第3話 縄文の扉 〜The Bonds of Hearts〜


二つ目の扉の間に足を踏み入れた瞬間、一行は息を呑んだ。

巨大な石扉は無数の湿った縄で覆われ、脈打つようにうねっている。

空気は生温かく、胸の奥をざらりと撫でるようだった。


「…気味悪いな」

チェストが眉をひそめる。


ミルクが挑発的に笑った。

「アンタ、怖いの?情けないわね」


「誰が言ってんだ!」

二人が言い合うその瞬間、縄が動き出した。


「来るぞっ!」

パイタロウの声と同時に、縄が四方八方から飛びかかる。

風を切る音が連続し、顔をかすめ、尻を打ち、胸に当たる。


「うわっ、速ぇ!防ぎきれねぇ!」

チェストが短剣を抜く。

「疾風・残影輪舞斬!」

残像が円舞のように舞う。


マローネが杖を構える。

「我が内に眠る紅蓮の炎よ、いま解き放て。フレア・インフェルノ!」


炎が広間を照らす。

だが、縄はそれを吸い込むように呑み込み、逆に太く、重く、粘液のような質感を帯びていった。


「な、なんだ!? 効いてない!?」

「むしろ強くなってる!」

マローネが叫ぶ。


グラマラスが拳を叩きつける。

「なら拳で砕くまでよ!ギガ・インパクト!」


轟音が響き、拳が縄を吹き飛ばす。

だが次の瞬間、縄は跳ね返り、彼女の豊満な胸を弾き飛ばした。

「うそだろ……どんな攻撃も通じねぇのか!?」 


パイタロウが歯を食いしばる。

「くそっ…俺たちの怒りや焦り、不安や恐怖がこの縄を強くしてる!」


空気が重くなる。湿った縄の臭いが肺を満たし、まるで心まで縛られるようだった。


だが、その中でミルクだけは顔を上げて笑った。

「だからって怖がることなんてないわ。私のこの大きなおっぱいと白魔法は世界で一番美しいんだから!」


彼女は豊満な胸を張り、誇らしげに杖を掲げた。 


「このおっぱいの美しさに、闇なんて耐えられない!」


白い光が広間に溢れる。


「祈りは我が胸に、愛は我が杖に。光よ、再び目覚めよ!ホーリー・レイッ!!」


魔法が放たれ、純白の光線が降り注ぐ。

だが縄はその光を吸収し、さらに粘り気を増していった。


「えっ…こんなに綺麗なのに…どうして通じないの!?」

ミルクは焦り、さらに魔法を放つ。


「ホーリー・スフィア!ホーリー・バースト!!」

光の奔流が渦を巻くが、縄はそれを飲み込み、とろみと湿りを増して襲いかかる。


「ミルク、やめろ!」

チェストが叫ぶ。


「うるさいわねっ! 私の光が一番綺麗なの!私の力で、みんなを守るんだから!」


ヌメヌメと粘つく縄がさらにミルクを狙い、輝きを吸い上げるようにミルクの胸元にジワリと巻きついていく。


「っ…どうして…なんで効かないのよ…!」

ついにミルクは杖を落とした。


涙が頬を伝い、震える声が漏れる。


「私…こんなに頑張ってるのに…誰よりも綺麗に輝けると思ってたのに!」


その姿を見た仲間たちが、一斉に前へ出た。


パイタロウがミルクに近づき、大きな剣を足元に置いた。

「ミルク、綺麗なのは君の“心”の光だ」


マローネが優しく微笑む。

「あなたが誰かを癒やしたいと思う、その優しさこそが本当の美しさなの」


チェストが肩をすくめる。

「お前のバカみたいに笑う顔のほうが、どんな魔法よりも眩しいっつうの‼︎」


グラマラスが拳を握る。

「外の光じゃなく、胸の中の光で戦え!」


ミルクの目から涙がこぼれ落ちる。

「…そんなこと言われたら…信じるしかないじゃない…!」


その瞬間、彼女の胸から柔らかな光が溢れた。

それはどんな魔法よりも温かく、優しい光。

仲間たちの鼓動と同じ色。


「これが…私の本当の光…」

光は仲間たちの胸にも伝わり、五人の鼓動が重なった。

金色の輝きが渦を巻き、縄が震える。


「感じる…みんなの心が重なってる!」


風が渦を巻き、光とともに舞い上がる。

それはまるで、世界そのものが息を吹き返すようだった。


パイタロウが剣を拾い上げ掲げた。

「絆の力で断ち切るんだ!」


ミルクが叫ぶ。

「愛の光よ、みんなを包んで解き放て!」


黄金の閃光がパイタロウの剣に集中した。




仲間たちの想いが光となって刃を包む。




パイタロウは縄へ向かって全身全霊で剣を振り下ろした。




「おおおおおおっっ!!!」




黄金の波が広間を飲み込み、絡みついていた縄が、光の粒となって消え、静寂が訪れる。





冷たい空気が春のような温もりに変わっていった。

ミルクが胸に手を当て、涙を拭った。

「綺麗に見せようとするより…綺麗な心でいればよかったのね」


パイタロウが笑う。

「ミルクが俺たちを救ったんだよ」


マローネが頷く。

「光は奪うものじゃなく、分かち合うものよ」


ミルクの頬にはまだ涙の跡が残っていたが、その笑顔は誰よりも強く、柔らかく輝いていた。


天井の奥から柔らかな声が響いた。

「よくぞ縄文を乗り越えた。そなたらに、“真の絆”を授けよう」


黄金の粒が舞い降り、五人の胸に吸い込まれていく。

心臓の鼓動がひとつに重なり、光の環が彼らを包んだ。

その温もりは確かな約束のように、次の扉へと導いていた。

こうしてパイタロウたちは、合体技を修得した。

胸に宿る絆を感じながら、一行は最後の試練、「超越の扉」へと歩を進めた。

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