「ヒカリコ」
モズ
プロローグ
1枚の絵がある。
一人の女性の胸像が描かれた肖像画。
艷やかな黒髪。吸い込まれそうな大きな瞳。真紅の唇、白い衣。一見どこにでもあるような肖像画—のはずだった。
月明かりがキャンバスを撫でるたび、絵の中の女がわずかに呼吸しているように見える。
絵と向かい合うように、古びた木製の椅子が一脚。
そこに座る一人の男の胸元は、真紅に染まっていた。
荒い息、震える指。
男はうわ言のように呟く。
「この絵は…ヒカリコは…ヒカリコだけは…誰にも渡さない。」
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