村編
第八話 天使の国の西
天使の国のすぐ西には、森の中で数十人が住む小さな村がある。その集会所で、ルーシュは汚れたズボンを新しいものに代えてもらった。
「ありがとう、おばさん」
「いいえ。うちの息子のが合ってよかったわ」
中年の女はそう言うと、金色の目を優しく細める。温かいランタンの光で、彼女達の目は琥珀のように優しく煌めいている。
集会所では、盗賊に撃たれた矢で怪我をした男達の手当てもされていた。それから、亡霊に眠らされてしまった男達はベッドに運ばれた。
「ねえ、あの人達は大丈夫なの? ちゃんと起きる?」
「長くても三日あればちゃんと目を覚ますわ」
「そっか……」
けれども心配で、ルーシュは彼らが運ばれていった方を見つめていた。
「で、お前は何であんな場所にいたんだ。屋根のある場所を求めてか?」
落ち着いてから、集会所の真ん中に座った先程のリーダーがルーシュに聞く。特に怪しんでいるとかではなく、気になっただけのようだ。
「友達を探してたんだ」
「友達?」
「うん」
知らない場所で落ち着かないのか、ハクマはしきりにルーシュの周りをぐるぐると回っている。ルーシュは安心させようと、床に座ると腕を広げてハクマを抱きしめた。
「えっと、最近知り合ったんだけど、天使の国で暮らしてて」
「天使の国で暮らしてる⁉︎」
リーダーの他、ざわざわと周りの男達も騒ぐ。彼らにとって亡霊はよっぽど恐ろしいのだろうか。
「それは本当なのか?」
「うん。でもミシェルはずっとそこにいるから、多分……大丈夫だと思う。亡霊の話、されたことなかったけど」
「そりゃあお前、お前……名前何ていうんだ? 俺はギルアだが」
リーダーが言う。名前に似合う怖い顔だが、今は話しているのもあってか少しだけ優しげだ。
「あ、ぼくはルーシュ。それでこの子はハクマ」
「そうか、よろしくな。で、亡霊の話だが、ミシェルがお前に言わなかったのは単に怖がらせると思ったからじゃねえか? それか、亡霊に怒られない理由があったとかだな」
「怒られない理由……」
ルーシュは考えてすぐに分かった。ミシェルは天使だ。亡霊が人間の侵入をよく思わないのなら、天使である彼が眠らされないのも分かる。もしかすると彼が「待っていろ」と言ったのはルーシュが眠らされる可能性があったからかもしれない。
「ミシェルは亡霊のこと知ってたのかな」
「当たりめぇだよ」
ギルアの仲間が言う。
「あそこに行くやつはみーんな知ってる。大昔からそうだ。雨の日は亡霊が出る。天使の国に入ってくる余所者を眠らせて追い出す為にな」
「晴れてる日は出ないの?」
「さあ。晴れてる日にあそこに行く奴はあんまりいねぇからよ」
「ああ、俺達が天使の国に行くのも石を集める時だけだ。……大体はな。ま、石は生活に困った時にちょっと貰う程度なんだが」
その言葉に、ルーシュは少しだけ警戒を解いた。盗みをしている悪党だと彼は思っていたが、極悪人ではなかったらしい。
それに、ここに来てからルーシュには一つ気になっていることがあった。
「あのさ、おじさん達の目の色、みんな金色だよね。もしかして、本に書いてあった天使に似た人間達っておじさん達のこと?」
「本に書いてあったのか。……まあ、お前の言う通りだな。俺達がその人間で間違いないだろう。天使と同じ瞳の色をした人間はそういない」
こくんとルーシュは頷く。
「ねえ、いつからこの森に住んでるの? 本の字はちょっと掠れてて、そういう人達がいること以外よく読めなかったんだ」
「そうなのか。じゃあ話してやろう。昔々に遡ってな」
ギルアはそう言うと、一つ小さく息を吸った。
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