第3局 対局日

 勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む


 将棋でも、例外なくそうだ

 最近の流行や相手の傾向を分析して、その戦法を対策する

 相手の予想を裏切るびっくり戦法だって、緻密な計の上で紙一重で成り立っているものだ



(あぁ……終わった……もうだめだぁ、おしまいだぁ……15歳なのに降段って……)


 朝、琉千亜はぐっすり寝てしまってるとこを美礼に叩き起こされる

 琉千亜は朝が弱いのだ


「おはようございます、るーちゃん……対局日、久々にぐっすりと寝れたようですね」


(アタマの中に徹夜の研究データが入ってない……入ってねぇんだよこの野郎っ!かろうじて向こうがやってきそうなの暗記してるけど……)


「……るーちゃん……?今日の朝ごはんのフレンチトーストですよ、気合入れていきましょう」


「フレンチトースト!?もちろんアイスは乗ってるよね!?」


「ふふっ、もちろんです」



(んゆ……フレンチトースト美味しい……やっぱ朝は甘いもの……)


「るーちゃん、絶対に、今日勝ってくださいね」

 

 そんな美礼の言葉は聞こえてなく、甘いものに目がない琉千亜はフレンチトーストに夢中


(……今日負けたらイヤだし……願掛けに、あれ、つけていくかぁ)



 将棋連盟の対局場

 琉千亜は、定刻の少し前に到着した


 相手は、地方の進学校に通ってる高校2年生

 昨季に初段に上がったばかりの相手

 琉千亜とは、反対のような人物だ


「あなたがお相手の彩瀬さん……ずいぶん派手ですね……パーカーに、ネックレスにピアス……」


 相手が琉千亜のことを舐め回すように見ながら、そう口にする


(盤外戦術……揺さぶられるな、ここは、腹を括ってこっちも……)


「……亡き同期の形見、知ってるでしょ?ここにいるのなら、あとパーカーは、単純にお金がないから」


 琉千亜の願掛けとは、とある元同期がよく着用していたピアスとネックレス

 少し女の子っぽいデザインだが、中性的な整っている容姿の琉千亜にはすごく似合っている


 定刻になったので、2人は対局を開始する



(……ふぅ、奨励会でこの勝つ感覚、久しぶりだな……今日はなんか読みが冴えてたし、なんかふわふわして、いきなり考えてることが遮断されないし、欠伸もないし……ぼくの降段点も、今日付く可能性は消滅したし)


 82手、後手の琉千亜の快勝だった


「っ……彩瀬さん、まさか、こんなに強いとは……自分の棋士生活も、なかなか順風満帆には行きませんね……」


 相手は、そう言い残す

 まさか、6連敗中の相手がこれだけ強いとは思っていなかったからだ

 琉千亜は気にせずその場から去る

 午後からの本日2局目に向けて、少しリラックスするためだ


「まぁ……ありがとうございました」


(美礼も勝ったみたい……やっぱこのピアスとネックレス、すごい……次の対局日もつけていこ!)


 そして、本日の降段点回避を決めて破竹の1連勝と波に乗り切りたい琉千亜は、次の相手との対局に備え、脳をフル回復するために美礼と一緒にとってもあま〜いスイーツを食べるのであった





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