第4話:奇妙な相談_4


 ***

 こんな話は、とてもリアルの友人や知人には話すことができません。

 聞いてくださり、感謝いたします。

 私や娘に嫌なことが起こるたびに、私は神頼みをして切り抜けようとしてきました。

 私は弱い人間なのです。

 だから、今回の祈りも、藁にもすがるような思いで。

 それも勿論半信半疑でしたが、怖いくらいに私たちにとっては、最終的に過程がどうであれ問題が解決しているのです。

 つまりはその神様のおかげに思えてならないのです。


 私は、これ以上何が起こるのか、起こってしまうのかと心配しています。

 もう既に、まだ何も起こっていない人たちに対しても、神様に祈ってしまいました。

 だから絶対に、今まで以上の何かが、その人に対して起こると思っています。

 絶対に、必ず。

 だって、私が受けた内容も、酷いものでしたから。

 そしてこれは、間接的に人が不幸になることを願ってしまった、私の懺悔でもあります。

 

 どうか、この話が、沢山の人に聞いていただけますように。


 最後に、くれぐれも起こった内容は他の方へ伝わらぬようお願いいたします。

 何だか、あまり沢山の人へ伝わってはいけないような気がしているのです。


 それでも、誰かに聞いてほしかった。


 祈様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。


 匿名希望

 ***


 『あまり沢山の人へ伝わってはいけないような気がしている』話を、私にはしても良かったのかという部分は気になるが、もし周囲に身に覚えのある人がこの配信を聞いていたら、見当をつけて面白おかしく吹聴したり、怖がって人が寄り付かなくなってしまうかもしれない。それに対する配慮として考えれば、怖い……気持ちの悪い部分は配信しないほうが吉だ。異論はない。

 ――ただもし、これの根底が『話を聞いた人は呪われる』のような類の話だったら、私はとっくに呪われてしまっただろう。とんでもないものをよりにもよって私に送ってくれたのか、と思わないこともないが、私を選んだことに何か理由があるのかもしれない。今のところ身体にも心にも異変はないが、頭の片隅にその可能性は置いておいても良いのかもしれない。


 事前に今回の相談でこのメールを読むことは告知していなかったが、メッセージにはいつも聞いていると書いてあった。つまりは常連のリスナーさんだ。それならば、メールを送った後の配信は特に注意深く聞くだろう。だからきっと、今回の配信は匿名さんへ届いているはずだ。

「たった半年でこんなにいっぱいのことが起こったら、そりゃあ『偶然にしちゃあ出来過ぎてる!!』って叫びたくもなるよねぇ」


 私はこの匿名さんに同情しながら、今回の相談の回答結果を次回の配信で発表できるよう簡単にまとめることにした。 意見箱への当初以外にSNSで呟く人もいるが、やはり大半が『気のせい』『考えすぎ』という意見だった。この投稿に何か感じる人は少ないのだろう。

 二通目と三通目も一緒に読めばまた違った意見が聞けるかもしれない。が、それは止められているので聞くことはできない。それ以外は『家の呪い』や『匿名さんの生霊や念がそそれぞれ相手に憑りついた』で、あまり言いたくはないが攻撃的な内容もほんの少し含まれている。

 これらを簡単な表にしてまとめると、私はひと仕事終わったと言わんばかりにノンアルコールカクテルの缶の封を開けた。


 配信した翌日、SNSのDMに匿名希望さんからメッセージが届いていた。


 私は普段、在宅でちょっとしたライティングの作業や、知り合いの会社の事務仕事を引き受けている。少し前までバリバリ働いていた……と自分では思っているが、燃え尽きてしまって今は夫の理解もあり、ある程度セーブして働くことに決めていた。子どももまだ小さいことを考えたら、私にとってはちょうど良い働き方だと思っている。


 その中で、私は喋ることを趣味とした。独りで家にいると、誰かと喋ることはほとんどない。たまには誰かと喋りたいが、壁打ちするのはちょっと空しい。よって、自分の喋りたいことをラジオのように配信し始めた。

 ポンッと思い立って始めたものだから、何の宣伝もしていないし、知り合いが聞いているとも思っていない。実際にいるかもしれないが、自分的に好きだなと思ったツクリモノの名前だ。パッと知り合いが聞いたとしても、きっとわからないだろう。

 ほんの少しだけ、誰かが聞いて、あわよくば反応をもらえたら嬉しいなと、淡い期待を込めていたのはここだけの話だ。子どもの話や今までの仕事の話、レトロゲームや最近読んだ漫画の話など、基本は本当に雑談だ。


 そんなことをやっていたら『作業の合間にBGMとして流し聞きした』なんてリスナーさんがそれなりに増え『ちょっと聞いてよ』と近所の人感覚で相談を受けるようにもなった。それが煩わしいと感じる人もいるかもしれないが、私としては誰かに頼られることが嬉しくて相談コーナーを作り、SNSのリプライで返事を返したり、ちょっと長くなりそうなら配信で回答したりもした。

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