第20話 依頼
王都から北へ三日の行程にある直轄領。
肥沃な穀倉地帯は、かつて王国の食糧庫と呼ばれていた。
だが今、その地は魔物の群れに脅かされていた。
畑は荒れ、収穫は滞り、農民たちは怯えて家に籠もる。
王国の食糧供給にまで影響が出始めていた。
「このままでは冬を越せません……」
領主代理の老爺は、震える声で王都に救援を求めた。
王都ギルド本部の依頼掲示板に貼られた一枚の文書が、
冒険者たちの視線を集めていた。
【特級任務】
王女セリア、侯爵令嬢リュシア、伯爵令嬢イザベルによる直轄領調査任務。
同行者として、冒険者カイを指名する。他の者の参加は不要。
「……カイ?あの“勇者の所で冷や飯を食わされてた”っていう?」
「最近、頭角を現してきたが、それにしても王女直々の指名とは……」
ざわめくギルドの中、俺は静かに受付へと歩み寄った。
「身に余る光栄ですが、本当に俺などでいいんでしょうか?」
受付嬢は柔らかく微笑む。
「はい。直轄領の拠点にて、三名の令嬢がお待ちです」
俺は頷き、黒い短剣を腰に収めた。
──これは使える。王女、魔導士令嬢、騎士令嬢。
平民でも知っているような有名どころが、俺を指名した。
勇者の口癖は“神に選ばれた”だったが、どうやら俺は国に選ばれつつあるらしい。
口元に浮かびかけた笑みを、俺は咳払いで誤魔化した。
直轄領の館に着くと、三人の令嬢が俺を迎えてくれた。
まず現れたのは、王女セリア。
金糸のような髪が揺れ、気品と威厳を纏った瞳が俺を射抜く。
「あなたがカイね。廷臣のあいだでも評判よ。民を守るため、力を貸してほしい。あと公の場以外では敬語は不要よ」
次に、名門魔導士の侯爵令嬢リュシア。
銀の髪を肩に流し、冷静な瞳で地図を広げる。
「魔物の出現は自然現象ではありません。瘴気の流れが偏向しているのです。魔力を剣に纏わせられるあなたなら、発生源を絶てるかもしれない」
最後に、武門の家柄に生まれた伯爵令嬢イザベル。
長剣を背に、凛とした声で言い切った。
「噂の男だな。その腕前、見せてもらうぞ。そして共に民を守ろうではないか」
俺は一歩下がり、深く頭を下げた。
「皆様のような高貴な方々と肩を並べるなど、恐れ多い限りです。俺はただの冒険者に過ぎませんが、微力ながら尽力いたします」
頭を垂れる仕草の裏で、胸の奥では黒い炎が静かに燃えていた。
──いい女たちだ。利用価値は計り知れん……ここで力を示しておくべきだな。
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