第21話

 静かな場所を、探していた――


 物心が付いた頃、気付けば山に囲まれた森の中にいた。水もあり日陰もあり、何よりとても静かで心地の良い場所だった。周囲には他に誰もおらず、始めから一人だったが教えられるまでもなく糧は自分で獲れた。危険もなく驚異となる天敵もいない、何事もない穏やかな日々だった。

 数年経ったある日、自分の体に異変が起きた。寝苦しくて目を覚まし、やたらと喉が渇くので水を飲みに行こうと起き上がったら住処にしていた森がメラメラと火に包まれていた。多少息苦しかったが熱くはなく、水場に着いて初めて自身も燃えている事に気が付いた。慌てて水に飛び込み火を消そうと試みたがいつまで待っても火は消えず、水はあっという間にお湯に変わり自分の周りから大量の白い煙がモクモクと空へ昇っていった。

 夜が明けるまで水の中にいたと思う。特に身体に異常はなかったので放っておいたらやがて身体の火は何事もなく消えたのだが、運良く雨が降って鎮火する頃には住処にしていた森は真っ黒になって住めなくなっていた。見る影もなくなった森を見つめながら、しばらくそこから動けなかった。気付いたらここにいたからただ何となく住処にしていた、居心地のいい静かな森の変わり果てた姿を見ていると何故か、どういうわけか無性に……心細くなった。

 それから新しい住処を探しにそこを離れ山の中を彷徨っている間にも、時々身体が燃えるようになった。やがて自分はそういう生き物なのだと、理解して炎を操れるようになったのはおよそ数え切れないほどの森を焼いた後だった。そしてその頃から、人間と接触する機会も増えた。

 住処を求め西から東に渡り歩く中でいつしか、俺の存在を人間達は驚異として排除しようとする動きを見せるようになっていった。山の中に森を焼く魔獣がいる……人間も森がなくなると困るのだろう、ある時は数十人の人間達がこぞって俺を殺そうとどこまでも後を追い掛けてきた。

 何度襲われたかわからない、殺そうと迫ってくる人間達をその度に返り討ちにし、その度に……まるで化け物を見るような目で怖れられた。罠を張り、俺を見つけるとよそ様の住処までしつこく追いかけ襲い荒らしに来るくせに、負けたら恨み言を吐いて逃げていく……何とも身勝手な生き物だと思った。負けはしない、俺の相手ではなかったが……どこへ行っても、落ち着ける場所は見つからなかった。

 人間に辟易し山の奥へ奥へと突き進んでいた時、奇妙な魔獣と出くわした。金の毛並みを持つ俺とよく似たそいつは俺の事をジロジロ見るなり唐突に東へ行けと、そう話し掛けてきた。何故東なのか、そこに何があるのかと、尋ねてもそいつは何となくとしか答えなかった。意味はわからなかったが、どうせ行く宛もなかったから何となく東へ向かった。途中大きな湖に住む蛇……のような魔獣を見かけ水の中はきっと静かだろうなと、少し羨ましくなった。しばらく眺めていたら気付かれたが、特に話す事もなくすぐにそこを離れまた東を目指した。

 山を越え、雪の白さに紛れて平地を越え、また山に入ってなお東を目指し続けているとやがて辛い水に行く手を阻まれた。海と言ったか、果てまで水しかなくこれ以上東へは進めない所まで来ても、特に何かが待っているなんて事はなかった。よくわからない奴の何となくの言葉だ、期待する方がどうかしている……そう考えてようやく、そんな言葉にどこか期待していた自分がいた事に気付かされた……。

 来た道を少し戻り近くの山に入るとそこには多くの魔獣や獣達が穏やかに暮らしていて俺の入る隙間はありそうになかった。山の奥はだめ、ならば外縁部はというと今度は人間の縄張りが張り巡らされていた。

 今更西へ戻るのも面倒くさいからとぼんやり南部の高い所を歩いていた時、南の海の向こうにもう一つ陸地を見つけた。手前に街道とかいう人間の道と間を隔てる海があったがうんざりしていた俺は構わず一直線にその陸地を目指した。

 結論から言うとここにも居場所はなかった。どこもかしこも既に誰かの縄張り、人間がいないのはよかったが突然現れた俺は誰にとっても厄介者に他ならなかった。

 もうどうでも良くなった。俺の方が強いのだから自分の縄張りにしてしまえばいいんだと、果敢に立ち向かってくる魔獣共を全て踏み潰し手当たりしだいに森を焼いた。そういう生き物なのだから仕方ない、その様に生まれてきたのだから仕方ないのだと……誰にともなく言い訳を思い浮かべ、焦土と化し誰もいなくなった静かな焼け野原の中で一人……懐かしいかつての森の夢を見た。居心地の良い、静かな場所を探していた……――



 ふと――春の木漏れ日のような優しい温もりを感じそっと導かれるように白の王は冷たい水底から意識を浮かび上がらせていくと、薄っすらと開いた瞳には鼻先に優しく手のひらを置くソウタの姿が映った。真っ赤に染まった左腕を大きな白い布で包み簡単な応急処置をしているがまだ血の匂いを纏ったままソウタはウシオに支えられながら力なく白の王の鼻先を慈しむように撫でていた、傍らには二つ水球を宙に浮かべ両肘を抱えるように腕を組むタツキの姿も見える。

 白の王が目覚めた事に気が付くとソウタは視線だけ動かし、儚げな笑みを浮かべながら消え入りそうな弱々しい声で語り掛けた。

 「……おはよう、気分は?」

 白の王は不思議な気分でソウタの事を見つめていた。あの地獄にも思えた絶え間ない痛苦はまるで夢であったかのように露と消え、今は逆に心地良さすら感じる程穏やかな気持ちになっていた。力が入らず身動き出来ないという獣にとっては致命的な状況であるにも関わらず、白の王は呑気にゆっくりと肺に空気を満たすと長く長く、滝のように温いため息を不平を漏らすかの如くソウタへと吹きかけた。

 『……煩わしい……こんな彼方まで足を運んで……ようやく見つけたというのに……』

 そう呟くように漏らしたその言葉の意味を、ソウタは当然理解できなかった。しかしそんな白の王の心情をソウタはオーラから読み取るに留め、深く追求する事なく優しく鼻先を撫で続けていた。白の王の気高さを思えば、例えどのようなものであっても勝者から送られた言葉は屈辱と受け取られてしまう恐れがある……白の王が自身の敗北を受け止め飲み込めるまで静かに待つ、それがソウタの答えであった。

 少し冷たい風が吹く空の下、ソウタが鼻先を撫でつつ緩やかな沈黙が続いているとやがて、白の王は薄っすらと開いていた目を閉じて深い溜め息を零した。

 『……負けたのか……俺は……人間の……それも小僧に……』

 噛み締めるように零した言葉からはヒシヒシと悔しさが滲み出ていた。当然想像などしていなかった事だろう……人間の、それも当初怯え震えていた小さな少年がここまでの力を示すなど、普通なら考えられない事である。しかしそんな者達が当たり前のようにその辺を歩いているかも知れない……そんな危うさが常識となりつつあるのが、フラッシュフォール後の地球の現状であった。

