29.トリック・オア
トリック・オア・トリート。
この時期によく聞く言葉である。お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ。しかし、なぜお菓子限定なのだろうか。他のものではダメなのだろうか。
「トリック・オア・トリート!」
大勢の芸能人が集まる大型特番、その撮影後に、仮装した由梨香さんが色んな芸能人にそう言って回っていた。三階由梨香さん。高校生モデルとして活躍している人物であり、今回は秋のドラマの番宣のためにこの番組に出ていた。
「由梨香ちゃん、熱心だよね。舞夏君は協力してあげた?」
隣に立ってそう言う人物に、首を振る。彼女はクレアさん。由梨香さんと同じく高校生モデルとして活躍している人物であり、ニューヨーク出身のシティーガールである。カメラマン見習いとして色んなスタジオに入れてもらっている僕は、こうして芸能人と話すことが多い。由梨香さんとも同い年ということでよく話すのだが、彼女が何をしているのかまでは聞かされていなかった。
「由梨香さん、何をしてるんでしょう?」
僕がそう言うと、クレアさんが口を開いた。
「チャリティーだよ、あれ」
* * *
「チャリティー、ですか?」
首を捻る僕に、クレアさんが頷く。
「トリック運動って言ってね、色んな人からお菓子とかご飯とか貰って、それを困っている子供達とか家庭に届けるんだよ。由梨香ちゃんは、それを集めてるんだ」
クレアさんの言葉に、僕は何も言えなかった。トリック・オア・トリート。子供達がお菓子をねだるためだけの言葉だと思っていたが、そんな風に使われていたとは。お菓子をくれなきゃ悪戯するというのは一種の脅迫に聞こえるが、由梨香さんが行っているのは、そんなものではなかった。
トリック・オア。その言葉で集めた様々なものを、困っている人たちに渡し、笑顔に繋げる。そうして繋がった未来の先で、今度はその子達が、助ける側になる。きっと、そんな循環が起きるのだろう。トリック・オア。その先に続く言葉は、様々である。お菓子でもいいし、幸せでもいい。
「舞夏君、トリック・オア……」
トリック・オア・トリート。
「チョコでいいかな?」
この言葉で繋がる笑顔と未来が、きっとある。
END
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