第2話

ピンポーン、と軽快なチャイムが鳴る。


オートロックのモニターに映るのは、宅配便のお兄さん。

「はーい」

気怠く返事をして、ドアを開ける。


受け取ったのは、ずっしりと重いダンボール。

差出人は、さっき別れたばかりの「社長」。


『課題、頑張ってね』

メッセージカードには、丸っこい文字が並んでる。


ダンボールを開けると、中には最新モデルのノートパソコン。

それから、有名ブランドの化粧品がぎっしり。


「……うわ」


思わず声が漏れる。

値段を計算するより先に、私はスマホを構えた。


部屋の一番明るい場所に、商品を綺麗に並べて。

アングルを変えながら、何枚も、何枚も写真を撮る。


うん、これかな。


インスタのアプリを開いて、一番盛れた写真を選ぶ。

フィルターをかけて、キラキラのエフェクトを追加して。


キャプションを打ち込む。


---

**ria_gram**


[画像:ノートパソコンと化粧品が綺麗に並べられた写真]


いつもお世話になってる方から、素敵なプレゼントを頂いちゃいました🎁✨

これで課題も頑張れるっ💪🔥

いつも本当にありがとうございます😭💖


#プレゼント #贈り物 #サプライズ #dior #macbook #自分磨き #美容好きな人と繋がりたい #大学生の日常 #感謝

---


投稿ボタンを押して、数秒。

ピコン、ピコン、と通知が鳴り始める。


『え、すご! 彼氏さん?』

『莉愛ちゃん愛されてる〜😍』

『パソコンの色可愛い! おそろっちしたい!』

『どこのブランドですか?』


コメント欄に並ぶ、羨望と賞賛の言葉。

いいねの数が、どんどん増えていく。


10……50……100……。


「……よし」


この数字が、私の価値。

この数字が、私の存在証明。


スマホを置いて、ベッドにごろんと寝転がる。

腕を上げると、白い手首に走る、何本もの線が目に入った。


古い傷。

新しい傷。

ファンデーションでも隠しきれない、私の本当の姿。


さっきまでの高揚感が、嘘みたいに消えていく。

広い部屋に、たった一人。

シーンと静まり返った部屋で、通知の音だけが虚しく響いてる。


プレゼントの山を見つめる。

パソコンも、コスメも、全部、私が「欲しい」って言ったもの。


なのに。

どうして。


心の真ん中に、ぽっかりと穴が空いたみたいだ。

何を手に入れても、何で埋めても、ぜんぜん満たされない。


寂しい、なんて。

今さら、誰にも言えないのに。


手首の傷を、ぎゅっと、反対の手で握りしめた。

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