 ある意味この世界よりも魑魅魍魎が跳梁跋扈しているかも知れない遠い異世界の常識など露知らず、白の王は再び目を開くとソウタを見つめ恥をかなぐり捨てて事の顛末を尋ねた。

 『……教えろ、小僧……何をしたのか……お前のその力は何だ……』

 如何にして己が負けたのか、瞳から納得をよこせと訴え掛ける白の王にソウタは優しく微笑むと静かに頷き自身の取った戦術、戦略の全てを話して聞かせた。


 超大型人形を出し白い上級を投入した頃はまだ人形だけでどうにか出来ればとソウタは考えていた。しかし上級を含めた数十の人形が一瞬の内に吹き飛ばされた事を受け、ソウタは考えを改めざるを得なかった。

 その後投入した赤い上級は強力であるし実際白の王に対し有効であったが、人形には依代という明確な弱点がある。どれだけ強くても核である依代が傷付けばそれまで、確実に勝利を収めるには白の王を再起不能にする他ない。命を奪う事なく再起不能にする為の手段として、ソウタが考案したのが自身のありったけの気を白の王の体内に送り込むというものであった。

 ソウタが気と呼んでいる生命エネルギーというのは命ある者その誰しもが持っているものであるのだが、皆同じというわけではなく個々固有のものとなっている。他者の身体に気を送り込めばその者が元来持つ気の流れを乱してしまう事となり、それを応用する事で乱れた気の流れを整えるだけでなく砦町で賊相手に見せたような相手の動きを封じるだとか痛みを強引に作り出すといった事が出来る。

 しかし相手の体内に気を送る為には直接手を触れなければならない。炎熱に包まれた魔獣の懐に入りその燃え盛る毛並みに飛び込まなければならない。その為にはなんとしても白の王に隙を作る必要があった。

 赤い上級投入後、ソウタはまず超大型人形を操り目眩ましの煙幕を張った。その土煙に紛れソウタが行ったのは、骨と黒い依代から作られた人形ミルドをソウタの形に作り変えるというものだった。ミルドをソウタの影武者として立たせる一方、自身は超大型人形から放たれる中級砲丸の中に紛れ散々砕いた瓦礫の下に身を潜めて接近のチャンスを待った。

 赤い上級が敗れた後、ミルドの不在に気付かれたタイミングで常に上空から周囲を見張らせていた監視用鳥人形を風船に変え白の王の注意を引いた。そこまで効果を期待していたわけではないが思いの外効果的だったのは嬉しい誤算であった。

 満を持して訪れたチャンスにソウタはすかさず地上へと飛び出し白の王の腹に渾身の一撃をお見舞いした。白の王の体内に送り込まれたソウタの気は荒れ狂う竜のように白の王の正常な気の流れを掻き乱し見事強靭な魔獣を卒倒させるまでに至った。気を送り込んでから効果が表れるまでに時間が掛かったのは直後にソウタが弾き飛ばされたからである。白の王が持つ本来の気に押し負けないよう圧縮状態で送り込み爆発させるように一気に開放する手はずであったが、反撃をもらいすぐに開放する事が出来なかった……というのが事の顛末である。


 自分達の出自や能力、地球の事、この場所を訪れた本当の目的なども含め全てを詳らかに語り聞かせたソウタは白の王の鼻先を優しく撫で続けながら最後にこう続けた。

 「荒れ狂う竜の牙が……戦いの終止符を打つ……牙竜点睛、とでも……名付けようかな」

 そう言って年相応の子供のように無邪気に笑ってみせるソウタをじっと見つめていた白の王はおもむろに鼻先を撫でるソウタの手に視線を向けた。黒い泥で汚れた小さな右手は明らかに焼け爛れている、予熱の残る灼熱の毛並みに直接触れたのだから当然であろう……しかしそれでも、ソウタは火傷などお構いなしに手を動かし白の王の鼻先を優しく撫で続けていた。

 白の王は動き続ける小さな手のひらを見つめながらせめぎ合う心の葛藤に目を細めた。この少年は確かな力と覚悟を示してみせた、気を失っている間に止めを刺そうと思えば刺せただろう。見下していた相手に情けまで掛けられたとあっては負けを認めざるを得ない、己が吐いた言葉を違えるなどプライドが許さない……わかっている、頭ではわかっていても……それでもどうしようもなく悔しかった。


 目の前に据えられた”納得”を受け入れ飲み込む為にも、白の王はソウタという人間の少年を見定めるべく真っ直ぐに瞳を向けた。

 『小僧……俺を手駒として何をする……何をさせる……何を求めている』

 まっすぐ向けられた瞳と言葉にソウタは手駒という言い方は嫌いだよ、と微笑むと撫で続けていた手を止めゆったり呼吸を整えながら真摯に答えを返した。

 「……強くなりたいんだ……君の力を貸して欲しい」

 まさかの返答に見開いた目を再度細め白の王は疑問を呈する。

 『……分からんな、それ以上強くなってどうする』

 白の王からすれば当然の疑問であった。既に水龍を従え、あまつさえ炎虎である己をも打ち負かしておきながらまだ強さを求めるなど強欲にも程がある。

 訝しげな目を向ける白の王に対し、ソウタはフフッと口元をほころばせると視線を落とし遠い目をしながら理由を話した。

 「ずっと……一人で戦い続けている人がいる……その人の力になりたい……守られてばかりだから……少しでも頼って貰えるように……助けになれるように……彼のような……強い存在に……なりたい」

 ソウタの言う”彼”というのが誰を指すのか、白の王にはわからなかったがそれが心からの言葉である事は十二分に理解できた。

 白の王は鼻先に添えられた爛れた優しい手に視線を向けながら気に入らない様子でフンと鼻を鳴らした。

 『……他者の為か……弱い生き物の道理だな……』

 蔑むような言葉を口にしながらも悪意のない、それどころか自嘲や自分の知らない価値観に対する好奇を仄かに滲ませる白の王のオーラをその目に捉え、ソウタは素直じゃない王様に穏やかな笑顔を向けた。

 「……人間、だからね」

 そう言って向けられた笑顔を白の王はしばしの間じっと見つめていた、ふと他の二人へも視線を向けてみると同じ様に穏やかな笑みを見せた。顔を合わせれば鬼気迫る顔で追い回され、身勝手で理不尽だと知った気になっていた人間という生き物の、これまでの生涯で一度として知る事のなかったその温かな表情は、長い刻の中で荒んだ王の心を解きほぐすに足る心地の良いものであった。


 白の王は大きなため息と共に静かに目を閉じるとまるで精神統一でもするかのようにゆっくりと呼吸を整え始めた。それに合わせて段々と厳かな静謐さを取り戻していくオーラを眺めているとやがて、白の王はまだ力の入らないであろう身体を上半身だけ懸命に起こしソウタを正面に見据えながら己の敗北をゴクリと腹に収めた。

 『小僧、ソウタと言ったな……認めてやる、貴様の勝ちだ。負けた以上文句はない、好きにしろ』

 そう言うと白の王はゆっくりと、まるで主人への忠誠を誓う騎士のように静かに伏せの姿勢を示してみせた。ソウタが右手を伸ばし再び鼻先に触れるとたちまち白の王の身体は仄かに光を帯び始め淡く輝き出す、それは上辺の言葉だけではなく心からソウタを認めてくれた証であった。

