第15話「S級美少女ふたりと」
「ねー! 次はわたしもやりたい!」
と赤松が言い出す。
それは当然なので俺が立ち上がると、
「すとーっぷ! 蓮くんと対戦したいの!」
赤松は俺を制止して要求をしてくる。
「えっ? 俺?」
予想外の発言にきょとんとしてしまった。
美咲先輩か光先輩でもいいんじゃないかな。
「うん!!」
赤松は笑顔で即答する。
しかも声も力強い。
「わかった。じゃあ僕と交代しよう」
光先輩は苦笑して立ち上がる。
「ごめんね!! 先輩!!」
悪びれずに赤松は謝った。
「かまわないよ。気持ちは理解できるしね」
と光先輩は答える。
気持ちはわかるのか。
初心者ならではの……?
あるいは女子ゲーマーとして?
ちらっと美咲先輩のほうを見ると、
「モテモテね。がんばって」
と言って美咲先輩は他の客のところへ向かう。
そりゃ俺たちがここで固まっていたら、混んでる店が回らなくなるからね。
からかうような表情と声色だったのは、気づかなかったことにしよう。
単に初心者ゲーマーになつかれてるって状況なんだろうし。
「あっと、まずかったかな?」
光先輩には悪びれなかった赤松が、ハッとした表情になる。
光先輩も失敗に気づいたような顔だ。
俺を独占するというのは、店のためにはならないと察したらしい。
「いえいえ。初心者を大切にするのは、れっきとした仕事だから平気ですよ」
と俺は答える。
さすがに美咲先輩とふたりがかりで面倒を見ることはできないけどね。
「ウチの常連は理解があるから平気だよ」
やってきた店長が言って、俺の前に水を置く。
「ありがとうございます」
「いいってことさ」
店長は微笑みながら立ち去る。
さすがイケオジって感じだ。
「じゃあよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
俺と赤松は一礼する。
光先輩は脇に立ち、自分の分のドリンクを移動させた。
赤松のアグロデッキを俺のデッキで迎え撃つ。
お互いデッキは変更していないので、既視感がすごい。
「コボルト元帥! コボルト狩人でアタック!」
赤松が宣言する。
これはダメだ。
手札には何もない。
「負けました」
俺は素直にぺこっと頭を下げた。
「勝ったあ!」
赤松は無邪気に喜ぶ。
ユサユサと果実が揺れたので、あわてて視線をそらす。
「攻撃的なデッキで押し切った!」
光先輩が俺たちの隣で感嘆する。
今日気づいたのだが、光先輩ってイケメンキャラなのに、実はかなりデカい。
ぷるんぷるんという擬音が聞こえそうなくらいには。
つまりうかつに右を見てもよくない。
なんなんだここは?
美咲先輩のものを入れたらヒマラヤ山脈かな?
ここは左を向くとしよう。
左ならショップの壁なので安心だ。
「感想戦をやりたい!」
赤松は明るく言ってくる。
最初勝ったときは遠慮がちだったけど、俺は気にしないと理解したんだろう。
「やりましょうか」
と言っても今回のゲームはこっちがひどかった。
「有効なカードが来なくて、やられっぱなしでした」
と告げる。
ここまでひどいともう笑うしかない。
「こういうこともあるんだね」
光先輩は驚きを隠せないようだ。
「ありますよー。だから大会の場合、二本先取か三本先取が多いんです」
三回勝負で二回手札が事故ったら、もうその日はあきらめるしかない。
なんて理由だろうと俺は思っている。
「へー! 大会もあるんだね」
光先輩は興味を持つ。
赤松も似たような表情で、
「この辺で大会とかあるの? わたしでも出られるのかな」
と訊いて来る。
何だ、かなり乗り気になんじゃないか。
「予選がある全国大会以外は誰でも参加できるよ」
と俺は答える。
「へー、全国大会もあるんだね」
光先輩が目を丸くした。
「まあ、あんまり有名じゃないですけど。いまではeスポーツのほうがすっかり大きくなりましたし」
と俺は話す。
正直、ちょっとうらやましい。
スポンサーがつく必要があるらしいけど、れっきとした職業として認められてる上に、大金を稼ぐこともできるそうだ。
