第24話パーティー

「ゲニウスお待たせ」

私は待ち合わせ場所である図書館前でゲニウスと合流した。

「お、おう……まぁ待ってないけど」

ゲニウスは少しもじもじしていた。

(自分に自信がないのか……。もう少し堂々としていれば格好がついてくるのに。)

ゲニウスは深い緑のドレスを着ていて、いつも彼に足りていない気品を感じやすくとても好感が持てる見た目をしている。

「そのジロジロと品定めするような目をやめろ……えーこほん。美しいレディパーティー会場へ向かいましょう」

「ふふ、えぇよろしくね。」


ゲニウスの慣れないエスコートで私たちは会場に着いた。大きい扉を潜ると羽織っていたローブが消えていく。私は瞬く間にドレス姿となっていた。

「すっげぇ魔法だな。………っ!」

「どうしたのゲニウス?」

私の方を見た瞬間口を手で覆った。

「いや、すまん。見惚れてた。」

「………あぁ。うん、ありがと。」

(今日のゲニウスは少し変だ。いつもより、お世辞が上手……。)

「それじゃあ行くぞ」

ホールに入るとそこはキラキラと輝いていた。でも、想像よりも少し、いや大分静かだった。私は隣を歩くゲニウスに小声で聞いた。

「パーティーってもう少し賑やかなものなんじゃないの?」

「……リト………俺はとても悲しく思う。」

「それ、回答になってる?」

「もういいよ。ほら主役様たちの登場だ。」

そう言われて、自分の歩いてきた方向を見る。第一王子と王女がパートナーとして入場してきたようだ。その後ろにはもう一人の王女とシオルがいた。

「あぁなんと美しい」

「えぇ特にラビー様とても愛らしいですわ。」

「パートナーであるシオル様もとても美しい。」

周囲の視線を奪っていた。だけどシオルの深い青のドレスに対してピンクと黄色を混ぜたファンシーなドレスはセットで見るとどこか歪だ。しかし、顔の良さと華やかさでそれを打ち消している。流石としか言いようがない。そんな主役様がこっちの方をチラチラと見ている。何かあったのかと思い私は視線を逸らした。

「王族がきたってことは次はダンスだな。お前踊れるのか」

「経験ないけど…練習はしたよ」

「お互い様だから気が楽だ」

音楽がホールにかかろうとした時だった。バンってと大きな音が扉から聞こえた。

「ダズ!間に合ったようですよ!」

「プレッテさん、早い……よぉ。」

「さぁ、踊りましょう。」

その明るい会話に会場の雰囲気は一気に和んでいった。

「あいつらに続くぞ、リト!手を取れ!」

「それがレディへの態度なの、まぁいいけど。」

緊張が解けたのかゲニウスはいつもの調子に戻っていた。


「はぁ楽しかったな、リト!」

「練習の成果が出せて良かった。」

自分でもかなり上手く踊れた気がして少し嬉しくなる。

「でもプレッテや王族方は凄かったなぁ。踊っている途中何回も見入ってしまった。」

パーティーに参加して、ドレスも着て、ダンスも踊った。そんな私が思うことはただ一つ。

(よし、帰ろう!)

「ゲニウス」

「どうした?」

「私帰ろうと思うんだけど」

「だけどリト、この列どうすんの?」

ゲニウスの指の先を見てみると長蛇とも言えない列が出来ていた。

「僕とダンスを踊っていただけますか」

「僕もお願いします。」

「俺も」


(つっかれたぁ、知らない人とのダンスって凄い疲れるし、あのまま抜け出せなかったらと思うと、)

かれこれ一時間くらいダンスを踊った私は休憩すると言って会場の外にある小さな庭に移動した。そこにはベンチと小さな花畑が広がっていた。ベンチに座り空と花畑を眺める。こうしているとどこか遠くに行きたくなる。ガサっと茂みの方から音がした。なにかと思い、凝視しているとクレラゼが後ろから声をかけてきた。