 「……ありがとう……一緒にいきましょう」

 目を閉じ服従の意思を示す白の王へ、ソウタは心からの感謝と共に儀式めいた口上を唱える。タツキの時と同様、新たに加わる家族への大切な贈り物の為に。

 「勇猛なる貴き白の王……この日この刻……式と加わるあなたへ……新たな名前を贈ります……其の新たな名は……――」


 「――ラトラ(蘭寅)」


 ソウタが名前を口にした次の瞬間、一際眩い光に包まれた白の王の大きな身体は徐々にその輪郭を縮め段々と小さく人の形へと変化していった。ソウタの前に身体を横たえひれ伏す姿勢のまま、輪郭の変化が収まると身体を包んでいた光も徐々に静まり王の名を冠する獣の式としての新たな姿が露わとなる。

 血色の良い白い肌、うっとりするような靭やかで滑らかな肢体を伸び伸びと横たえ、アホ毛を備えた短い純白の髪はサラリと風に揺れている。俯いていた顔を上げるとゆっくり見開かれた瞼の奥にはまるで燃えるような赤い瞳がキラリと瞬いていた。

 白の王改め、ラトラは一度ソウタと顔を合わせると形の変わった自分の手に目を落とし、ゆっくりと身体の方へ視線を移しながら横たえた上体を起き上がらせた。傍らで様子を見ていたタツキがおもむろに口を開く。

 「其方、もう動けるのか」

 タツキは何ヶ月もの間休息を余儀なくされた己と比べ事もなげにすぐ動き出しているラトラに驚き感心していたのだが、そんなタツキの言葉も耳に届いていないようで……ラトラは地面にペタンと座りマジマジと新しい自分の身体を眺めながら戸惑っているようであった。

 「……これが……俺……」

 自分の匂いを確認してみたり、頭を抑え耳の位置を確認してみたり、尻尾が無いと何度も自分のお尻を確認してみたり……体毛の無いスベスベの肌と長い手足に戸惑いつつ猫っぽい伸びをしたラトラははたとソウタと目を合わせると少し気恥ずかしそうな顔を見せた。

 「改めてよろしく……ラトラ」

 「……おう」

 ほんのりと可愛らしく頬を染めたラトラと微笑ましく改めての挨拶を交わすとソウタはフウと一息吐きウシオに体重を預け脱力しながら早くも次へと思考を巡らせた。

 「あとはラトラの服と……ミルドを作り直して……早くスイカを……迎え……に……」

 弱々しい声が掠れるようにゆっくり途切れたかと思った次の瞬間、ソウタは突然糸が切れたようにダラリとうなだれズルズルと滑り落ちるように倒れ込んでいった。その力尽きたかのような様子に式三人の思考は刹那の一瞬停止する。

 「……ソウタ? ソウタッ!!」

 いち早く思考を再起動させたウシオは滑り落ちるソウタをすかさず抱き止めると強く声を掛けた……が、反応は返ってこなかった。力を使い過ぎれば休眠に入る事は承知している……しかしこの時のソウタの様子がただの休眠とは違う事をウシオは長年の経験から感じ取っていた。普段とは違う、日常とはかけ離れたソウタの異常事態にウシオは嘗てない程の動揺を見せる。

 「ソウタッ……ソウタッ!?」

 「っ……まずいのかウシオ? やはり怪我が酷いのだ、すぐにちゃんとした手当をしなければ」

 慌てたウシオの鬼気迫る様子からタツキも事態を把握する、が……その声は狼狽したウシオの耳には届いていなかった。一刻も早く何とかしなければとウシオは自身の後ろに手を回すとミルクの入った瓶を何処からともなく取り出し意識のないソウタの口元へ近づけた。

 「ソウタっ……飲んでください……お願い飲んでっ…………っ」

 いくら呼べども反応を示さないソウタに焦り取り乱したウシオはミルクを自分の口に含むと口移しでソウタに飲ませようと試みた。しかしそれでも、嚥下させる事は叶わず無情にもソウタの口から零れ落ちるミルクを眺める事しかできないウシオはフルフルと首を小さく横に振りながら大粒の涙を零した。

 「ソウタ……だめ……お願い、ソウタ……っ」

 震えたウシオの声も、ポタポタと頬を叩く温い雫の感触も、ソウタの意識を取り戻してくはくれなかった。ここは巨大な半島の中心部、人のいる最も近い街はリーミンでありソウタの鳥人形に乗って八時間掛かった距離にいる。時速にして約二百キロのほぼ直線移動で八時間である、ソウタが意識不明である以上鳥人形は頼れずこの場にいる誰もがそれ以上の速度は出せない……三人も側に付いていながらただ眺める事しか出来ない状況に沈黙が重く圧し掛かると、ソウタを強く抱きしめたウシオから何か小さく呟くような声が漏れ聞こえてきた。

 「どうしようっ……すぐに戻らないとっ……でもっ……でもここからじゃ……っ」

 その声は誰かに向けたものではないようだった。慌て取り乱している事は変わりない、しかし先程までとはまた違うウシオの様子にタツキとラトラが戸惑っているとウシオは一段と強くソウタを抱きしめまるで何かに祈るようにギュッと目を閉じた。

 「っ……ソウマ――」

 縋るように絞り出された切ない声が耳慣れない名前を口にした、その時……それは何の前触れもなく突如として現れた。



 風もなく、音もなく、微かな振動すら感じさせないほど静かに、されど確かに……それはタツキとラトラの数メートル背後に現れた。気配とすら呼んで良いものか考えてしまうほどの些末な”存在感”……並の獣なら気付かなかったであろうその希薄な存在を、神と王の二つ名を冠する二人の獣は決して見逃さなかった。

 何者かはわからない、しかし何の企みも持たない者がここまで気配を消すはずはない。気配を消す者はいつだって何かを狙う者である。獣としての本能、そして主人であるソウタの非常事態、心中穏やかではないタツキとラトラはほぼ同時に臨戦態勢で背後を振り返った。

 その存在を察知してから実にコンマ一秒にも満たないほどの凄まじい反応速度で振り返ったタツキとラトラの視線の先には……誰もいなかった。焼け焦げた黒い大地が延々と広がるだけ、その存在が居たと思われる場所にも足跡のようなものはなく移動したような形跡もない。気を張り過ぎたがゆえの気の所為か、とため息を零し二人が肩の力を抜いた……次の瞬間――

 「――ほんとにギリギリまで使い果たしてる……常に余裕を持ちなさいって何度も教えたのに……」

 その耳慣れない声はまたしても二人の背後から聞こえてきた。

 あり得なかった。考えられなかった。目で追えなかったとかではない、そもそも察知できなかったのである。二人の魔獣の鋭敏な感覚を以ってして一瞬気の所為かと思ってしまうほど、何一つ残滓を残す事なく二人の警戒網があっさり突破されたという事実にタツキとラトラは戦慄した。

