番外編 更新と長所(月)
マネージャーである私、
できればただ付き添いとして、後ろでにこにこ笑顔で立っているだけだったらいいんだけど。
アルバイトのマネージャーでも、担当アイドルの奏歌さんがおかしなことをしたら私が怒らなくてはいけない。
そうしないと、私が社長(沙夜ちゃん)に怒られる!
「あのぉ奏歌さん、今少しいいですか?」
「………………なに?」
なぜか奏歌さんの機嫌が良くない。
いや、理由はわかっているんだよ。
昨日はせっかく奏歌さんがSNSを投稿したのに、私が小言を言ってしまったから。……でもあの内容は、なにか言いたくもなるって!! ファンが好意的な解釈してくれていたから良かったけど、変な空気になった可能性もあったよね!?
「…………お腹って空いてますか?」
「……別に」
よし、じゃあ機嫌最悪ってことはないか。
空腹時の奏歌さんは問答無用で機嫌最悪だからな。
しかし二日続けて、奏歌さんに苦言を
「この前書いてもらったらプロフィールあるじゃないですか。更新したいからって、新しく書いてもらったあれです」
「…………それがどうしました?」
「もらった内容なんですが……『ペットなし、喫煙なし』ってなんですかこれ!?」
「そのままですけど」
「ダメですよ、これをプロフィールに設定するつもりですか!?」
「……ペット飼ってないし、喫煙もしてないですけど」
「そういうことじゃなくてですね!!」
髪を洗った投稿については、たしかに私も細かいことを気にしすぎたかもしれない。でも今回は看過してはいけない。
どこのアイドルのプロフィールに『ペットなし、喫煙なし』なんて書いてあるんだ!!
「『なし』は書かなくていいんですって、『あり』のほうを書いてくださいよ! 特技とかマイブームとか」
「でもプロフィールにこういうの書いている人いますよね」
「それフリマサイトとかの話ですよね!? ああいうのは、ペットなし喫煙なしが重要な情報だから必要ですけど……いやまあ、ペットなしは最悪いいですよ? 本当なら、ペットは飼っているときだけ言えばいいと思いますけど……わざわざ『ペット飼っていないです』って言う必要ないですし……」
こういうの、私は慣れていないからどうしてもはっきりした言い方ができない。
でも変なこと言っていないよね? この前だって、結果的に上手くいっただけで私は変なこと言ってなかったし。
「でも『喫煙なし』はダメですよ!! 奏歌さん十五歳で高校生なんで喫煙してないのは当たり前なんですから!!」
「……なしだからいいじゃないですか」
「だから、なしは書かなくていいんですよ!!」
私は至極真っ当なことを言っているはずなのに、奏歌さんは眉をひそめて「うるさい」と言いたげな顔になっている。でも実際に舌打ちしてきたり、「うるさい」って言ってきたりしないから、少しは私の話が正しいと思って聞いていてくれているんだろうか。
「……じゃあ、ありに変えていいですよ」
「いや、ありはもっとダメですって!!」
「ペットあり、それならいいんでしょ?」
「……え、ペット……飼うんですか?」
もちろん、フリマサイトのプロフィールではないから、ペットを飼っていることを書くのは……アイドル的にもいいと思う。
「早瀬さん、うるさいし、ペットみたいなもんだから」
「うるさくないペットもいますよねっ!?」
奏歌さんが突然わけわからないことを言うから、私も変なことを言ってしまった。
違う、私はペットじゃないことを反論すべきだった……。
「自分のこと、よくわからないし……適当にそれっぽいこと書いておいてください」
「え、私が書くんですか?」
「マネージャーなんだから、担当アイドルのプロフィールくらい、アイドルとして相応しく書けますよね?」
たしかにアイドルのプロフィールは、本人が考えるところのほうが少数派な気もする。たいていはマネージャーとかプロデューサーとかそういう人が考えていて……。
「いや、でも私には荷が重いというか……」
なんとか奏歌さんにもう一度書き直してもらおうとするが、もう知らないとばかりに顔をそらされる。
しかたなく、一晩かけて奏歌さんのプロフィールを考えたけど……。
「これ、なんですか?」
「……ダメですか?」
「『長所、綺麗な瞳』」
「…………すみません、書き直してきます」
大食いとか食べ物雑学とか書くわけにもいかず、顔がいいだと直接的すぎるし……と悩んでひねり出したのが、奏歌さんの引き込まれるような綺麗な瞳だった。
でも、このプロフィールはそもそも本人が書いているという体裁なのか? だったら自分で『長所、綺麗な瞳』って書くのはちょっと変な気もするけど……奏歌さんだったら言ってもおかしくないし、ファンも基本的にはこういうのはマネージャーとかが書いているものって思う気がする。
「別に、書き直さなくていいですけど」
「……いいんですか?」
「早瀬さんが、そう思っているなら、別に」
「…………ありがとうございます?」
よくわからないけど、奏歌さんは怒っていないみたいだった。
でもこっちは見てくれない。え、不満はあるってこと?
「社長に相談して書いてもらいましょうか?」
「……そのままでいい」
……奏歌さんがそう言うので、プロフィールはこれで更新することになった。
よかったのかなぁ。
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