「えー? でも、大会があるっていいじゃん! 楽しそう!」
赤松が明るく言った。
ポジティブな性格なんだな、とまぶしく思える。
「カードゲーマーにしてみれば楽しいイベントですよ。勝てないと悔しいですけど」
俺は正直に言う。
何にしろ同じものを愛好する人たちが集まって、楽しくワイワイと遊ぶことができるからだ。
大会となれば、普段出会わないような人とも対戦するチャンスがある。
「対人経験を積むという意味で、大会に出るのはありかもですね。小さな大会なら、参加費がかからないケースもありますし」
俺は興味津々という表情のふたりに説明した。
俺たちお金がない学生にとって「参加費がいらない」というのは魅力的である。
もちろん、参加費が必要な大会もかなり多いのだが。
「へー、そうなんだ! 楽しそう!」
赤松はうれしそうに言う。
かなり乗り気みたいだ。
「そういうものが……そうか」
光先輩は冷静に見えるけど、興味津々という点は変わりなさそう。
俺には女子を誘う勇気なんてないけど、大会を楽しんでもらえたらいいな。
「じゃあさ! 今度、わたしといっしょに大会に出てよ、蓮くん!」
赤松はニコニコしながら言い放つ。
「はい?」
一瞬、何を言われたのか、脳が理解できなかった。
「えっ? 俺と、ですか?」
自分の顔を指さしながら訊き返す。
「他にいないでしょー! ウケる~!」
赤松はお腹を抱えて笑う。
どうやらボケかなんかだと思ったらしい。
素で驚いただけなんだけど。
光先輩はちらちらこっちを見てる。
なんだろう?
自分も行きたいなら、そう言ってくると思うけど。
「予定が合うならかまいませんよ」
初心者にそういうフォローするのも、仕事のうちだからだ。
大会で楽しい思いをしてもらって、沼に沈んでもらわないと。
「やった! 決まりね!」
赤松はいえーいと言いながら、俺とハイタッチをする。
俺は彼女の勢いに引きずられているだけだけど……。
「じゃあ次は僕が対戦をお願いしてもいいかな?」
と光先輩は俺に言ってくる。
うーん、いいんだけど……。
「もしよかったら、ふたりで対戦してみませんか? 俺は審判をやるので」
と提案してみる。
「えっ?」
「えっ?」
赤松と光先輩の声が重なった。
そしてお互いの視線を交わす。
なんだろう、この空気は?
俺がなんかしくじったのかな?
「いいアイデア! せっかくだしやってみましょ!」
赤松はすぐに明るい笑顔で光先輩に話しかける。
「そ、そうだね」
光先輩のほうはすこしためらいながらも承知した。
ちょっとだけ違和感があるけど、いやがってる感じではない、と思う。
「いやなら避けてもいいですけど。あくまでも俺のアイデアですし」
念のため確認してみる。
「いや、同じ学校の女子とこうやって対戦する機会があるとは思わなかったので、ちょっととまどっただけだよ」
と光先輩は言う。
「たしかにー! わたしも最初びっくりしましたよ!」
赤松はけらけら笑いながら応じる。
そういうものなのかな?
と思ったけど、たしかに十代女子のカードゲーマーはかなり珍しいかもしれない。
すくなくとも俺はこのふたり以外では、美咲先輩くらいしか知らなかった。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ふたりはあいさつして一礼。
デッキを交換してシャッフル。
「なんかわたしたち、シャッフルの仕方が似ていますね!」
俺もちょっと思ったことを、赤松が遠慮なく指摘する。
「そうだね。僕は蓮くんのやり方を参考にしてるから」
と光先輩は即答した。
「へー! わたしもですよ! わたしたち、おそろいかもですね!」
赤松は笑顔で応じる。
「変なおそろいだね」
と言って光先輩は苦笑した。
まあ、シャッフルのやり方がおそろいだからって何? ではあるよね。
審判をやるので何も言わないが、奇妙な感覚ではある。
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