第22話「王子がカードゲームをはじめた理由」
客がなかなか来ないので、水を自分で入れて引き続き光先輩と対戦する。
「僕の三勝二敗か。蓮くんって加減が上手いんだね。手を抜かれてるのか、わかんないや」
と光先輩は言って微笑む。
ははは。
バレテール。
まだまだ精進が足りないんだなぁ。
「わかんないと言いつつ、手を抜かれてそうだって考えてはいるんですね」
俺はあきらめながら言った。
「だって自分なりに調べてみた感じ、上級者と初心者の壁ってかなりありそうだったからね」
光先輩は肩をすくめて答える。
「まあ、手札の引き次第では普通に負けることはありますけどね」
俺は一応訂正を試みた。
運が絡む以上、常に上級者のほうが勝てるとはかぎらない。
将棋や囲碁だとまぐれはないらしいけど、カードゲームは運も絡んでくるからなぁ。
「そこがこのゲームのいいところだね。引き次第では、弱いほうでもチャンスがあるっていう点がさ」
光先輩は言いながら微笑む。
「たしかに言えてますね」
と俺は賛成する。
言いたいことは何となく理解できた。
「全然勝てないゲームって、やっぱりやる気がなくなりますから」
と言葉にしてみる。
チャンスがあるからがんばろうと、やる気が出るものだ。
すくなくともチャンスがないのにがんばれるほど、俺はマゾじゃない。
「だよねえ」
光先輩は微笑みながらうんうんとうなずく。
この人って着やせするタイプだったんだなぁと思う。
「よかったら店長とも戦ってみます?」
俺は提案してみる。
店長は強いし、俺とはプレイヤーとしてのタイプが違う。
光先輩にはとてもいい経験となると思える。
「うーん」
光先輩は迷いを浮かべて考えてしまう。
「ここはやめておくほうがよさそうだ。若者は若者同士で楽しくやりなさい」
店長が苦笑いして、光先輩の代わりに言ってくる。
「そのほうがよさそうですね」
正直俺には理解できてないけど、なんらかの理由がありそうだ。
「すみません」
光先輩がぺこりと店長に向かって頭を下げる。
「気にしなくていいんだよ。楽しく遊んでもらうのが一番なんだから」
店長は笑って戻っていく。
「すみませんでした」
俺は光先輩と店長のふたりに謝る。
「気にしないで。君の気持ちはわかっている。どちらかと言うと、僕の責任だ」
光先輩は微笑んで許してくれた。
優しい。
「そうだね。蓮くんの気遣いはとても貴重だし、すばらしいことだと思うよ。だから謝らなくていい」
店長もカウンターに入りながら言ってくれた。
優しい。
みんなの優しさに触れることができてうれしい。
「ところで蓮くんって一年だったよね?」
「え、はい」
不意に光先輩に訊かれたので返事をする。
「今日、移動中に見かけた気がしたから。一年のネクタイをしていたなと思って」
と彼女は話す。
目が合ったように思えたのは、気のせいってわけでもなかったのか。
「やっぱり? 先輩、一瞬こっちを見ませんでした?」
納得しながら訊いてみる。
「あれ? 反応しないから気づかれなかったと思ったんだけど、気づいていたの?」
ところが光先輩は目を丸くして、訊き返してきた。
「え、はい」
なんだか気まずい。
陰キャのくせに陽キャをスルーしちゃったからね……。
それでも今さら否定できるわけがないので、ぎこちなく認める。
「反応してほしかったなー」
と光先輩は言う。
傷ついた様子はない。
それどころか、からかっているような表情だった。
「すみません」
でも俺は謝っていた。
スルーしちゃったのは事実だからね。
「いいよー! みんなの前では恥ずかしかった?」
光先輩は気にせずニコニコしている。
こ、これは……からかいモードだ。
すごい美少女にからかわれるって、漫画やアニメの世界でだけ起こることじゃなかったのか。
「は、恥ずかしかったです」
でも、陰キャの俺に対抗できるはずがない。
羞恥で顔が赤くなり、体が熱くなっている気がする。
「そっかー」
ニマニマしながら光先輩は頬杖をつく。