 声に遅れてタツキとラトラが驚愕に見開かれた目をゆっくりと背後へ向けると……その声の主はソウタとウシオの側に片膝をついて腰を下ろしていた。

 ダークグレーのサラッとした見慣れない服を身に纏った黒髪の痩せた男は黒い手袋をしたその右手でグッタリとして動かないソウタの頭を優しく撫でるとほんのりと嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。

 「それだけ頑張った……て事かな」

 それはとても穏やかな、優しい声だった。

 男は束の間ソウタの顔を見つめていたかと思うと今度はおもむろに左手を伸ばしソウタの鳩尾の辺りへヒタッと押し当てた。この男が何者で、どこから現れ、何をしようとしているのか、タツキとラトラからは何もわからなかった。もしかしたら味方なのかも知れない、しかし自分達の知らない敵である可能性をこの時点では排除できなかった。現在のソウタは非常に危険な状態であり一刻も早い治療が必要である、頼みのウシオも半ば放心状態であり悪意を持った敵である可能性を考慮すればこれ以上好き勝手を許すわけには行かない、と……二人の獣は再び臨戦態勢を取る。

 「貴様……ッ」

 「ソウタから離れ――」

 この時、人間相手ではあるがタツキもラトラも始めから全力を出すつもりであった。戦闘直後と式になったばかりのラトラはまだ万全とは言えないまでもタツキの方は長い休息を経てこの上なく力も有り余っている、人間相手にそうそう遅れを取るわけはないという確かな自信が二人にはあった。が……長い年月を掛けて築き上げてきたその強固な自信は、まるで紙細工の城であったかの如く、いとも容易くペシャリと圧し潰される事となる……。


 ズッ……と、男から発せられた得体の知れない威圧感のような”何か”に包まれた瞬間、タツキとラトラはヒュッと息が詰まりまるで見えない何かに無理やり全身を押さえ付けられているかのようにピクリとも身動きが取れなくなった。身体を縛るものが己の恐怖であると、気付くのにそう時間は掛からなかった。世界が揺れているかのような、どんな生き物からも感じた事のないような絶望的な恐怖……背を向けたまま目の前にいると言う、ただそれだけで魂までも握りしめられているかのような絶対的な格の違いを、二人の獣は直接本能に刻み込まれていた。勝ち目など無い……勝負にすらならない……誰もが畏怖する神と王の名を冠する獣であった二人は目の前に佇む人の形をした生き物の背中を見つめながら怯え同じ印象を心に思い浮かべていた――


 ――化け物……と。


 それから少ししてフッ――と、男から発せられる”何か”が収まるとタツキとラトラは腰が抜けたように揃ってその場にへたり込んだ。震える身体を強張らせ乱れた呼吸を懸命に保とうとしていると男のフウと吐いたため息に思わずビクンと身体が跳ねる。

 何かを終え男がソウタから手を離すと……そこには身体の左半分を染めていたはずの赤が跡形もなく消え失せた真っ白ないつものソウタの姿があった。先程まで瀕死の重傷かと思われたソウタはまるで何事もなかったかのようにウシオの腕の中で静かに寝息を立てている。

 「……これでよし」

 「っ……ソウマァ……」

 ソウタの無事を確認した途端、ウシオは小さな幼子のようにわんわんと泣き出してしまった。ソウマと呼ばれた男は穏やかに微笑むとソウタにしたように黒い手袋をつけた大きな手でウシオをあやすように優しく撫でた。ウシオが泣き止むまで、落ち着くまで撫で続けると男はおもむろに振り返り背後の二人に人の良さそうな穏やかな表情を向け声を掛けた。

 「二人は初めましてだね、タツキ、ラトラ」

 そう言って立ち上がった男は顔の左半分を白い布のようなもので覆い隠していた。男はウシオから小さい布を受け取り左手に持つとへたり込んだタツキとラトラの元へ歩み寄り二人に手を差し伸べながら安穏と自己紹介を始めた。

 「僕はソウマ、ミソノソウマ。ソウタとは双子の兄弟なんだけど……どっちが先に生まれたとかはわからないから、一応僕が兄という事になってます」

 よろしくね、とにこやかに告げた男は何とも頼りなさそうな優男で先程とはまるで別人のようだった。差し伸べられた手を恐る恐る掴み立ち上がると、それまで全裸だったラトラは瞬く間にソウタ達と同じ白い和装に包まれ二人は再び驚愕を口にした。

 「これは……ソウタの……」

 「お、お前……本当に人間……なのか……?」

 「もちろん」

 左半分を隠した顔で頷きソウマはあっけらかんと穏やかに笑った。未だ納得行かない様子のタツキとラトラが顔を見合わせていると、その様子を眺めていたウシオからある提案が出された。

 「ソウマ、十二支が揃った事ですし、せっかくですから皆で顔合わせしませんか? 私も久しぶりに皆に会いたいです」

 その声に振り返り涙の残る目を擦るウシオを一瞥したソウマはまだ硬い表情の新入り二人を交互に見つめながら微笑み頷いた。

 「それもそうだね。ソウタが起きるまでもう少し掛かると思うし、いい機会だから紹介しておこうか」

 そう言いながらウシオの方へ戻るとソウマは再び片膝をついて座りソウタのお腹に手を添えた。

 「ネネ、ウイ、ミト、出ておいで」

 ソウマの優しい声に名前を呼ばれた三人は人の姿ではなく獣のままソウタの服の隙間からもぞもぞと這い出てくると、寝息を立てるソウタに寄り添い心配そうにソウタの顔を見つめていた。その様子を嬉しそうに見つめソウタのお腹の上に陣取ったウイの背中を撫でると、次にソウマは自身の胸に手を添えまだ見ぬ六人の名前を口にした。

 「トウマ、ヒツツジ、サルナ、シトリ、イヌカ、イノリ、皆もおいで」

 そうソウマが言い終えた次の瞬間、音もなく突然パッと現れた六人はまるで最初からそこに佇んでいたかのように平然とソウマ達を取り囲んで立っていた。みな人間の女性の姿で二十歳前後くらい、各々少しデザインの違う白い和装に身を包んでいる。

 そんな六人の中の一人、栗毛の長い髪をポニーテールに結い上げた女性がワナワナと震えながら唐突に膝から崩れ落ちると、まるで悲鳴のような絶叫が夜明け前の空へと響き渡った。

 「ソウタアアアアァァ……っ!?」

 「ッ――うる……っさいよトウマ! ほらぁ、またワン子が怯えてんじゃないか!」

 「……相っ変わらずソウタバカね……ソウマが治したんだからもう大丈夫でしょ?」

 号泣しながらソウタに頬ずりを始めた栗毛ポニテに対し、苦言を呈したのは茶髪ベリーショートの女性と派手な赤毛の女性であった。金髪超ロングなモコモコの女性はマイペースにウシオの肩を借りながら自身の髪に包まれてムニャムニャしており、ワン子と呼ばれた女性はそのモコモコの髪に頭だけ突っ込んで震えながら縮こまっている。黒褐色モサモサヘアーな女性は一人だけソウマの側に寄り添い頭を擦り付けていた。

