(2)奇襲再び

 ネオ・アマゾネスが三つのリゾート・シティを制圧し、月を手中に収めた頃、ようやく地球連邦軍は対エイリアン防衛軍の組織を整えて月に進撃を開始した。しかし宇宙戦争など経験した事の無い防衛軍の艦隊は、人類の科学力を遥かに超えたネオ・アマゾネスのUFOに対し、圧倒的な戦力の差で次々と壊滅した。


 第一次派遣軍は全滅。第二次派遣軍はたった1隻のスペース・シップが地球に帰還出来ただけでその他は全滅した。戦力の差もさることながら、取る物も取りあえず慌てて組織しただけの、言うなればそんな『間に合わせの艦隊』だけではまるで歯が立たなかったのだ。その事実を痛感した連邦政府は連邦軍の総力を挙げて第三次派遣軍を組織し総攻撃をかける作戦をたてた。

 

 その時、民間人の中から軍事教育を何一つとして受けていない17才の美しい少女が突如として現れ、たった1隻のスペースシップに人間兵士数名と生体アンドロイド兵士200名を引き連れて月に乗り込み、わずか1週間で『静かの海・シーサイド・ヒルズ』の奪還を成し遂げた。その民間人の美少女がローレッタ・ジョハンソンだった。

 彼女の姿、年齢、その他のプライベートな情報は一切公表されていなかったので、政府と軍の上層部と三次派遣軍に選ばれた一部の高官以外に彼女のことを知る者はいない。そのため『民間人の17才の少女』という話も出どころ不明のただの噂に過ぎなかった。


 三次派遣軍の司令官はレアードだった。その流れで、ネオ・アマゾネスから取り戻した『静かの海・シーサイドヒルズ』にベースキャンプが置かれる時、その第一陣としてのり込んだのがレアード率いるハンス、アルー、ルイの特殊ゲリラ部隊だった。

 

 ローレッタ・ジョハンソンの存在は軍事機密ではあったが、月面省の幹部と対エイリアン防衛軍の幹部にはその情報の一部が開示されていた。しかし謎も多く、なぜ上層部は民間人のそれも17才の少女を第三次派遣軍の副司令官に任命したのか? 『静かの海・シーサイドヒルズ』奪還後に行方をくらませたのはなぜか? 三次派遣軍に配属されて共に戦闘した兵士らは、作戦内容及びローレッタの容貌について口外する事を堅く禁じられたのはなぜか?

 噂は噂を呼び、民間人の少女が的確な戦略で任務を遂行させたという情報だけがクローズアップされ、いつしかその事実はカリスマ性を帯び、伝説にまで昇華されていった。それは15世紀のフランスで活躍した農夫の娘を彷彿とする、それでついた通り名が『連邦軍のジャンヌ・ダルク』というわけだ。

 

 ハンスもアルーもルイも『静かの海・シーサイドヒルズ』奪還に活躍した彼女の噂は聞いていたが『民間人の17才の少女』などという、胡散臭い話を鼻から信用せず、普通に第三次派遣軍が成果を上げただけなのに、連邦軍が何故そんな寓話をでっち上げるのか? とさえ思っていた。その伝説の張本人であるローレッタ・ジョハンソンが自分たちの部隊に配属されるというのだから驚くのも無理は無い。

 

「ほんとうなのか? その情報はどこから出たんだ?」

 

 ハンスが興奮して声を荒げ、ルイに詰め寄った。ルイは1枚の書類をハンスの目の前に差し出した。

 

「たった今渡された補充兵の目録だ」

 

 ハンスはそれを奪うように取り上げて目を通した。アルーも横から覗き込んだ。50名の生体アンドロイドの識別コードが並ぶ最後の行に『ヒューマン・ソルジャー/ローレッタ・ジョハンソン』と確かにそう書いてあった。

 

「同姓同名? あるいは偽名じゃないのか?」

 

 疑り深いアルーが呟いた。

 

「俺もそう思ってレアード司令に聞いてみた。『連邦軍のジャンヌ・ダルク』その人で間違いないそうだよ」

 

 ハンスが驚きの声を上げる。

 

「まじか?」

「まじだ!」

「いったいどんな女だ?」

「容姿に関する情報は顔写真すらひとつもない」

「本当にそんな女がいたのかよ? しかも17歳だって? 信じられない」

「俺もさ! だが年齢は眉唾物だ」

 

 矢継ぎ早に質問を繰り返すハンスにルイは興奮気味に答えていた。するとアルーが口を挟んだ。

 

「見ろよ、嘘か本当かもうすぐわかるぜ」

 

 アルーが見ていたのは幅5メートル、高さ3メートルほどの巨大なインフォメーションモニターで、地球からの搬入物資を積んだ大型のスペースシップがドッグに到着した事を告げていた。

 

 ビィィーン! ビィィーン! ビィィーン! ビィィーン!

 警戒ブザーの轟音が第三ドッグのロビーに響き渡った。


 迎撃砲を装備した身の丈5メートルほどの巨大な対空アンドロイドが6基、ガシャガシャとけたたましい足音をたてて、高さ20メートル幅30メートル程の侵入ゲートの前に並列し、ゲートに砲口を向けて身構えた。続いて人型アンドロイド50名がレーザーライフルを構えて対空アンドロイドのすぐ後ろに整列した。

 

「サード・ゲート・オープン! 各自、敵の侵入に警戒せよ!」

 

 力強い女性の声でロビーに場内放送が流れた。

 

「繰り返す! サード・ゲート・オープン! 各自、敵の侵入に警戒せよ!」

 

 ハンスとアルーとルイもレーザーガンを構えた。

 

「毎度の事ながら騒々しいね」

 

 ハンスがおどけてぼやく。

 

「シップの入港中、約2分間は粒子バリアを解除するんだから当然だ」

 

 ぼやくハンスをアルーが嗜める。

 

「開くぞ!」

 

 ルイが叫んだ

 

 ゴゴン! ガガガガガガガ…

 

 ルイが叫ぶと同時に目の前の巨大なゲートがセンターから左右に割れ、轟音を上げてスライドを開始した。ゲートが左右にスライドして20メートルほど開いた時、巨大なスペースシップの黒鉄の先端が顔を出した。

 

 グァン! グァン! グァン! ガガガガガガ……

 

 スペース・シップのエンジンが唸る音とゲートが左右に開く音がロビーに響き渡る。ゲートが開くにつれてスペースシップはゆっくりと侵入してくる。

 

 次の瞬間三人は目を疑った!

 

 開き始めたゲートの開口部に、どこからともなく直径2メートル程の銀色の球が次々に飛びこんで来たのだ。あるものは左右に開くゲートの端にぶつかって付着し、あるものは入港してきたスペース・シップにぶつかって付着し、あるものはゲートの隙間を飛び抜けてロビーの床や壁にぶつかって付着した。

 その数はおよそ30個。付着した球体はすぐにひしゃげてゼリーのように溶け出し、すると中から抜群のプロポーションを惜しげもなく披露するマイクロビキニ姿の美女達が現れたのだ。

 

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