だ?」


「治療に服が邪魔なのデス」


「そ、それなら、お前がやればいいじゃないか」


「ワタシには手がありまセン」


「そ、そうだった!! お前は眼と翼と尻尾しかないんだった!!」


「早くしてくだサイ」


「……ごくり。わ、分かった」



 これはあくまでも推しを、ティルシアの怪我を治療するため。

 邪な感情は一切ない。

 俺はできるだけティルシアの裸体を見ないように、ベッドに横たわる彼女の服を慎重に脱がせた。


 しかし、それでも男なら目の前の美少女の裸体が気になるものだ。

 俺は少しドキドキしながらチラ見して、絶句してしまう。


 服の下にも酷い痣や打撲痕、他にも様々な拷問を受けたであろう痕が見られたのだ。



「クロ、跡形もなく治してくれ」


「了解デス。では治療を始めマス。――大治癒ハイヒール



 クロが目をピカーッと光らせながら、ティルシアに回復魔法を施した。

 ティルシアの全身にあった生々しい傷痕はみるみるうちに治り、白珠のような綺麗な肌に。


 髪の色も生来の美しさを取り戻し、今度こそ見たらニヤニヤできる少女の裸体が目の前にあった。


 いや、別に興奮してないけどね!!



「うっ」


「目が覚めたか」



 治療が終わってしばらくすると、ティルシアはゆっくりと目を開いた。



「ここは……?」


「魔王城だ。安心しろ、お前に危害を加えたりはしない」


「……魔王、さん……その、助けてくださり、ありがとうございました」


「礼を言われることはしていない。それより、その、ほら」



 俺はできるだけティルシアの方を見ないように毛布を差し出した。

 すると、ティルシアは自分が裸であることに遅れて気付いたようで、頬を赤らめる。



「ひゃっ!! み、みみみみ見苦しいものをお見せしました!!」


「い、いや、こちらこそすまない。治療のために服が邪魔で脱がせてもらった。謝罪する」


「あ、い、いえ、そんな……」



 ティルシアが自らの裸体を隠すように毛布で身体をすっぽり覆う。

 くっ、我ながら最低だと思うが、もっとティルシアのおっぱいを目に焼き付けておけばよかった!!


 と、その時。

 クロが赤面するティルシアの顔をギョロリと覗き込みながら一言。



「治療費を請求しマス。金貨百万枚デス」


「え、あ、す、すみません!! 今は手持ちがなくて……って金貨百万枚!?」


「身体でのお支払いでもいいデスヨ」


「か、身体、ですか? そ、その、それって、エッチなことをしろって意味ですか?」


「いえ、腕を一、二本ほど――」


「おい、クロ」



 俺はクロをガシッと鷲掴みにして窓から外に放り投げた。



「気にするな、ティルシア。クロなりのジョークだ」


「そ、そうなんですか?」


「そうだ」


「……」


「……」



 話すことがなくなってしまい、俺とティルシアの間に沈黙が流れる。

 目の前に推しがいるのに、何を話せばいいのか分からない。


 しばらく続いた沈黙を先に破ったのは、ティルシアの方だった。



「あの、どうして私の名前を?」


「え? あ、ああ、魔王城までやってきた人間は珍しいからな。調べたんだ」


「そう、なのですね」



 それっぽい理由を咄嗟に話せる自分の舌を褒めてやりたい。

 前世の記憶が〜、とか言ったら絶対にスピリチュアルの人認定を受けていただろうかな。



「まあ、その、なんだ。しばらくここで暮らすといい。配下は俺の部屋には近づかないから、ここにいれば安全だ」


「何から何まで、ありがとうございます。魔王、さん」


「ルーデルトでいい。俺もティルシアと呼ぶ」


「あ、はい。分かりました、ルーデルトさん」



 ヒャッホゥ、推しから名前を呼ばれたぜ!!


