生贄にされた俺、追放令嬢と堕ちた聖女を拾って最強復讐パーティを作る

妙原奇天/KITEN Myohara

第1話 生贄、捨てられる

 ――俺たちのクラスが異世界に召喚されたのは、五時間目の途中だった。


 教室の窓が光り、床に魔法陣が浮かび上がる。

 何が起きたのか分からないまま、俺たちは光に呑まれた。


 次に目を開けた時、そこは巨大な神殿だった。

 高い天井、金色に輝く柱、空中に浮かぶ魔法文字。

 絵本の中でしか見ない“異世界”が、本当に目の前に広がっていた。


 「うわ、マジで召喚だ!」「チートスキルくるやつだ!」

 興奮する声があちこちから上がる。

 クラスの中心にいる勇者タイプの高城蓮は、早くも剣を構えポーズを決めていた。


 ――だが、その熱狂は一瞬で終わった。


 祭壇の上に立つ神官が、淡々と告げたのだ。


 「召喚の安定のため、“生贄”が一名、必要です」


 空気が止まる。

 鳥の羽音さえしない静寂。

 俺はその意味を理解できずに、ただ周囲を見回した。


 ……そして気づいた。

 全員の視線が、俺に集まっていることに。


 「……え?」


 誰も何も言わない。けれど、空気がすべてを語っていた。

 俺――篠原春斗(しのはらはると)は、運動も勉強も平凡。

 ゲームやラノベの話ばかりして、クラスでは“地味で目立たないやつ”だった。


 その俺が今、みんなの“犠牲枠”として選ばれた。


 神官が、俺の前に光る水晶を差し出す。

 ステータスが自動的に浮かび上がった。

 【魔力:0】【適正職業:なし】


 周囲の生徒たちがざわつく。


 「……ゼロ?」「適性なしってマジかよ」「こいつ、役に立たねー」

 笑い声が広がる。

 そして高城蓮が、勇者の剣を握りしめながら言った。


 「悪い、春斗。お前が生贄になれば、みんな助かるらしい」


 「は?」

 俺の喉が乾く。理解が追いつかない。


 「魔法陣が暴走してるんだと。ひとりの犠牲で全員の命が助かるなら、それが正解だろ?」


 「そんな勝手な……!」


 叫んだ俺の腕を、誰かが掴んだ。

 幼なじみの美咲だった。泣きそうな顔で、俺を見上げてくる。


 「……ごめん、春斗。私、怖いの。死ぬの、イヤなの……」


 その言葉と同時に、床の魔法陣が赤く光り出した。

 神官が詠唱を始め、蓮が顔を背ける。

 クラス全員が俺から目を逸らした。


 「やめろ――ッ!!!」


 俺の叫びは、炎の轟音にかき消された。

 視界が焼け、痛みが全身を貫く。

 光が弾け、世界が反転した。


 ――俺は、生贄にされたのだ。


◇ ◇ ◇


 どれほど時間が経ったのか分からない。

 熱くも、冷たくもない。

 ただ、無音と無重力の中を漂っていた。


 “死んだのか?”と思ったそのとき。


 「……まだ、生きてる?」


 声がした。

 女の声。それも、やけに凛とした響き。


 瞼を開けると、闇の中に金色の髪が揺れていた。

 紅の瞳。裂けたドレス。けれど背筋は真っ直ぐだった。


 「……あんたは?」


 「リュシア・ヴェルディア。元・公爵令嬢。婚約破棄され、断罪されてここに落ちたわ」


 「断罪……?」


 「“悪役令嬢”ってやつよ。王太子に裏切られたお飾り。

 正義を語る愚民どもに処刑されて、ようやく静かになったの」


 彼女の隣には、もうひとりの女が立っていた。

 白い法衣を汚し、手にはひび割れた聖印を握っている。


 「私はミリア。元・聖女。……神を疑ったら、堕とされたの」


 聖女と悪役令嬢。

 異世界ものの定番みたいな二人が、なぜ俺の前にいるのか。


 俺は辺りを見回した。

 空は黒く、地面は灰のようで、風すら吹かない。

 まるで世界そのものが死んでいるようだった。


 リュシアが静かに言う。

 「ここは〈虚無界〉。神に捨てられた者だけが辿り着く、世界の底よ」


 「神に……捨てられた?」


 「ええ。あなたも、そうでしょう?」


 その言葉に、胸が痛んだ。

 俺は殺された。仲間に、生贄として。

 “神の意思”とやらに利用されて。


 ――だったら、神も、仲間も、全部間違ってる。


 「……あいつら、後悔させてやる」


 自分でも驚くほど、声は冷たかった。

 リュシアが笑う。美しく、どこか壊れた笑みで。


 「いいわね、その顔。

  私も同じことを考えていたところよ。王国も、貴族も、全部焼き払いたい」


 ミリアが手を胸に当て、囁く。

 「祈りはもう届かない。でも、復讐なら届くかもしれない」


 三人の視線が交わる。

 誰も何も言わない。けれど、心の奥で同じ誓いを立てていた。


 ――ここで終わりではない。ここから始める。


 俺は拳を握りしめた。

 リュシアが懐から黒い石を取り出す。

 「この虚無石、願えば力をくれる。でも、代償は“魂”。それでも?」


 「構わない」

 即答だった。

 生き延びるためじゃない。復讐のために、生きる。


 ミリアが指先で光を描く。

 その光は血のように赤く、三人の胸に刻まれた。


 ――〈契約〉。


 “虚無の徒”の名のもとに、三つの魂が結ばれた。


 リュシアが微笑み、手を差し出す。

 「ようこそ、世界の底へ。これが、私たちの始まりよ」


 俺はその手を握り返す。

 「行こう。神にも、王にも、勇者にも――復讐を」


 虚無の空に、黒い雷が走った。

 死んだ世界が、微かに脈動する。

 そして俺の胸に、確かに感じた。

 “力”が、流れ込んでくるのを。


 それは、神に見放された者だけが得られる――逆の祝福。


 俺は、生贄では終わらない。

 ここから、世界を壊す。


(第1話・完)

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