最強なのにツッコミが止まらない!? 異世界でも常識人は苦労します

Ruka

理不尽だらけの村編

第1話 転生したら説明が雑すぎた件

「はーい! おめでとうございますっ!」


目の前で金髪の女神がクラッカーを鳴らした。

キラキラ笑顔。テンションは深夜通販レベル。


「当選おめでとうございます! あなた、異世界行きです!」


「……いや、当たった覚えないんですけど!?」


俺――リク。

ブラック企業に潰された元社畜(享年26)。

気づいたら真っ白な空間で、天使コスプレのテンション女が目の前にいた。


「選ばれし勇者様、あなたの魂は高潔で、まっすぐで、ちょっとツッコミ気質!」


「最後いらねぇだろ!」


「そんなあなたには、最強スキル《理不尽訂正》をプレゼント!」


「なんか響き地味じゃない!?」


「いえいえ、超強力です! 理不尽を“ツッコミ”ひとつで修正できるんです!」


「いや意味わかんないですけど!?」


「百聞は一見にしかず! では、いってらっしゃーい!」


「ちょ、説明!!」


ズボォッ! 床が抜けた。

……物理的に。



落下。風。叫び。


「ぎゃあああああ!!!」


ドンッ!


地面に叩きつけられた俺の口から、悲鳴とともに理不尽があふれ出す。


「クッションとか用意しとけよ女神ぁぁぁぁ!!!」


――パァンッ!!


地面がふわふわの草原に変わった。

え、今の……ツッコミで環境修正?


【スキル発動:理不尽訂正】


「……マジかよ」


とりあえず立ち上がると、見渡す限りの青空と草原。

遠くには村っぽい建物。

そしてなぜか、近くの木に“なにか”が吊るされていた。


【ようこそ勇者様! 自己責任でがんばれ!】


「案内雑っっ!!」


――パァン!

看板の文字が書き変わった。


【がんばれ♡】


「悪化してるぅぅぅ!!」



「おおっ! 空から人が落ちてきたぞ!!」


声がした。村の男たちが、鍬を持って駆けてくる。


「神の使いか!? とりあえず焼こう!」


「いや落ち着けぇぇぇ!!」


――パァン!

火が勝手に消える。


「……おぉ、奇跡だ!」

「もっと焼こう!」


「お前らどんだけ焼きたいんだよ!!」


俺の絶叫で、たいまつが全員分消えた。


「うわっ、マジで理不尽修正されてる……」


これはもしかして、本当にチートスキルなのかもしれない。

ただ――方向性が完全にコメディだ。



「……はぁ。せめて案内人とかいればな」


「お待たせしましたーっ!」


声がした。振り向くと、金髪の少女が走ってきた。

ローブをひらひらさせ、笑顔で手を振っている。


「あなたが勇者様ですね! 聖女アリシアです!」


「おぉ……ようやくまともな人が!」


「はい! とりあえず殴りますね!」


「なにその導入ぅぅぅ!!」


バコォッ!


俺は光の拳で地面にめり込んだ。


「えっ、今の攻撃じゃないですよ? 挨拶です!」


「この世界、会話の定義から崩壊してる!!」


スキルが勝手に発動し、地面がふつうに戻る。

アリシアは満面の笑みを浮かべて言った。


「さあ勇者様! 一緒に魔王を殴りに行きましょう!」


「いや打ち合わせとか段取りとかないの!?」


「ありません!」


「笑顔で断言すんな!!」


――こうして俺は、常識が滅びた世界に放り込まれた。

今日もツッコミが止まらない。

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