adoptatus! 天使の輪
インテリタスの頭の上に白い輪っかが浮かんでいた。支えている棒やどこかから垂れ下がっている糸はない。白い輪が頭上に浮かんでいるのである。少女を愛らしい天使のような姿に変えているそれだったが、きっと、どこからか拾ってきた怪異だろう。
「それ、どうしたんだ?」
マナブが輪っかを指さして聞くと、インテリタス本人には視界に入っていないらしく、一生懸命頭上を見ようとくるくる回っていたが、徒労になった。長い髪を揺らしながら少女は首を横に振って、わからない、とマナブに返す。しかし、はた、と気が付いたようにおずおずと小さな手を伸ばしインテリタスが頭上に手を伸ばした。そのつるつるとした感触を確かめた後、怪訝そうな顔をする。
その仕草でマナブは輪の端に細い紐がぶらりと垂れ下がっているのに気が付いた。どこかで見たような線だ。マナブのバイト先の事務所の天井、蛍光灯の下にさがっていたような……。紐の先には小さな引き輪が付いているのもそっくりである。思わず、なんだこれ、と呟きマナブはそれを引っ張ってしまっていた。
本当ならば何の怪異かわからないものに刺激を与えるのは避けた方がいいのだが、スイッチが目の前にぶらぶらしていて、つい手を伸ばしてしまったのだ。カチッと鳴って、案の定、インテリタスの頭の上の白い輪が光った。
「うわ、まぶしっ」
太陽を直視した時のような明るさに襲われて、マナブは思わず少女から目をそらした。明滅が起こり、マナブの目の前でチカチカと光が舞う。目が刺されるとこうなるかもしれない。瞼の中で眼球がばちばちと跳ねまわり、刺激で頭も痛い。
インテリタスも眩しかったに違いない。少女もぎゅっと目をつぶった結果、二人はお互いの視界から目をそらすことになってしまった。
刺激が収まったあと、恐る恐る目を開いて瞬かせる。徐々に明るさに慣れ始めてきていたマナブの目には、わらわらと集まった白い服の人間たちが映っていた。インテリタスとマナブを囲んでいるのに気が付く。目の前にいる少女と同様に、頭に白く光る輪っかを浮かべた可愛い人型たちに包囲されてしまっていたのだ。
ふわふわとした白いローブに身を包み、金色の髪の毛をくりくりと揺らす。この類の姿は街の中でも見たことがある。看板や装飾の中にいる天使たちである。頭に光る輪を乗っけた何か達は、どう見ても、インテリタスの頭に乗っている輪に関連した怪異たちに違いない。
「うっわ、何なんだよ……」
輪っかの次に現れた怪異にマナブは声を漏らした。怪異の集まる特区と言えども、こう次から次へと集まってくるのは珍しい。クリスマス前の雰囲気で関連する怪異が醸成されているのだろうか。街に出たら、もっと浮かれた怪異たちが集結しているかもしれなかった。
「〇▼□♡~!」
「あ゙~!」
「み゙っ!」
ニコニコと笑顔を浮かべながら、天使たちは人間にはわからない言葉で会話し合っていた。インテリタスを指さして何やら相談しているようだ。その内容はわからないものの、敵意は感じられない。マナブはひとまず警戒を解いた。
──天使って、こんな変な声出すんだ。
金属音のような声を出しながら、天使たちの話題は頭の上に蛍光灯が乗っかっている少女だけではない。不躾にマナブの顔も指さしながら身振り手振りを交えて、手で丸を作ったりばってんを作ったり……、何か品定めをされている。
そして、マナブに向けて天使の一人がえいっと指さし、マナブには意味の通じない言葉を放った。
「けばちょん」
次の瞬間、マナブの頭の上にはふわりと何かの気配が舞い降りていた。地面にある影の頭上には輪が写っており、マナブは恐る恐る自分の頭に手を伸ばす。そこにはインテリタスの上に乗っかっている輪っかが同様に乗っかっていた。──どうやら、呪われたらしい。
「げぇ、なんだこれ!」
「いっしょ」
インテリタスにある輪と同じく、マナブの白い輪の端にも引き輪のついた紐がついている。天使たちが喜びながら引っ張るようにマナブに促した。集団の勢いに押されて、マナブがしぶしぶ線を引くと、予感通り、頭の上で輪っかがぴかっと光った。
「わ、眩しっ」
二度目の眩しさにマナブもインテリタスも再び目を閉じた。その光の明るさに慣れたころを見計らい、天使たちは二人を囲んでぞろぞろと街の方へと移動していく。
連れていかれた先は、商店街の大きなパネルの前である。その真ん中には聖母マリアとキリストが描かれている絵があった。天使たちが次々と看板の中に飛び込んでいき、それぞれの場所でポーズをとり始める。
「み゙~!」
「▼◎◇~!!」
せっつくようにマナブとインテリタスにも絵の中に飛び込むように促す天使たち。どうやら、クリスマスに向けて足りない天使のイラストの手伝いをさせられることになったらしい。マナブとインテリタスは隅の方でラッパを吹く係だ。
「これ、バイト代出んのかなあ……」
「ばいと」
ラッパに興味津々なインテリタスを横目に、パネルの端でボヤくマナブであった。
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