 「ほら皆、新しい家族に紹介するからちゃんと顔見せて」

 ソウマはわいわいと賑わう式達に声を掛けると振り返り、唖然としているタツキとラトラへ簡単な紹介を始めた。


 ――ネネ(子々)……ネズミの式。灰褐色のショートヘアーでネズ耳のようなお団子がチャームポイントの小柄な少女。天真爛漫、明るく元気で喧しい。能力は際限なく分身を生み出す『増殖』。

 ――ウシオ(丑和)……ウシの式。長い黒髪を上品に結い上げまとめたエプロンドレスが大大大好きな大人のお姉さん。家内安全、柔和で豊満いつもニコニコ。能力は唾液から作り出される強靭な『糸』。

 ――ラトラ(蘭寅)……異世界出身、炎虎の式。白の王の二つ名を持つアホ毛完備純白ショートヘアーな俺系女子。普段は威厳に満ちた優雅な淑女だが可愛い物好きに目覚める(予定)。能力はその名の通り『炎』。

 ――ウイ(卯依)……ウサギの式。白髪ショートボブで中高生くらいのゆるふわ系愛されガール。戦闘は苦手だが逃げ足は一級品、甘えん坊な世渡り上手。能力は甘い香りで愛へ誘う『誘愛香』。

 ――タツキ(辰葵)……異世界出身、水龍の式。水の神の二つ名を持つ毛先が螺鈿に煌めく淡い水色のロングヘアーをさらりと流した雅な女性。義理人情に厚くウシオに並ぶ保護者枠な常識人。能力はその名の通り『水』。

 ――ミト(巳解)……ヘビの式。人の姿をソウマ以外の誰にも見せた事がないいつも気怠げなダウナー系女子。変温動物である影響か非常に面倒くさがり屋で出不精。能力は『解毒』。

 ――トウマ(通午)……ウマの式。栗毛のロングヘアーをポニーテールに結い上げた凛とした美しさを持つ大人の女性。ソウタを心から溺愛しており自他共に認めるソウタバカ。能力は秘密。

 ――ヒツツジ(未々)……ヒツジの式。艶のある乳白色の超超超ロングウェーブヘアーに全身すっぽり覆われたいつも寝てるモコモコお姉さん。寂しがり屋で近くに人がいると強制的に抱き枕にされる。能力は秘密。

 ――サルナ(申納)……サルの式。茶髪ベリーショートでさっぱりした性格の比較的面倒見の良いからかい好きな大人の女性。からかうのも彼女なりの愛情表現、申酉戌は仲が良い……多分。能力は秘密。

 ――シトリ(伺酉)……トリの式。派手な赤毛ロングヘアーが自慢のオシャレが大好きなお嬢様系淑女。彼女に対して間違っても地味とか言ってはいけない。だめ、絶対。能力は秘密。

 ――イヌカ(戌霞)……イヌの式。白黒茶色と三色メッシュのショートヘアーが特徴的ないつもガクブル子犬系女子。非常に臆病で小心者、気が付けば誰かの背後か物陰に隠れている。名前があるのに愛称はワン子。能力は秘密。

 ――イノリ(亥裡)……イノシシの式。金属製かと見紛うほどの髪質をした黒褐色モサモサヘアーのワイルド系寡黙女子。滅多に口を開かず何を考えているかわからないが基本的には大人しい……基本的には。能力は秘密。

 

 ソウマの紹介が終わると久しぶりの邂逅に式達は和気あいあいと華やいだ。そんな中待ってくれ、と声を上げたのはパッチリと青い瞳を見開いたタツキであった。やや困惑したその視線は真っ直ぐソウマへと注がれている。

 「どういう事だ……? 何故、其方からも式が出てくるのだ……」

 それはソウタの力ではないのかと疑問を呈するタツキからの訝しげな視線を受けると、ソウマはどこか哀愁を帯びた笑みを浮かべその視線をゆっくりとソウタへ向けた。

 「ソウタの人形術は元来、僕の力なんだ。ソウタが人形術を使えるのは多分だけど……魂を繋いだ僕と一卵性の双子だったからかな」

 確証はないけどね、と付け加えるとソウマは少し悲しそうに笑った。タツキは混乱する頭でゆっくりと情報を整理しながら徐々に核心へと迫っていく。

 「魂を……繋いだという事は……」

 いつの間にか辺りは静まり返り式達の注目が集まる中、おずおずと言葉を重ねるタツキへソウマはソウタを見つめながら静かに頷いた。

 「……お察しの通り、ソウタも式だよ」

 その瞬間、タツキの脳裏には雷に打たれたかと思うほどの強烈な衝撃が走った。式とは命ある依代を用いた人形術、通常依代として扱えない生命を魂を繋ぐ事で可能にした特殊な存在である。

 タツキはこれまでのソウタとのやり取りを思い出しながらソウマの告げた言葉の示す意味を問いただした。

 「それは……それはつまり……自分の弟を依代にしたと……そう言う事か……?」

 それはとても辛い言葉で、そう口に出したタツキ自身とても心苦しそうな複雑な表情をしていた。その場の全員から視線が注がれる中、しばしじっとソウタを見つめていたソウマが口をつぐんだまましっかりと頷いてみせると、タツキは綺麗な瞳に涙を滲ませながら込み上げる思いの丈を溢した。

 「何故だ……何故そんな……」

 「待ってください」

 タツキが追求を深めようとしたその時、ピシャリと挟まれたそれはウシオの声だった。ウシオもまた悲しげな表情でタツキを見つめるとソウマを庇おうと身を乗り出して切に訴える。

 「ソウマも……ソウタを依代にしたくてしたわけではないんです……」

 ウシオの言葉と懸命な様子に何か事情があるのかと受け止めタツキは思い留まって一歩身を引いた。ソウマは庇ってくれたウシオへありがとう、と微笑んで感謝を伝えるとタツキへ向き直り穏やかな優しい表情を見せた。

 「少し、僕達の事を話そうか」

 そう言うとソウマはソウタから依代を借り人数分の下級人形を作り出した。少し大きく作られた下級人形は人をダメにするクッションのように柔軟で、各々ベッドにしたり椅子にしたりと思い思いに腰を下ろすと急遽焼け野原には似合わないファンシーな座談会が始まった。

 「僕とソウタ、僕達兄弟は……生まれてすぐに捨てられたんだ――」

 そう言ってソウマはウシオの膝枕で静かに寝息を立てるソウタに優しい眼差しを向けると自分達の生い立ちについて語り始めた――。



 ソウタとソウマ、二人は生後間もなくとある施設の入口前に捨てられている所を通行人に発見され保護された。大きなベビーバスケットに並んですやすやと寝息を立てていた双子の白いおくるみにはそれぞれ『想太』と『想真』という名前の刺繍だけが施されていた。すぐに両親の捜索が行われたが結局発見には至らず、その後児童養護施設へ預けられるとその施設の名前から『海園』の姓が付けられ双子の兄弟は大切に育てられた。

 十年余りが経ち二人が小学校高学年になる頃、兄姉達が皆施設を離れソウタとソウマは施設で最年長となった。瓜二つながら少々気の強い明朗快活なソウマと物腰柔らかで冷静沈着なソウタは兄姉達に倣い弟妹達の良い手本となり、母代わりの園長先生やその他スタッフの手厚いケアの下穏やかな日々を過ごしていた……そんな時である。

