第10話 真実

 実は、星原奏歌が連絡を取っている相手は私なのだ。


 星原奏歌はずっと私に騙されていた……というとまるで私が極悪人だけど、深い事情があるんだよ……。騙すつもりはなかったんですよっ!!

 嘘ではあるが、騙してはいないというか……。


 私は、アイドルだったことがある。

 アイドルの世界がどんなものかも知らず、無邪気に信じていた。

 ステージでキラキラ輝いて、たくさんのファンに愛されて――ついでに、大金持ちになるっ!


 そんな夢を本気で叶えようって、アイドルのオーディションに受けた。

 合格が決まったとき、奇跡だって喜んだし、同時に伝説の幕開けだって図々しくも確信していた。


 だけどよくよく聞くと、私が受かったの、地下アイドルの…………男性アイドルグループのメンバーだった!


 いやいやいや、私、女ですけど!?


 当時の私はまだ中学生で、体つきも今よりずっと真っ直ぐで……背もクラスの男子より高かったけれど……でも、だからって私が男装してメン地下アイドルに!?

 まあ、細かいことは過去のことだ。当時だって散々これでいいのかって葛藤したし、冷静になるとおかしいだろって思い悩んだ。


 男装のアイドルは他にもいる。でも性別を隠してアイドルって……正気か!?

 それでも私は夢を叶えようって本気だった。

 女だってバレないように必死で男装してキャラづくりもした。

 レッスンにも精を出して、外部の有料ワークショップにだって参加した。


 一人で上京したせいで生活費もバカにならなくて……それなのに地下アイドルの給料なんて雀の涙ってレベルで。

 気づけば借金が膨らんでいて、それでも人気になれば……って信じていた。

 そしてアイドルになって数年、グループのメジャーデビューが決まった。やっと努力が報われるって思ったのもつかの間、私だけ引退することになった。


 はっきり言うと、クビ。

 ショックだったけど、同時に目が覚めた。


 なんで私、男装してアイドルやっているんだ?

 それですっぱり男装もアイドルも辞めた。私――天雨桜としての最後だった。


 はずだったけれど、まさか!

 担当アイドルの口から天雨桜の名前を聞くことになるなんて…………。

 しかも、憧れの人だから紹介してほしい!?

 いやいやいや、それ私だよっ!!

 でもマネージャーが担当アイドルに本当の男を紹介するわけにもいかなかったし


「だったら私(天雨桜)を紹介する方がマシなのでは?」と閃いてしまった。


 だから星原奏歌には私のプライベート用の連絡先をアカウント名だけ天雨桜にして紹介した。

 彼女は、ずっと私(アカウント名だけ天雨桜)に連絡を取っていたのだ!

 でもさ、騙しているわけじゃないよね?

 私が天雨桜だったのは事実で……星原奏歌に、本当の天雨桜(私)を紹介したんだよ?

 ずっと連絡しているのも、ちゃんと天雨桜(私)で……。


『星原のラジオ、俺は聞きたいけどな』


 とか。


『星原はもっと髪のケアに力入れてもいいんじゃないか?』


 とか。

 まあ他にも……マネージャー(私)に都合のいいことを吹き込んできたけどねっ!

 くくくくっ、散々ワガママの限りを尽くしてきたけど、実はすべて手の平の上だったんだよ! アイドルごときがマネージャーに逆らえると思うなっ!


 天雨桜として何度か星原奏歌とメッセージをやり取りして、肝心の水着の話題にも『星原の水着、俺は見たいよ。雑誌の表紙なんてすごいな』とトドメの一言を送った。


 これで脱ぐなんて、人気アイドルも所詮は小娘。誰が生娘だっ! お前もだろっ!


 あれ…………やっぱり私、悪いことしてる?

 でも天雨桜は私で、私は星原奏歌に水着撮影をしてほしいと思っている。メッセージの内容に虚偽があるわけじゃないから、騙しているってわけじゃないはずだ。


 まあ家族(妹)に胸を張って説明できるかというと……。

 なにより大学生になって、あのころより少しだけ大人になった私は、男装してアイドルやっていたことがめちゃくちゃ恥ずかしい!!


 だだだだだって男装してアイドルだよ!?

 顔はけっこう可愛いし? 美形だと思うけど? でもそれ以外は目つきが悪いのと背が高いくらいしか特徴のない私がなんで男装してアイドルに!?

 数年前の私は本当になにを考えていたんだっ!!


 ……ということで今となっては完全に黒歴史だ。

 天雨桜は嘘の私で、封印しなくちゃいけなかった。

 それなのに星原奏歌に紹介したせいで、また私は天雨桜に戻っている。

 メッセージのやり取りだけだから、男装でもアイドルでもないだけれども。

 正直、キツい。


 もう天雨桜にはなりたくない。

 でも私では彼女に水着は着せられない。天雨桜という嘘を続けたくないし、星原奏歌のことだって騙したくはない。


 ただマネージャーを続けるために仕方なくて……。

 はぁ、それなのにどうして『いいか、星原。自分のイメージじゃないなんてことないぞ。そのイメージを脱ぎ捨てていけ。服も脱げるだけ脱げ。俺はアイドルの水着が好きだ。いいか覚えておけ、男なら全員女の水着姿が好きだ』とノリノリで私の指がメッセージを打っている…………。


 いや、違うよ? これは星原奏歌にも世の男というものを学んでほしくて!

 黒歴史なのに! 封印したいのに!

 私の中に、天雨桜だったころのノリがまだ残っている……。俺様系アイドル天雨桜。いやこれ、男装どうこうよりこっちが恥ずかしいって…………。


 自爆もありつつ、身もだえしながらもあっちの仕事は終えた。

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