「リトぉ、やっと見つけたぁ」

「クレラゼ!もお、驚かさないでよ。なんでここに居るの?」

「リトをぉ、探してたんだぁ。僕と踊らない?」

「疲れてるけど特別ね。」

立ち上がり会場から聞こえてくる音楽に合わせて踊り出す。

「ねぇ、リト。なんで空を見ていたの」

「昔から空を見るのが好きだったんだよ。なんでそんなこと聞くの?」

「リト、むか〜し空は一人で眺めてのぉ?」

私の質問には答えず、私に質問を続けるクレラゼを叱責できない私は質問に答える。

「ううーん、一人の時も二人の時もそれ以上の時もあったかな。」

「それが誰だったかとか覚えてる?」

この気配は?!気づいた時にはパーティー会場は赤く燃えていた。


一時間と少し前

一回目のダンスが終わった時。その場は拍手に包まれていた。

「とても楽しい時間んでした。アビー皇女。」

「私の方こそ、楽しい時間でした。シオル様あのこの後お話があるのですが」

もじもじとした仕草に可愛らしい上目遣い。昔からアビー様は苦手だ。話はしたくないが俺にも立場がある。

「なんでしょうか」

「き、今日は私以外の女性と踊らないっ」

「シオル様。もしよろしければお次のダンス私と踊ってくださらない?」

(?!……リリィ?これはチャンスかもしれない。)

「ちょっ、ソリタリィ様迷惑で」

「ええ、リリィ様。私でよろしければ是非」

周りの静止の声も聞かずに、トントン拍子に話しをまとめていく。流石の王女も目が点となる始末。

「では失礼します。アビー皇女。」

「あ、まって」

そんな情けない声が聞こえたが無視してリリィをエスコートした。


一曲踊り終えて、声をかけられるうちにバルコニーに逃げ込んだ。

「リリィさっきはありがとう。危うくアビー様に束縛されるところだった。」

「本当っ、私に感謝してほしいですわ。」

「なんで俺に助け舟を?」

当然の疑問だった。リリィには俺に対しての好意もアビーに対しての敵対心も希薄だ。だからこそなぜ俺を助けてくれたのか分からない。

「…………リト、誘わなくて良いんですの?」

「っ………!なぜ俺がリトを?!」

「はぁ……あなた分かりやすすぎですわ。気づいてないのリトとあのお花畑くらいですわよ。入場した時からジロジロとリトを見て、ダンス中も目の前の女性をあんなに蔑ろにして……紳士としてはゲニウス以下ですわ!」

「………そんなに分かりやすかったか?」

「えぇ目がハートでしたわよ。」

「……はぁ、俺はやはりリトが好きなのか」

(始めて彼女を見た時はなんとも思わなかった筈なんだけどなぁ)

「リリィ変なこと聞いていいか。」

「えぇ」

「俺、リトのどこに惚れたのかが、いまいち分からないんだ。だから、今までこの感情になんて名前をつけるべきか悩んでいた。」

「えぇ、あなたがバカなことは分かりましたわ。あちらをご覧になって」

会場の真ん中にはリトと、知らないやつがダンスを踊っていた。その二人を中心に円ができている。自分の苛立つ心情に気づく。

(あぁ、俺の心は狭いな。)

「きっかけも理由も、今一番大切にしたいその感情を掬い取ってあげれば、自ずと分かってくると私は思いますわ。」

「ちょっと行ってくる。リリィ嬢感謝を。」

そうして俺は会場に戻ったが彼女の姿が見当たらない。

(どこに行ったんだろう。探しても探しても見つからない。)

「シオル様、少し良いですか?」

チク…。

袖を皇女様に掴まれて俺は戸惑う

「シオル様っ!私お話が!」

チクタク……。

「アビー様、どのような御用で?」

チクタクチクタク……。

「わ、私の……私のふぃ、、フィア」

ドッカァァーン。

「!、皇女様!」

その瞬間目の前の景色が赤に染まった

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