B’z THE NOVEL ― Buzz The History ―
竹内昴
序章:熱狂の終わり
1988年、東京ドーム。
轟音と歓声が夜空を突き抜けていた。
BOØWY――日本のロックが初めて巨大な会場を揺らした夜。
ギターが最後の和音を鳴らし終えた瞬間、何万人もの声が泣き崩れた。
その終わりを、誰も「終わり」とは思いたくなかった。
「俺たちが去ったあと、その火を継ぐ者がいるとしたら、
そいつはどんな音を鳴らすんだろうな。」
氷室京介は、楽屋の片隅で小さく笑った。
布袋寅泰はギターをケースに戻し、指先の火照りを見つめる。
彼らの後ろ姿を、誰かが遠くから見ていた――
まだ名もなきギタリスト、松本孝弘だった。
あの夜から、東京の街は少し静かになった。
バンドブームの熱狂が終わり、人々は新しい“時代の音”を探していた。
ディスコも、アイドルも、ロックも――すべてが行き場を失っていた。
新宿の小さなスタジオ。
一人の男が、黙々とギターを弾いていた。
音のない闇を切り裂くように、指が動く。
音はまだ未完成だった。
彼――松本孝弘は、ただ“完璧な音”を夢見ていた。
「まだ足りない。もっと遠くへ届く音があるはずだ。」
同じ頃、名古屋の大学の夜。
教室に残って、ひとりノートに文字を刻む青年がいた。
彼の名は稲葉浩志。
教師を目指しながら、心のどこかで、何かが足りないと感じていた。
言葉を書いては消し、また書く。
そのたびに、胸の奥が疼いた。
「誰かに届くんだろうか。
こんな声が。」
彼の中には、まだ“音”がなかった。
だが“叫びたい言葉”だけが、確かにあった。
1988年、ある日。
音楽事務所の小さなオーディションルーム。
二人の男が、偶然同じ部屋にいた。
松本がギターを構え、稲葉がマイクに立つ。
部屋は狭く、冷たい蛍光灯が照らすだけだった。
最初の音が鳴った瞬間、空気が変わった。
ギターの歪みと、声の震えが、まるで二つの星のように衝突した。
松本は思わず顔を上げ、稲葉の目を見た。
稲葉は息を呑み、言葉を失った。
その一瞬――
世界が少しだけ、動いた。
「誰も知らない夜、二人の孤独が出会った。
それが、B’zの始まりだった。」
――ナレーション(宮沢りえ)
彼らはまだ知らなかった。
その出会いが、
日本の音楽史を塗り替え、
幾百万の人生を照らすことになることを。
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