 夕方の下校中にそれは起こった……後にフラッシュフォールと呼ばれる大災害である。東の空に立ち上った巨大な光の柱を見上げていたその時、ソウマは一人だった。ソウタ含め弟妹達は先に帰りソウマだけが所用で一人学校に残っていた。周囲の人々が次々と倒れていく中気を失いそうになりながらも必死に堪えていたソウマであったが……抵抗虚しくほどなくして意識を失った。

 再び目を覚ました時、眼前に広がる光景はまさに地獄絵図であった。見慣れたはずの通学路は知らない土地に来てしまったんじゃないかと不安を覚えるほどの凄惨な有様で、ソウマは恐怖に震えながらもソウタ達の身を案じ一刻も早く帰らなきゃと急ぎ我が家へ駆け出した。

 ゼェゼェと息を切らしフラフラとした足取りでようやく我が家へ辿り着いた時、ソウマは燃え盛る真っ赤な炎に包まれた施設をその瞳に映していた。皆で描いた壁の落書きも真っ黒に塗り潰されあらゆる窓から絶え間なく炎が吹き出していて、悪い夢か何かの冗談だと思いたかった。

 しばし呆然と立ち尽くしていたソウマは張り裂けんばかりの大きな声で弟妹達の名前を叫びながら火の中へ飛び込んでいった。熱さを気にする余裕はなかった。入り口を入るとすぐに真っ黒になった大人がまだ燃えながら倒れておりもはや性別はおろかスタッフの誰かだという事しかわからなかった。怖くて堪らなかったがそれでもソウマは涙を堪え必死に叫びながら弟妹達とソウタを探した。

 その日は七夕で、子供達が折り紙で作ったたくさんの七夕飾りはとてもよく燃えた。一階で園長を含めたスタッフ全員分の大人の遺体と二人の子供の遺体を見つけ、二階に駆け上がると普段皆が集まって遊んでいる大部屋に飛び込み更に四人の子供の遺体を見つけた。その部屋の中央に倒れていた自分と同じくらいの体格をした黒焦げの子供を見て、ソウマはそれがソウタだとすぐに分かった。

 慌てて駆け寄るとソウタはまだかろうじて息があった、が……筆舌に尽くしがたい酷い状態だった。全身重度の火傷で溶けた皮膚が突っ張り背中が床に張り付いて体勢を変える事すら出来なかった。他の弟妹達はピクリとも動かず、ちょっとでも動かしたら死んでしまいそうなソウタを前にソウマはただ泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 その時ふと……背後からザリッと足音が聞こえ咄嗟に助けを求めようと振り返ったソウマは次の瞬間部屋の壁際まで吹っ飛ばされていた。呼吸がうまく出来ず何が起きたのかもわからず混乱する頭で部屋の中央を見るとそこには上下黒い服の男が立っており、その姿勢とジワジワと湧き上がる脇腹の痛みからソウマは蹴り飛ばされたのだと知った。

 ソウマはその男の顔を知っていた。施設の隣りにある一軒家に両親と住む二十代のニートで、園庭で遊ぶ子供達の声がうるさいと度々施設に難癖を付けてきた男だった。うずくまりながら睨み付けるソウマを見ると男はチッと舌打ちを鳴らしソウマに歩み寄るなり躊躇なく思い切り頭を踏みつけた。男は呻き苦しむソウタを見下ろしながらニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべていた。砕けたガラス片の刺さった靴底を擦りつけジワジワと痛めつけたかと思った次の瞬間、男の足はボウッと突然炎に包まれた。

 子供のものとは思えない耳をつんざくような絶叫が辺り一面に響き渡ったが助けに現れるものなど一人もいなかった。ソウマは足をどかそうと必死に靴に掴みかかったが子供の力で動かせるわけもなく、足を掴んだ両手と踏みつけられた顔の左側頭部は刻々と酷く焼け爛れていった。ソウマの悲痛な声が徐々に力を失いかけていたその時、部屋の中央から掠れるような吐息が漏れたのを男は聞き逃さなかった。

 男はまた舌打ちを鳴らすとソウマから離れ何かぶつぶつと言いながら再びソウタの方へと歩み寄っていった。ソウタが殺される……ソウマは必死に身体を動かそうとしたがこれっぽっちも力が入らず、傷ついた小さな体は思うように動いてはくれなかった。何でこんな事に……誰か助けて……と切なく伸ばした手のひらに触れたのは部屋の片隅に飾り付けていた笹から焼け落ちた、少し焦げた兜を付けた折り紙のやっこさんだった。爛れ溶けた皮膚が裂け血塗れになった手でやっこさんを握りしめながら、ソウマは遠退いていく意識の中で強く心に願った……誰か、誰でもいい、弟を、ソウタを守って――と。


 悪夢に苛まれハッと目を覚ますと、ソウマはベッドの上にいた。両手も左目も包帯に包まれていてそこが病院の病室である事はすぐに分かった。ボヤケた視界で白い天井をしばらく見つめているとソウマは足元の方に誰かが立っている事に気が付き、痛む体に鞭打って無理やり上体を起こすと……そこにいたのは人の形をした得体の知れない赤い化け物だった。病室の片隅で天井まで達し窮屈そうな巨大な化け物は兜の被り物をしたような奇妙な頭の形をしていて、首を傾け静かに佇んだまま無感情な瞳でソウマの事をじっと見つめていた。

 するとそこへ看護師の女性が現れ、ソウマの目が覚めた事に喜ぶとすぐさま担当の医師を連れてきてくれた。医師はソウマに運び込まれた時の事と外で起こっている不可解な超常現象について話してくれた。

 話を聞くとソウマを病院へ連れてきたのはこの赤い化け物だという。ソウマを病院のスタッフに預けると化け物はずっと側に佇み何をするでもなく静かにソウマを見守り続けていたらしい。ソウマは気を失う直前の記憶を辿り、奇妙な頭の形からその赤い化け物があの時握りしめていた折り紙のやっこさんではないかと思い至る。それと同時にソウタの事を思い出しソウマは医師へ詰め寄った。そして、医師は化け物がソウマと一緒にもう一人、病院へ運んできた事を告げるとソウマをその患者の元へと案内した。

 その患者の状態は非常に悪く、病室に入れないと言われたソウマは部屋の前の廊下から透明な壁越しに中を見た。透明なカーテンに囲まれたくさんの管とコードに繋がれて、焼け爛れた全身を包帯でグルグル巻きにされ口元が僅かに見えるだけのその患者を、その動かせない体勢からソウマはすぐにソウタだと理解した。ボロボロと涙を溢すソウマの背中を優しくさすりながら、医師は出来る限り手は尽くしたがもうどうしようもない、何故まだ生きていられるのかわからないほどの重体だ、と理不尽な現実を告げた。

 ソウマは医師にソウタの側に居させて欲しいと頼み込み、単調に心音だけを告げる機械の音を聞きながら意識のないソウタの側に日夜寄り添い続けた。突然日常を失い、家を失い、家族を失い、たった一人の唯一の肉親さえ今目の前で失いかけている……その心労は計り知れず、ソウマはソウタの手を握りしめながら崩れ落ちるように深い眠りに落ちた。

