第二話:ライバルは"洪水売りの少年"
乾いた風が砂埃を巻き上げる村、サン・セコ。アンナがこの村を選んだのは、データ上では豊富な水源があるにもかかわらず、人々が水不足に喘いでいるという矛盾に興味を引かれたからだ。
案の定、村の広場では少年リオが法外な値段で水を売りさばいていた。彼は村の上流にある川を岩で堰き止め、水を独占しているのだ。そのやり口はあまりに短絡的で、粗暴だった。
「美しくない仕事…」
アンナはリオの隠しダムの場所を特定すると、彼の水樽倉庫の風上で、おばあちゃん特製の時限式発火装置『サン・スポット』を仕掛けた。レンズで太陽光を集め、設定時刻に発火させる古典的だが確実なトリックだ。
しかし、リオはアンナが思うより勘が鋭かった。炎が上がると同時に、彼はそれが人為的なものだと見抜き、アンナの潜む藪へと一直線に向かってきた。
「てめぇの仕業か、火付け女。面白いことしてくれるじゃねえか」
ナイフをちらつかせるリオに、アンナは冷ややかに告げる。
「あなたのシマ?いいえ、ここは私の新しい市場(マーケット)よ。そして、同業者の雑な仕事は、市場全体の価値を下げるの」
アンナは『エコー・ミラー』に合図を送る。数秒後、遠くで小さな爆発音。リオがダムとしていた岩盤に、警告用の小さな亀裂が入った。
「なっ、てめぇ、ダムに何をしやがった!」
「少しだけ、解放してあげたの。私が合図すれば、おばあちゃんがあの岩盤の最も脆い部分を破壊し、鉄砲水を発生させられる。さあ、選んで?あなたの目の前の小さな火事か、この村を飲み込む大水か」
知略と科学、そして圧倒的な準備の差を見せつけられたリオは、戦意を喪失し村を去るしかなかった。アンナはその後、村人たちに「この騒動で壊れた」ダムの修復と、効率的な水の管理システムの導入を売りつけ、リオ以上の利益を手にしたのだった。
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