 心の中で舞い上がっていると、ティルシアは信じられない提案をしてきた。



「……あの、ルーデルトさん」


「どうした?」


「何かお礼をしたいのですが、私は無一文です。なので――」



 何を思ってか、ティルシアが毛布を放って腕を広げ、豊かすぎるおっぱいを「たぷんっ♡」と揺らしながら言った。



「私の身体で、お礼をさせてください」


「!?」



 一瞬、思考が停止した。


 ティルシアは何をどうしろと言ったのか。いや、聞き間違いだ。

 だってティルシアは作中でもトップクラスの清楚キャラ。


 たしかに好感度が一定に達すると積極的なスキンシップをしてくるヒロインだが……。

 よく知りもしない相手に、ましてや敵の親玉であるはずの俺にいきなりお礼と称して股を開くわけがない。


 ティルシアの思わぬ台詞にギョッとしていると、驚きのあまり額の『万里眼』が開いてしまっていたらしい。

 彼女の頭上に今まで見えなかったはずの数字と文字が見えてきた。



『150(愛)』



 とても見たことがある表示だった。

 『オルフガルド戦記』でヒロインの教官に対する好感度を表すものとそっくりだ。


 まじかよ。

 俺の『万里眼』ってヒロインの好感度を表示する機能まで付いてたのかよ。

 いや、というよりは俺が前世の記憶を思い出したから『万里眼』が少し進化したのだろうか。


 ちなみに0~25が『嫌悪』、26~50が『知人』で、51~75が『好き』、76~100が『大好き』で、101〜が『愛』だ。

 公式設定の通りなら、『愛』はプロポーズしたら躊躇なく頷いてくれるくらいには好かれているということになる。


 いや、待て待て。落ち着け。


 まだ頭の上にある表示がティルシアの俺に対する好感度を表したものとは限らない。ここはクールに対処せねば。



「何の、真似だ?」


「私のことが好き、なんですよね?」


「それは、そうだが。そういうことはティルシアが好きな相手とするべきだ。自暴自棄になるのはよくないぞ」


「私も、好きだから言ってるんです」


「え?」


「隣、来てもらえますか?」


「え、あ、うむ」



 俺は彼女の言葉の意味も分からぬまま、ティルシアに促されて隣に腰かけた。



「……逆に聞きますけど」


「な、なんだ?」


「この世界には誰も私の味方がいないんだって絶望してた時に、これから火炙りにされて死ぬんだって何もかも諦めてたところに『好きだから』なんて理由で助けてくれた人を、好きにならないと思いますか?」