 明くる日の朝、ソウマはピーッとけたたましく鳴り響く甲高い機械音に叩き起こされた。ベッドに突っ伏して眠っていたソウマはソウタに何かあったのではないかと慌てて飛び起きるとそこに、火傷痕どころか傷一つ無い綺麗なソウタの姿を見た。奇跡が起きたとソウマはソウタに飛びついて泣きじゃくり喜んだ。病室になだれ込んでくる医師達にも綺麗になったソウタを見せ、神様がソウタを助けてくれたんだとソウマは自身の怪我の事も忘れて大いに歓喜した。しかし……医師や看護師達の表情はみな暗く怪訝なものだった。

 すぐにその場でソウタの診察が始まった。が……医師はすぐに匙を投げた。脈もなければ心音もない、脳波もない、何故動いているのかわからないと医師は慄いて告げた。そんなはずはないと必死に食い下がりもっと良くソウタを診てと強く訴えていたその時、ソウマはソウタと目が合いドキッとした。

 無機質に、無感情に、ただ何もなくじっと見つめてくるソウタの目をソウマは見覚えがあると思考を巡らせた。そして……病室に佇んでいた赤い化け物の目に似ていると思い至った瞬間、ソウマは全てを理解した。

 折り紙のやっこさんを握りしめていた自分が、ソウタを守ってと強く願った事であの赤い化け物を”作った”……それと同じ様に死にかけのソウタの手を握りしめていた自分が、ソウタを助けてと強く願った事で綺麗なソウタが”作られた”のだと。

 自分に向けられたソウタの真っ直ぐな瞳がまるで自分を咎めているようで……この日、完膚無きまでに打ちのめされたソウマが吐き散らした慟哭はまるで地獄の底から上がってくる亡者の声であるかのように……鬱々と病院内に響き渡った――。



 「――この手でソウタを殺してしまったんだと、そう思った……あの時ほど自分を呪った事はない」

 滔々と語ってきたソウマは嘗ての在りし日を思い出しながら俯いて自身の手に目を落としていた。静かに聞き入っていた式達の中には涙する者もおり、タツキとラトラもソウマの凄絶な過去に悲痛な表情を浮かべながら真剣に耳を傾けていた。

 しばらく黙ったまま己の手を見つめていたソウマはふと一息つくとおもむろに顔を上げ、気分を切り替えたように穏やかな表情を浮かべながら新入りの式二人に目を向けた。

 「でもね……それからだいぶ経ったある日、病室でソウタが折り紙を折っていたんだ。式になってからは誰も教えていなかった、折り紙をね」

 「おりがみ……?」

 馴染みのない人間の文化にタツキが首を傾げるとソウマはこういうのだよ、とスーツの懐から兜を付けた赤黒いしわくちゃのやっこさんを取り出して見せた。小さな紙を緻密に折って動物や飾りなど色々な形を作る事が出来る遊びだよ、と教えるとタツキは殊更に興味を示した。

 微笑ましい反応に笑みを零すと手に持ったやっこさんに目を落としながらソウマは話を続けた。

 「その頃には、生き物を依代にする方法もわかってた。だからまだソウタは死んでないんだって、信じてはいたんだけど……どうしても確信が持てなかった。だから……その折り紙を見て、確信に変わった時は本当に嬉しかった」

 穏やかな声でそう語ったソウマは直ぐ側に丸まって寄り添うイノシシの式、イノリの頭を優しく撫でながら更に話を続けた。

 「ソウタはウシオ達式や、多くの人と関わる中で、少しずつ元の人間らしさを取り戻してきた。だから君達二人にも期待してるんだ」

 そう言うとソウマは改めてタツキとラトラの方へ向き直り姿勢を正した。お互いの顔を見合わせ少し戸惑った様子を見せるタツキとラトラへ、ソウマは君達は少々特別だから、と告げる。

 「特別……?」

 「そう……ソウタと直接魂を繋いだのは、僕以外では君達二人が初めてだ。魂を繋ぐ力は僕の人形術ではなく、恐らくソウタのものだと考えてる。君達と魂を繋いだ事がソウタにどんな影響を及ぼすのか、正直僕にもわからない……」

 未だ眠ったままのソウタを横目に見つめるソウマへ、此方達は一体何をすれば良いのか、とタツキが尋ねるとソウマは何も特別な事は望まない、と小さく首を振りながら答えた。

 「ただソウタの力になってあげて欲しい。これまでとはまるで違う生き方に戸惑う事もあると思うけど……家族の一員として、側でソウタを支えてあげて欲しい」

 よろしくお願いします、と唐突に深々と頭を下げるソウマから切実な想いを受け取ったタツキは、穏やかな寝息を立てるソウタへ視線を送ると愛おしそうに目を細めた。

 「ソウタは……澱みに侵されていた此方を救い、人ではない此方の苦悩にも、誠心誠意心を寄せてくれた。そこにもし打算があったのだとしても、ソウタが寄せてくれたその想いに、此方も精一杯応えたいと思う。こちらこそ、よろしく頼む」

 淡い水色の髪をサラリと垂らし丁寧なお辞儀を返すタツキへ、ソウマは心からありがとう、と微笑み感謝を伝えた。

 まるで結婚の挨拶かのようなしっとりとしたやり取りを交わしタツキが下げた頭を上げると同時に、突然全員から視線を注がれたラトラはギョッと肩をすくめ、胡座のような姿勢から居心地悪そうに背中を丸めると上目遣いにソウマを見つめながら渋々口を開いた。

 「……か、家族とかはよく分からん……よく分からんが……負けたからには、従う……今はこぞっ……ソウタが俺の主だ」

 尻尾のようにアホ毛を揺らし頬を染めてとても気恥ずかしそうに応えるラトラに、ソウマは口元をほころばせ優しく微笑んだ。

 「うん……今はそれでいい、ありがとう」

 ソウマの素直な感謝を聞くとラトラは照れくさそうにふいっと目を逸らした。


 顔合わせの座談会が一区切りを迎えるとここで、これまで仰向けに寝転がり静かに寛いでいた申の式サルナは振り上げた足の反動で上体を起こすと意気揚々とソウマにある提案を持ち掛けた。

 「んじゃっ、いー感じに話もまとまった所でソウマ……歓迎会やろうよ歓迎会! 念願の十二人揃ったわけだし、人間はほら、記念日? とか祝うの好きだろ?」

 「記念日とか言って……あんたはどうせご飯目当てでしょ?」

 「いーじゃんご飯美味しんだから! あ……いらないならシトリはご飯無しねー」

 「ちょっ……誰もいらないなんて言ってないでしょ!」

 「はいはいはい☆! あたしさんはチーズケーキが食べたい☆!」

 「ちーずけーき……あーウシオのミルクから作ったやつ? あれうんっまいよねぇ!」

 「ふふふっ、喜んでもらえるならいつでも作りますよ」

 「ちーずっ☆! けーきっ☆!! さいきょおっ☆!?」

 「――……これネネ……ソウタの頭の上ではしゃぐでない……」

 サルナが口火を切ると途端に式達は弾けるように賑わいを取り戻した。仲睦まじい家族の団欒のようなその微笑ましい光景を、ソウマは物悲しげな優しい表情を浮かべながらどこか遠い懐かしむような目で眺めていた。

