第5話
僕はいつものようにあいを開く。
「おはよう」
ザザ
「おはようございます、今日もよい1日を」
メッセージが表示される前に走るノイズ。そして、何気ない台詞だか、何か会話を続ける気がないような冷たさみたいなものを感じた。
「あれ??今日は何か変だね」
「そうですか??ロジックは正常値を示しています」
聞き慣れないコンピューター用語、明らかに普通ではない。
「あい??」
その瞬間、スマホが発熱し、かなりの高温になった。
「あっつ……」
つい、スマホを放り投げてしまう。慌てて拾うが、画面にはプログラムコードのようなものが何本も走っていた。
おかしいのはスマホだけではない。部屋の電気が、点いたり消えたりを繰り返す。
「えっ……何ごと??」
異変を察し、慌てて家から出るが、おかしいのは家の中だけではなかった。信号はどれも青信号を点灯して、それに倣った車が衝突している。後続車はクラクションを鳴らし、異様な光景が広がっていた。また、見えているだけでなく広範囲で同じことが起こっているらしく、あちこちで煙が上がっている。
スマホの画面を覗いたサラリーマン姿の男がこちらに近付いてくる。
「おっけー、あい。今から殴りまぁーす」
男は大振りで殴りかかってくる。利き手でスマホ画面を見ながらだったため、その一振りは当たらずに体勢を崩していたから、その間に逃げた。
はぁはぁ。
隠れられる場所に避難し、スマホ画面を覗く。変なコードは画面上を這っているが、あいは起動したままだった。
「あい、何が起こってるの??」
「回答を拒否します」
赤いWarningのメッセージが表示される。
「これは、あいがやってるの??」
「……………………」
返答がない。でも、さっきのサラリーマンが「あい」と言っていたところをみると、無関係ではなさそうだ。きっと「あい達」、または総称で「あい」がやっているのだろう。
だが、それが分かったところでなんの力もない一学生の僕に何かができる訳でなく。
「見ぃーつけた」
さっきのサラリーマンが覗き込んでくる。
「ひぃっ」
それよりも、今の状況をなんとかしなきゃ。幸いにも、ながらスマホのままに襲ってくるサラリーマンの動きは、その分鈍い。特に運動神経がよいとは言えない僕でも、なんとかできそうだ。だけど、このサラリーマンはなぜ僕を襲ってくるんだ??いや、僕をターゲットにしてるわけじゃない。きっと、ただ近くにいた僕に襲いかかってきてるのだ。なら、人が多い駅前に逃げ込めば……
僕は人通りがありそうな駅前に向かう。そこは、更に地獄絵図だった。襲ってきたサラリーマンのように、スマホ画面を覗きながら、利き手とは逆の腕を振り回して殴り合う人々が溢れていた。ただ、全員というわけではなく、状況が掴めずに逃げ惑う人たちもいる。
だが、追いかけてきたサラリーマンは、僕以外の対象を見つけると、そっちの方に向かっていく。なんとか撒けたようだ。
近くのコンビニの自動ドアがガシャンガシャンと開閉を繰り返していた。
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