レンタルつよいひと、ご利用ありがとうございます!

ユーキノクターン

0階 はじめての。

初依頼

「依頼⋯⋯来ないな⋯⋯」


志田しだ美月みつき、17歳。


スマホ画面には自身が運営するサイト、【レンタルつよいひと】の大きなロゴが映っている。趣味の料理に必要な道具にもっと力を入れるため、バイトを始めようと思い立ち、ネットで「自分の特技をお金にしよう!」という記事を見つけたので、作り方をUTubeを見ながらサイトを開設した。


料金設定がよく分からなかったため、現在は最寄りの東岸和田駅から往復の交通費+1000円で依頼を受けている。


開設から2週間が経ったが、依頼はまだゼロ。閲覧者数もわずか3人。もともとは料金を10000円から設定していた。


ページのデザインを変えるか、あるいは普通のバイトに切り替えるかと考えていたその時だった。


ぴろりん


美月のスマホが鳴った。友達も恋人もいない彼女のスマホに突然の着信。確認してみると、


〚明日、コラボ配信をしたいです!天王寺駅集合でお願いします!私のチャンネルのURLを貼っておきます!〛


【レンタルつよいひと】のサイトに初めての依頼メールが来た。どうやらUTuberのようだ。


配信経験がないため不安ではあったが、初めてのお仕事は断れなかった。URLを開くと、ページが飛んだ先は――


【ひまりんダンジョンちゃんねる】


「これっ⋯⋯七瀬さんの?!」


美月は思わず大きな声を出してしまった。


ひまりん――七瀬ななせ陽鞠ひまりは同じ高校、同じクラスの同級生。明るく元気な性格と可憐な容姿でクラスでも人気者。射撃能力に秀でており、学校以外ではダンジョン配信者としてティーンの若者たち、ひいては本職のダンジョン調査員も参考にしていることがある。


つまり彼女は陽キャだ。


美月は混乱した。どうして自分だと分かったのか、あるいは偶然なのか。偶然だとしたら、なぜ無名の【レンタルつよいひと】をコラボ相手に選んだのか。美月だと分かっていたなら、どうして正反対の陰キャの自分なのか。何も分からないまま、初仕事の依頼を引き受けた。


翌日――天王寺駅東口


「えっと⋯⋯同じクラスの志田さんだよね?」

「はい⋯⋯」

「それで志田さんが【レンタルつよいひと】で、私から依頼が来たんだよね?」

「はい⋯⋯」

「私からの依頼って、チャンネルのURLが送られてきただけだよね?」

「はい⋯⋯」


天王寺駅に到着すると、確かに七瀬陽鞠がいて、せっかく配信準備をしていた。緊張しながら「おはようございます、レンタルつよいひとです」と丁寧に挨拶したが、「なんですかそれ?」というような顔で見られてしまった。どうやら誰かのいたずらだったようだ。


美月は本人確認の徹底を心掛けようと決めた。


「すいませんでした⋯⋯あの、もう帰るんで、配信頑張ってくださいね」

「ちょっと待って!⋯⋯そのいたずら、面白そうじゃない?」

「え?」


早く逃げたいという気持ちでそそくさと帰ろうとしたが、陽鞠に呼び止められてしまった。


今日はソロの予定だったが、ゲリラでコラボ配信をするのも面白そうなので、せっかくだから【レンタルつよいひと】の実力を見せてもらおう。という提案だった。


「そしたら【レンタルつよいひと】の広告にもなるし、ね?いいでしょ?」


陽鞠がかわいく押してくる。陰キャには明るすぎる光だった。


「は、はい、頑張ります⋯⋯」

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