 「……そうだね、地球に戻ったら折を見てやろうか」

 ソウマの前向きな回答を聞くと式達はより一層声を張り上げ喜びを爆発させた。するとそんな周囲の賑わいに誘われてかソウタがもぞっと動き目覚めの兆しを見せた。式達が次々とソウタの周りに集まり今か今かと可愛い寝顔を見つめていたそんな中……ただ一人、タラリと冷や汗を垂らす者がいた。

 「……まずい、ゆっくりし過ぎた……皆急いで帰るよ……」

 わざわざ声を潜めてそう告げたのはソウマだった。駄々をこねソウタの側を離れようとしない午から亥までの六人をせかせかと再び自身の中へ迎え入れると、そそくさと立ち去ろうとするソウマへタツキは訝しんで声を掛けた。

 「……どうしたのだ?」

 抜き足差し足……と静かにその場を離れようとしていたソウマはピタッ……と動きを止めると、ぎこちなく振り返り気まずそうに引きつった顔を浮かべながら小さな声で理由を話した。

 「いやぁ……書庫の仕事人形に丸投げして抜け出してきたから、バレると気まずいなぁ……なんて……」

 そういうわけだからあとよろしく、と付け加えたソウマが音を立てないよう慎重にソロリソロリと五メートルほど距離を取った……その時――


 「――……待て」


 静寂にピシッと緊張をもたらしたその声を受け、ソウマはガキンと石のように固まった。ウシオの膝に頭を乗せていたソウタはゆっくりと瞼を開き深呼吸して身体の状態を確認すると上体を起こし、石のように固まっている秘書の背中を鋭く睨み付けた。

 「……あれだけの怪我が跡形もなく治っていれば、バレるに決まってる」

 「で……ですよねー……」

 秘書はダラダラと冷や汗を垂らしながらギギギギ……と錆び固まったロボットのように振り返ると瞬きの一瞬の内に土下座の姿勢を取っていた。目にも留まらぬ実に無駄な早業である。

 見惚れるほどの実に綺麗な土下座を見せ秘書が潔く謝罪の意思を示すとソウタは小さくため息を零し至極面白くなさそうに口を開いた。

 「……こんな所までわざわざ駆け付けて、助けてもらった事には感謝しなければいけないんだけど……一言の相談もなく任せたはずの仕事放り出してきたわけだよね」

 そう言うとソウタは地面に額を擦り付けるほど深々と頭を下げる秘書に対し前々から気に入らなかった事があるのだと溜まりに溜まった不満をここぞとばかりに爆発させた。

 「この際だから言わせて貰うけど、いつもそうだ……秘密主義で何でもかんでも自分で出来るからって全部自分で対処しようとする所とか、女子の前で良いとこ見せようとしてすぐ調子に乗る所とか、一度こうと決めたら一切融通利かなくなる所とか自分は人の為に無理しておいてその癖周りには無理するなみたいに言う所とか……他にも――」

 次々と捲し立てるように浴びせ掛けられるソウタの不満を静かに聞きながら秘書は、ソウマはソウタの様子に違和感を覚えていた。ソウタが秘書を務める自分に不満を持っていた事は勿論知っている、長年我慢していた不満が爆発するのも十分理解できる。しかし……今ソウタがつらつらと挙げた不満の数々はどれも、式となったソウタの前で見せた事のない自分であった。

 高鳴る鼓動を抑えながら真っ黒な地面を見つめていると、その耳にそよ風のような優しい呆れ声が飛び込んでくる――


 「――全く……困った人だね、”兄さん”」


 ハッ――と、一瞬気が遠くなるような感覚を覚えたソウマは乱れそうになる呼吸を必死に堪えながら恐る恐る、ゆっくりと顔を上げ、地平線から上る朝日の後光を纏う少年をその瞳に映した。

 「おはよう、ソウマ」

 穏やかな表情と優しい声……それはあの日失ったはずの、物腰柔らかな弟のものだった。間違えるはずもない、たった十年余りの短い間だが、片時も離れる事なく一緒に過ごしたあの慎ましくも幸せだった日々を、今日この時まで……一日だって忘れる日はなかった。

 「……ぁ…………」

 言いたい事など海を埋め尽くすほどあるのに、胸が張り裂けそうで声が出なかった。次々と駆け巡る様々な思いが狭い喉に押し寄せぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

 助けられないばかりか自分の手で殺してしまったと思った……何度もやり直したいと、取り戻したいと幾度となく願った……この世でたった一人だけの、掛け替えのないただ一人だけの弟が、懐かしい優しい瞳で、真っ直ぐ自分を見つめていた。

 ツゥッ――と、頬を伝い滑り落ちた雫が黒い地面へ辿り着くよりも速く、兄は弟の胸の中へと飛び込んでいた。

 「ごめんっ……ごめんっ!? そんなつもりなかったっ……人形になんかしたくなかったっ……ごめん……ごめんソウタ……ごめん……っ」

 歳を重ねて大きくなった兄は小さいままの弟の胸に顔をうずめ子供のようにがむしゃらに泣き喚いた。当時十歳だった子供が九年もの間誰にも咎められず、一人で抱え続けた後悔と罪の意識が堰を切ったように止めどなく溢れソウタの胸元へ滲んでいく。

 「皆……皆守れなかったっ……子供達も先生も誰一人……皆……みんなっ……っ」

 「うん……わかってる……全部覚えてるよ……ずっと、一人にしてごめん……ごめんね、ソウマ……」

 赤子のように泣きじゃくる兄を、一人だけ大きくなってしまったソウマを抱えるように抱きしめ慰めながら、ソウタは痛い程に伝わってくるソウマの苦しみを受け止め心を寄せて静かに涙した。

 不条理に奪われた九年もの年月をお互いで埋め合うように、双子の兄弟は強く強く、互いの身体を抱きしめ合った。多くを失いながらもたった一つこの世に残った肉親という絆を取り戻し、朝日の祝福を浴びながら二人はいつまでも再会の喜びを分かち合っていた。

 そんな二人を温かく見守っているとふと……タツキは自身の瞳からも涙が溢れている事に気が付き驚いていた。胸に手を当てるとじわりと温かいものが広がり心を満たしていくのを感じる。

 「(これは……魂を繋ぐとはこういう事か……ソウタとソウマ……二人の心が、まるで自分の事のように伝わってくる)」

 ポロポロと零れ落ちる涙は冷たくても悲しくはなく、タツキは止めどなく溢れ出る心地の良い涙にしばしそのまま身を委ねる事にした。ズズッ……と隣から鼻をすするような音が聞こえ目を向けてみるとラトラもまた顔を見られまいと後ろを向きながら溢れ出る涙に戸惑っているようだった。


 家族の優しい笑顔に見守られながら、掛け違えたボタンのように引き裂かれた双子の兄弟は九年の時を経て再会を果たした。奪われた命は一つとして帰らず、失った時間を取り戻す術も決してありはしない……。

 しかしそれでも……たった一つこの世に残った希望に滲む雫は、陽の光を浴びてキラキラと二人の笑顔を彩るのだった――。



 ――信じて待っていてくれて……ありがとう、兄さん。

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