「え? なる、のか?」


「なります。他の人はどうか分からないですけど、少なくとも私はなりました」



 そう言ってティルシアは俺にゆっくりと体重を預けてきた。


 ティルシアから花のような甘い香りがする。



「私、顔には自信があるんです。こちらの世界に召喚される前、私の故郷では国で一番美しい聖女様だって言われてたんですよ? 胸も、女性の中だと大きい方だと思いますし」


「そ、そうなのか」


「私の身体では、お礼になりませんか?」


「いや!! そんなことはない!!」



 むしろ俺がお礼しなくてはならないくらいには嬉しいお礼だ。

 ヒロインとエロいことができるこの状況、本音を言えば断りたくない。



「ただ、その、恥ずかしい限りだが、初めてのことなのでどう答えればいいのか分からない!!」


「では、お試しということで」


「!?」



 そう言ってティルシアは俺の手を取り、自らの胸へと導いた。

 もにゅ♡ むにゅ♡ ぷるんっ♡

 俺は自分が今何を揉みしだいているのか理解するまで時間がかかった。


 おっぱいだ。

 俺の手から溢れ落ちてしまいそうなほど大きくて柔らかいティルシアのメロンおっぱいだ。

 前世では画像や動画で見るのが精一杯だったおっぱいが、ましてや好きなヒロインのおっぱいが手の中にある。


 初めての感触に困惑した俺は、ただ無言でティルシアのおっぱいを揉み続けた。



「な、何かおっしゃってください。無言で揉まれるのは恥ずかしいです」


「す、すまん!! その、なんだ、大きくて、柔らかくて、とにかくエッチだと思う」


「んっ♡ ふふ、魔王でもエッチなことに興味はあるんですね」


「ま、まあ、男だからな」



 しかし、言われてみれば以前は性欲というものがなかった気がする。

 前世の記憶を思い出したせいで、人間の感覚を得たのだろうか。


 しばらくティルシアのおっぱいを堪能していると彼女の声に艶が混じり始めた。



「んあっ♡ ルーデルト、さん♡ 胸以外も、触ってください♡」


「あ、ああ、分かった」


「ルーデルトさんの手♡ 大きくて♡ ポカポカして温かいです♡」



 俺はティルシアの全身をまさぐった。

 キュッと細く引き締まった腰に腕を回し、ムチムチの太ももを優しく擦って、肉感のあるお尻を鷲掴みにする。

 当然、彼女の大切なところも愛でまくった。

 全身をくまなく撫で回したせいか、やがてティルシアはベッドに大きな染みを作った。



「あの、そろそろシませんか?」


「ま、待ってくれ。その前に、話がある」


「……やっぱり、私ではダメですか?」


「そうじゃない!!」



 もうここまで来てしまったのだ、俺は腹を括ることにした。



「手を出す以上は責任を取る。……まあ、こういうことは初めてだから、至らないことは多いかも知れないが」


「っ、嬉しいですっ、ルーデルトさん!!」


「じゃあ、その、失礼するぞ」


「はい!! あ、でも初めてなので、その、優しくしてくださいね?」


「あ、ああ!!」



 俺にもう理性はなかった。


 大急ぎでズボンを脱ぎ捨てて、ティルシアをベッドに押し倒す。

 そして、天を衝く勢いでそそり立つ魔剣を見せつけるように構えると、ティルシアは可愛らしい悲鳴を上げた。



「ひゃっ♡」


「ど、どうした?」


「あ、す、すみませんっ♡ その、ルーデルトさんのが、すっごく立派でびっくりしちゃって♡ とってもカッコイイです♡」



 どうしてこのヒロインは男の喜ぶことをピンポイントで言ってくるのか。



「あんっ♡ あっ♡ ルーデルトさんっ♡ 好きですっ♡ 大好きですっ♡ 愛してますっ♡」


「俺もだ、ティルシア!!」


「嬉しいですっ♡ ルーデルトさんっ♡ キスしてくださいっ♡ いっぱい頭ナデナデしてよしよししてくださいっ♡」


「くっ、可愛いすぎる!!」



 俺はただオスの本能に身を任せて、ティルシアを抱いた。


 翌朝になると、ティルシアの俺に対する好感度が『201(依存)』に変化していたことが少し気がかりだが……。


 まあ、細かいことは気にしない!!


 推しに手を出してしまったことは推す者として失格だと思うが、あの状況で断る方が失礼というものだろう。


 こうしてティルシアは、俺の妃となった。











 一方その頃。


 ルーデルトが立ち去った広間では、配下の魔族たちが困惑を隠せずにいた。



「魔王様は一体どうなさったというのだ」


「あの戦争と殺戮を好む魔王様がいきなり人間どもへの攻撃をやめるとは……やはり偽物だったのでは?」


「それはないだろう。あの圧倒的な『闇の力』を放つ御方が何人もいたら困る」



 多くの配下たちが魔王ルーデルトの真意を図りかねていると、一人の魔族が彼らを鼻で笑った。



「はっ、馬鹿どもが。お前らは魔王様の言葉も理解できねーのかよ」


「……どういう意味だ、フェルゥ」



 配下たちの視線を一身に集めたのは、身の丈二メートルはある二足歩行の狼だった。


 狼の名前はフェルゥ。

 魔王軍の中でも獣に近い姿をした獣魔族のみで構成される獣魔軍の軍団長である。


 フェルゥの周囲を小馬鹿にした物言いに他の魔族たちは顔をしかめた。



「どうもこうも、魔王様が仰った通りだろ。今は力を溜める時ってこった」


「し、しかし、オルフガルド王国は長年の戦争で疲弊している!! 今攻撃の手を緩めては勝利が遠退くぞ!!」


「馬鹿が。オルフガルド王国を滅ぼしても、まだアレイシア法国やルーンブルグ帝国が残っている」


「それらは別大陸の国では……ま、まさか!!」


「そうだ。魔王様は大陸のみならず、世界の全てを手に入れるおつもりなのだ。そのためには十分に力を蓄えねばならん」


「……それならオルフガルド王国を滅ぼしてから力を蓄えればいいのではないか?」


「きっとオレたちじゃ想像もできないようなお考えがあるんだろう。オレたちは来るべき時に備えておけばいい。ほら、人間の兵士どもがやってる『クンレン』だったか? をしておけばいい」



 フェルゥの的外れな推測に「なるほど」と納得する魔族たち。


 ルーデルトは知らなかった。


 命令を曲解した配下の魔族たちが軍を増強し、今か今かと戦争を待ちわびて屈強な兵士たちを育成することを。


 これまで戦いの中でしか戦い方を学ばなかった魔族に『訓練』という概念が芽生えたことを。


 この時のルーデルトは、知らなかったのだ。








―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話

作者「最近エッチぃ話は控えた分、リミッター全解除。フルスロットルでイキます」


エッと思ったら★★★ください。


「人類クソすぎる」「積極的なメロン女子、いいよね」「作者がリミッター外してて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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