第4話 ぶっちぎれ、初レース!④

 アカリがぶっちぎりでゴールした後、フレアとノイの二人がゴールへ到達した。一方で相手チームは、まだ大結晶のそばを抜けたばかり。


 フレアは着地するなり、アカリに駆け寄って笑顔を見せた。


「お前、今まで見た中で一番速えわ!」


「その速さに合わせてドローン改良するの、結構きついかも」


 ノイもアカリのもとへ歩きながら、シールドドローンの挙動を確認している。


「つーか、勝ったなアタシら!」


 そう言われ、アカリは勝とうとしていたことをいまさら思い出した。


「あ、そっか! 勝ったんだ! いえーい、大勝利!」


 アカリはフレアと拳を突き合わせ、突き合わせてくれなかったノイの肩を小突いたら、シールドドローンたちが鳥のように襲い掛かってきた。


「痛い痛い、怖い怖い!」


 カラスに襲われたときの記憶がよみがえる。


 三人でじゃれあっていると、相手チームが遅れてゴールした。悔しがることすら忘れ、唖然としている。


 しかしアカリには、そんな呆けた顔などどうでもよくなっていた。嫌な奴に勝った、それ以上の気持ちで溢れている。


 しばらくして勝利の興奮が落ち着いてきたとき、期待するような表情のフレアが、顔を覗き込んできた。


「ンで、どうだった?」


「最高に楽しかった!」


「なら、正式に飛び手になってみねえか? お前となら、本気で優勝目指せそうだからな」


「なるなる!」


 アカリは即答し……気になっていたことを思い出した。


「そういえば、なんで三人目がいなかったの?」


 欠員の穴埋めと聞いて、本来のメンバーは用事ができて来られなかっただけだと、勝手に思っていた。


 正式にスカウトされたということは、三人目は飛び手を辞めたということだ。


 アカリの質問に、フレアは言いづらそうに頭を掻いた。


「あー……あいつはよその学校に引き抜かれちまったんだよ」


「そこまでするのかー」


 アカリは驚いた。


 学校対抗レースにおける引き抜きは、言うまでもなく、チームが変わるだけではない。今までの学校生活と別れ、転校しなければならないのだ。


 それでも移籍したということは、それだけ向こうの学校が熱心だったか、本人の覚悟が強かったかのどちらかだろうと思う。


「レースは七年に一度の超重要な行事だからな。なにがなんでもって奴らもいんだよ。ったく、魔女としてのプライドはないのかね?」


「どの口が言ってんの?」


 フレアは他人事のように言ってのけるが、アカリにとってはまさに自分事だった。


 罠を仕掛けてまで飛び手を確保した奴らは、どこのどいつだったろうか。


 さておき、そんな飛び手のことが気になっていたところ、察したようにノイが軽く紹介してくれた。


「速さは劣るけど、導き手としては彼女の方が上だろうね。魔法の腕も、狡猾さも」


 飛ぶことしか取り柄のないアカリは、ちょっとグサッときた。狡猾さと言えば聞こえが悪いが、要するに勝つためにあれこれ考える頭のことだ。


「そんなにすごい人だったんだ。面識あるかな……」


死霊魔術師ネクロマンサーの、見たことねえか?」


「あー、うっすら見覚えがある……かも」


 顔ははっきりと覚えていないが、死霊魔術師がいたのは覚えている。フォルティ魔女学校のような落ちこぼれや変人しかいないところに、歴史のある死霊魔術を扱う魔女がいたのは珍しかったからだ。


「じゃあその子が、対戦相手になるかもしれないんだね」


「そうならねえことを祈るわ……」


 フレアがげんなりしていると、相手チームが神妙な顔で歩いてきた。


「完全にわたしたちの負けね。正直、侮ってたわ。色々言ってごめんなさい」


「いいっていいって。ほら、健闘を称え合う握手!」


「調子いいわね、あなた……」


 勝ったからではなく、楽しかったから上機嫌なアカリは、相手チームの三人と握手していく。


 そして握手を終えたのと同時に、アカリの腹の音が鳴った。


「だって力いっぱい飛んだんだもん!」


 恥じる様子もなく、言ってのける。


「じゃあ、打ち上げといきな。ルセト・ユスティの子らもね」


 先生は言いながら、ピザの箱を手で示す。Lサイズのピザが二枚だった理由が分かった。


 しかし、相手三人は躊躇っている。


「ええと、手づかみ……なのよね? なんというか、我が校の威厳が……」


「ですが、好意を無下にしては……」


「いいじゃないか、ちょっとくらいはしたなくなっても」


 うーむ、としばらく悩んで……。


「じゃあ、お言葉に甘えるわ。正直、ちょっと興味あったのよね。みんなには内緒よ?」


 敵味方交じっての打ち上げだ。


 アカリがウキウキで箱を開けると、そこには片寄ったピザがいた。


「いったい、誰がこんなことを……」


「お前だろ。どの口が言ってんだ」


 どうあがいても、現実は変わらないらしい。


「まあ、味は一級品だから期待してて!」


 みんなで一切れずつ手に取り、口に運ぶ。


 トマトソースに、チーズとサラミとパイナップが主な具材だ。パイナップルの酸味がトマトソースの酸味とは違った爽やかさを感じさせ、ほのかな甘味がピザのしょっぱさを引き立てている。


 疲れたときに食べると、これまた美味しい。


 ただ、人を選ぶ。


「食ってみたら意外といけんじゃねえか、パイナップル」


「でしょ?」


 思ったより好評で嬉しい。


 いつの間にか会話は弾み、話題は今回のレースにまで及んだ。


「いやあ、初級魔法じゃないの使われてたら、たぶん勝ててなかったよ」


「手の内を見せるなって言われてるから、そこは仕方ないわね」


 本気で戦えば、どんなレースになるのやら。思いっきり速く飛ぶだけでなく、レース自体にも興味が湧いてきた。


「ふふふ、でもこの調子だと、ステラ・ウィッチの称号もすぐそこだね。本戦でも負けるつもりはないよ」


 真正面から勝ってやると宣言する。


 だが調子に乗るアカリに、相手チームは気の毒そうな顔を向けた。


「あー……この子、わたしたちのこと知らないの?」


 そして助けを求めるように、フレアに尋ねる。


 何の話だか分からないアカリに、フレアは衝撃の事実を伝えた。


「こいつらが一軍なわけねえだろ」


「え……まさか、二軍?」


 気まずい沈黙がピザを冷ました。


 本気を出されればどうなることやら……と思っていたのに、相手は一軍ではなかった。


 だが衝撃の事実は、まだ続いていた。


「エリート校の二軍が、落ちこぼれのアタシらの練習に付き合ってくれると思うか?」


「じゃあ……三軍……なの?」


「四軍だ」


「三軍ですらない!」


 驚きすぎてピザを落としかけた。


「じゃあ一軍はどれだけ速いの?」


 恐れおののきながら尋ねる。


「エレノアお姉さまはね――」


「あの子なら、そろそろゴールするよ」


 先生の視線の先に、凄まじい勢いで飛んでくる白い魔女がいた。


「この子たちの引率だったんだけどね、アカリのこと見て、飛びたくなったんだと」


 その魔女は一瞬で目の前を通り過ぎ、後を追う風が髪を暴れさせた。


「は、はや……」

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