Mr.Children Diary ―今日までの歩み―

竹内昴

プロローグ:白紙のページ

黒い画面に白い日付だけが浮かぶ夢を、いまも時々見る。

インクが滲む前、紙はかすかな光を放っている。ページの端では風がめくれようとして、まだ躊躇している。僕はその風を指先でつまむようにして、そっと最初の一行を書く。


1992年5月10日。はじまりは、音だった。

それは誰のものでもない呼吸で、でも誰かに届くことを密かに願う呼吸だった。


狭いスタジオ。壁に貼られた吸音材は剥がれかけ、ケーブルが床で絡む。ドアの向こうは朝。僕らは夜から続く時間の中で、朝を録音した。声はまだ若く、言葉は拙く、けれど、迷いの輪郭はいつまでも美しかった。


「行こうか」


その合図は、いつもリズムより少しだけ早く来る。ギターの弦が空気を切り、スネアが小さく祈る。マイクのポップガードが僕の息をたぐり寄せ、部屋の隅に置いた古い扇風機が止まる。準備はできていた。準備なんていらないくらいに。


ページがめくれる。

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