第37話 秘密の接待
「あ、あの、これ……」
理解が追い付いても、言葉が詰まる。
写真に写っていたのは、星原さんと天雨桜だった。
つまりこれは、星原さんが私の家に突然来たときの写真だ。
まさか撮られていたなんて。なんで私、あのとき男装していたんだ……。
どうしよう、こんなのもう、腹を切ってわびるしかないの!?
「あ、あのっ、これはその……」
「早瀬、これはマネージャーの君がどうにかするしかない」
「は、腹を切って……」
「例えば、この写真に映っている人物が……謎のイケメンではなく、マネージャーだとしたら、これはスキャンダルでもなんでもなくなる」
「…………はい?」
「だから、これは男装した早瀬ということにしてほしい。大丈夫だ。このマンションも特定して、画角と近い部屋を君のために借りる。あとは引っ越して……そうだな、適当に何度か男装した写真も用意してもらえば、あとはそれが事実になるようこちらで工作を……」
社長がなにを言っているのかよくわからない。
スキャンダルをもみ消すために、私に嘘をつけと言っている? この写真に写っているのが、実は私ってことに……?
「…………あの、それ、そもそも私ですよ……最初から」
「は?」
「あのその写真……写っているの、私です。謎のイケメン男性じゃなくて私……」
社長がなにを言っているんだこいつ、みたいな顔をしてくる。
「働かせすぎたか?」
口にも出して言った。心配してくれるなら、そんな「うわ……」みたいな顔やめて。
「ほらえっと、こうやって……髪を後ろで結んで……」
ちょっと前髪をいじって、後ろ髪もまとめて、あとは気持ち目もキリッとしてみたけれど……これで信じてもらえるか…………。
「どうですか?」
社長が雑誌の写真と私の顔を交互に見る。
「早瀬ってあれ……眼鏡かけてなかったっけ? 君は本物の早瀬……?」
ぼそぼそと聞こえてくる声――……あれ、私そのものが疑われ始めている? いろいろと心配になってくると、社長が笑い出した。
「はははははっ……冗談だ、冗談。さっきまでのは全部冗談で……」
「え、冗談って?」
……本当に冗談だった?
いや、どう見てもさっきまでの雰囲気、本気だったよね!?
「これな、実は顔馴染みの記者が送ってきたんだ」
「…………はい?」
「だから事情を話して、ここに写っているのがただのマネージャーで、しかも女だって話せばこの記事は出ない。安心してしていい」
「それは……よかったですけど……」
その幼馴染みとやらに、さっきの筋書きで星原さんの評判は落とさないないけど売れる飛ばし記事つくるってことでお互い手打ちにしよう、って大人の裏取引だったんじゃないだろうか……。
妙な不信感と芸能界の裏を感じたけど、関わってもいいことがないと思うので黙っておく。怖いし。
それよりも…………私、怒られないみたいでよかった!!
「いやぁ、でも早瀬。男装似合うんだな。……ん? 男装でいいんだよな? V系みたいなやつか?」
「あ~……男装ですかね……実は、私も以前にアイドルをやっていて……地下アイドルですけど……」
メン地下アイドルだったことも、男装のことも、ずっと隠してきたはずだ。
それなのに、私はさっき、なにも躊躇せず社長に本当のことを話した。
状況が状況だったのもある。社長の計画が一周回って真実だったというので力が抜けて、そのままついってのはあったと思う。
でもやっぱり、私がもう隠さなくてもいいって思えたのは、星原さんのおかげだった。
それと星原さんの炎上が防げるならって、今度こそマネージャーとしてちゃんと目覚めたのかもしれない。
「間違ってオーディション受けたのが悪かったと言うか……そのとき面接官だったマネージャーが全ての元凶と言いますか……」
私が天雨桜を説明し始めてすぐ、社長室のドアが豪快に開いた。
「え、星原さん?」
「どういうことですか。早瀬さんも社長も……」
星原さんだった。
自分の楽屋はいいけど、社長室はノックしてほしい!
そこにいるのは身振り手振りで天雨桜を再現して説明していた私と、目を丸くして聞いている社長。
それを見た星原さんは、引きつった顔で言った。
「…………説明してくださいよ。男装して社長に秘密の接待なんて……なにを考えてやっていたのかっ」
もしかして、すごい変な勘違いをしている!?
―――――――――――――――
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回からまた星原視点になります。
キャッチコピーに追加、近況ノートで告知などさせていただいておりましたが。
本作11/20にファンタジア文庫より書籍発売します!
特設サイトありますので、よければのぞいてください!!
https://fantasiabunko.jp/special/202511tantouidol/
他にも特典やらなにやら近況ノートにもまとめてありますので、今後ともよろしくお願いいたします。
WEBでも引き続き更新しますので、最後まで読んでいただけますと嬉しいです!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます