第39話 借金
「借金ですか……? 借金があるから……」
「あの、星原さん?」
「そんなことしてまで……」
「落ち着いてください! 社長、これを……星原さんに見せてもいいですか?」
早瀬さんが確認してみせてきたのは――……。
なにかを認識するよりも先に、大きなモノクロ写真が目に付いた。
これ、写っているの、わたし……と桜さん!?
じゃなくて……早瀬さん……?
ともかく、わたしが早瀬さんの家に行ったときの写真だ。アポなしで行って、びっくりさせてやろうと思ったら、まさか桜さんが出てきてわたしのほうが驚かされた。
なんでその写真が? これ、どっから撮って――……。
「え、なんですか、これ……は? 熱愛発覚? お部屋デート? 謎のイケメン?」
嘘、なにこれ。
「雑誌の記者に撮られていたみたいで……」
「え、雑誌……? 載るの?」
……桜さん、スキャンダルじゃん。わたしと桜さん、雑誌載るわけ!?
「大丈夫なんですか、これ?」
「あー、今その話をしてまして……一応、星原さんからも社長に説明してくれます? これ私の男装で……あと、前は私が天雨桜って名前で男装してアイドルやっていたってのも……」
なに言っているの?
だって早瀬さん、隠してたじゃん。それにそんなの社長に言って――え、記事になったら、そんなの……。
「違うけど? なにそれ。このイケメンは行きずりの男だけど?」
「えええぇっ!? 星原さん、急にどうしたんですか!?」
「なんですか、男装って? 意味がわからないです。アイドルだかなんだか知らないですけど、わたしが早瀬さんと熱愛とかありえないでしょ。身分も顔面偏差値も違うのに」
「あ~……えっと、その……」
黙っておけ、とにらんでも早瀬さんは困ったように苦笑いするだけで引き下がらない。
「もう社長にも話して……だから実は、写真に写っているのはマネージャーの私で、それも同性だってことで……雑誌のほうにも説明して取り下げてもらうことになって」
「余計なことを……」
「いや、わかっていますか!? このまま記事出たら星原さん、大変なことになりますよ。ソロデビュー曲の発売前にこんな……」
早瀬さんに言われて、そんな当たり前のことを今更理解する。
「…………大変になりますね」
「なんで今やっと理解した感じなんですか!?」
たしかに、わたしも大変なことになっていた。
でもそんなことより――。
「星原さん、私はいいんです。もう、隠すことでも恥じることでもないって……天雨桜も、……ちょっと女子っぽくない趣味も……」
「なんで、ですか?」
「星原さんが、こんな私でもいいって言ってくれたからですよ」
「…………」
言ったけど、でもこれじゃあ。
「で、でも、それじゃあもう……アイドルは桜さんはどうするんですか!? もう戻らないつもりですか!?」
「え、戻るって!? なんの話ですかそれ……」
まるで考えていなかったという反応に、イラッとする。
こっちの気も知らないで……。
「いいな、それ。面白い」
罵倒してやろうと思ったけど、その前に社長が口を挟んだ。
「早瀬、面白いぞ。その気があるなら、今度はうちの事務所でアイドルやるか? 男装アイドル、面白いじゃないか。顔も悪くないし、売れるかもしれん」
「いや、売れませんって……というか、売れなかったんですって……」
「地下だろ? 今度はわたしのプロデュースでどうとでもやってやる」
思いもしなかった展開に、つい体に力が入った。
本当に? そんな急に。でも――。
「本気ですか?」
気づいたら口を出していた。
早瀬さんだって、まだ返事していないのに。
「まあ、早瀬次第だな」
社長は適当だし人間的にも問題あるけど、アイドルを人気にする才能もあると思う。
「…………早瀬さん」
焦るような気持ちを押し込んで、早瀬さんを呼ぶ。
これは、間違いなくチャンスで……早瀬さんだって、ずっと待っていたはずだ。
「ありがたい話なんですが……私、アイドルには戻りません」
いつもみたいにもごもごしないで、キッパリと言い切った。
「どうしてですか!?」
「どうしてって……ほら、私、今はマネージャーで……」
「クビです! こんなマネージャー、クビにしてください!」
「えっちょっと星原さん!?」
マネージャーだから、なんだって言うんだ。
そんなの関係ない。
「社長、お願いします。早瀬さんのことクビにしてください! この人、わたしの脱いだ服をいかがわしいことに使おうとしてましたっ!!」
「星原さん!?」
他にも担当アイドルに男装した自分とはいえ男紹介したし、男装中は何度も調子に乗っていたし、絶対マネージャーなんか向いてないのにっ!!
わたしはそれだけ言い捨てて、社長室を飛び出した。
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いつもありがとうございます。
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