なんだか『マギコロ』の対戦は中断して、雑談って感じになったな。
「先輩はいつも女子に囲まれてますね」
すごいです、という意味で言った。
「ああ。みんなよくしてくれているよ」
光先輩はそう言って微笑む。
あれだけ人に囲まれていたら、うんざりしそうなのに。
これが光属性の陽キャってことか。
「それでよくカードゲームをはじめようと思いましたね」
と俺はついつい言ってしまう。
赤松に関しても最初はふしぎだったけど、すぐに納得した。
赤松はかなりガチの『マギコロ』オタクである。
カードゲームと言うよりは、アニメが好きって感じだけど。
「ああ。年の離れた弟が『マギコロ』好きでね。話を合わせるためにはじめたんだよ」
と光先輩は答えてくれる。
どこか困ったような微笑みを浮かべて。
「そうだったんですね」
そういう導入もあったのか、と俺は目から鱗が落ちた気分だった。
すぐに疑問に思う。
「年の離れた子どもだと、使うならアグロデッキなのでは?」
と訊いてみた。
「まさにその通りだよ!」
光先輩は大きくうなずき、楽しそうにコロコロと笑う。
「蓮くんがやったような、攻撃的なカードばかり出してきてね。まあ蓮くんほど上手ではないけど」
と言った光先輩の笑みが苦笑っぽいものに変わる。
「やっぱりそうでしょうね」
俺はうなずく。
年が離れているとなると、小学生くらいなのかな?
あるいは中学一年生……?
それくらいの年齢だと、まだ上手くデッキを回していくのは難しいだろう。
好きなカードや使いたいカードだけ入れて、全然上手くいかなくて落ち込んだ経験なら、俺にもある。
「わたしのデッキとは相性が悪いのか、お姉ちゃんはずるいとか言われるよ」
と話す光先輩は楽しそう。
本当に弟を大切に思っているんだなって、陰キャの俺でも直感で理解できるほど、可愛らしくて優しい表情だ。
こういうときは女子らしいな、と思う。
「相性的にはむしろアグロのほうがいいような気がしますが……?」
言いながら俺は首をかしげた。
そりゃたしかに手札運やプレイヤー次第で、いくらでも変動する。
だけど、コントロールデッキ、つまりカウンターをやる場合は、有効なタイミングで有効なカードを握っておかなきゃいけない。
主導権を握りやすいのは断然アグロデッキのほうだ。
カウンター対策さえ入れておけばいいし。
……まあ、これはあくまでも駆け引きなどを考慮しない、単純な理屈の場合だけど。
「そうなの? じゃあ単純にウチの弟がまだまだってことかな」
と言って光先輩は納得する。
「そりゃまあ、カードを揃えるにはお金がかかりますし、プレイが上手くなるためには練習が必要ですからね」
俺は相槌を打つ。
カードをたくさん買うことができ、いっぱい練習できる。
そんな神環境の家に生まれたりしないかぎり、すくなくとも学生のうちは年齢と強さは比例するものだ。
「そういうものだよね」
と光先輩は答える。
カードゲーマーの環境を知らないわけじゃないらしい。
それとも自分ではじめてみて、解像度が上がったのだろうか。
「小中学生なら全然あわてる必要はないですね」
と俺は伝える。
その年ごろであまり強くないのは当たり前だ。
『マギコロ』のアニメの中じゃあ、やたらと強い小中学生もいたりするけど、あれはあくまでもフィクションだからなぁ。
そもそもじゃんけん、スポーツ、戦争の代わりに『マギコロ』をやるという、デタラメな世界観だし……。
「とても強い高校生のお兄さんがそう話していたって、弟に言って聞かせるよ」
と光先輩は言う。
イケメン王子的なこの人も、弟相手では優しいお姉さんの顔になるんだろうな。
「それがいいですよ。あわててもいいことはないので」
俺は答える。
カードゲームは待つことも重要だ。
表情を相手に読まれない冷静さも。
「うんうん。蓮くんは頼りになるね」
光先輩は言いながら楽しそうに笑った。
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