第2話 帰国

 ピロロ公国での内戦は終わりを迎えた。


 一夜にして少年兵を除く全兵士たちの右足が損なわれ、少年兵が全て行方を眩ませた事による争いの終結はどのメディアでも取り上げられ、そして、一晩にして騒がれることもなく消えた。


 帰国。


「オー綺麗さっぱりなくなってら」


 家があるはずのところには何もなく「空き地」の看板が地面に突き刺さっている。嗅ぎ回ってみれば、五郎がピロロ公国に発ってからすぐに母親が頭をおかしくさせてしまい、兄の夫婦や妹と弟を殺してしまったらしい。


「そんな便りの一つもなかったけどなぁ……」


 ただまぁ、母親の暴走で家族が死んだと言われれば納得できた。

 昔から母親はおかしくなると暴力に走る癖があった。その事もあって兄や五郎はよく身体にアザを作っていた。


「そっか、みんな死んじまったのか」


 五郎はそう呟いてから静かに瞼を下ろした。「結局、いつも俺ばかりが独りになる」……そのような言葉が喉の奥で外に出るのを望んでいるが、飲み込んだ。


 五郎は普通の子供だった。岩手の県南で生まれて、好きな食い物はライスカレーで、空手と柔道を習っており、現在空手四段・柔道五段。長野で警官をやってから、ほかにもいろいろやって、ピロロ公国に。


故郷くに、離れなきゃ良かったな」


 きょうだいは最期、俺の名は呼んでくれたろうか。


 ……いつまでもグチグチ言っていたって始まらない。五郎はギターを背負って、駅に向かって歩き出した。


 五郎はギターと言うのが好きだった。ギターは憶えさえすればみんなどいつもこいつも好き勝手に演奏することができる。


 ピロロ公国にいた頃も、五郎は保護した少年兵にギターを教えていた。すると彼らは少しずつ笑ってくれるようになった。


 笑み幸せを育む彼らの笑顔を護るのが自分の務めであるとそういう事を思って今まで頑張ってきた。子供変われど大人は変わらない。だから全てを破壊した。破壊しなければならなかった。


「…………」


 兄は豪快に笑う男だった。苦労の絶えない女に惚れる癖があり、それでも誰でも何でもかんでも救おうとする人の心深い男。弟は真面目すぎる男だった。地元の警官をやっていたが、汚職の事件を見過ごせず、相手をしようとして片腕をなくしてしまった。妹は能天気なところがあったが、それでも目に付く人や腕の届くところにいる人すべての幸せを願う優しい少女だった。こんなきょうだいを産んだ母はと言うと、きょうだいの父親を保険金目当てで殺したバカアホタレ屑ウンコだった。


 五郎は母親の事を思い出す度に、「俺はいつも何かが足りないから、母親に似てしまったんだな」と思う。父親は神戸で刑事をしてから国際刑事警察機構に所属するようになった正義の男だったから、他のきょうだいはみんな父親に似たんだと分析をぶちかます。


「…………」


 もっと優しい母の子に生まれていたら。


「…………いけないな……」


 自分の道を作るのは親ではなく自分である。


「言い訳をしたくて仕方がなくなってんだな」


 五郎は自分の両頬をパチンと叩いて、「情けない」と呟いた。


「これから頑張るぞ!」

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