難攻不落のS級美少女の家族全員を堕としてしまい、彼女の外堀を埋めまくっていた
海夏世もみじ
第1話
――
数多のイケメン、石油王、モデルが好意を寄せたとて、それが成就することのない鉄壁の砦。
ついた異名は〝難攻不落のS級美少女〟。
当然俺は、そんな彼女とは住む世界が違う。
関わることすらなく高校を卒業をしていくのだろう。
そう、思っていたのに……。
「おにいちゃん! 今日ごはん食べたあと虫取りいっしょにいこっ! それでねっ! お泊りもするの!」
「バッキャローおまっ、パパはそんなこと許しませんッ! 彼は今日オレと徹夜でゲーム三昧すんだよ!」
「二人ともうるさいわよ~? なんなら気にせずこのまま買い物でも行かないかしら♪」
「コホン。た、確か今日は儂と夜釣りに行く約束だったと思うのだが……」
「じい様、約束を捏造しないでくりゃえ。さて、先生? 最新作を執筆したゆえ、読んでほしいのじゃ」
もちろん、難攻不落な彼女を俺如きが堕とせるはずがない。
しかし、彼女本人ではなく。彼女の弟に両親、祖父母と……。――彼女の家族全員を堕としてしまっていたのだ。
「壁が鉄壁なら外堀で乗り越えればいいじゃない!」と、恋愛モンスターと化したマリーアントワネットが呟きそうな事態である。
「「どうしてこんなことに……」」
俺と天霧さんが声を揃えてそんなことを呟く。
なぜこんなことになったのか。それは少し時間を遡ることになる……。
# # #
「なーなー
夕暮れ時、教室の隅にて。俺こと
声の主は小学校からの幼馴染である男友達、
「悪い! 明日はちょっと用事があるんだ……」
「そっか~。ちなみに何するんだ?」
「えーっとな。まず山で昆虫採取、そのあと知り合いの大学生から頼まれた地質調査
「わははっ! 流石、自己紹介シートの趣味の欄に〝森羅万象〟って書いた野郎だな!」
そう、俺はこの世に存在するもの全てが趣味と言っても過言ではないほど趣味が多いのだ。
おかげで毎日暇な時間がないほど楽しくて仕方がない。
「んじゃあ明日誰と遊ぶかな~。思い切って千奈さん誘ってみっか!」
「……やめとけよ晃輝。お前を慰めるのは俺の趣味じゃない」
「なんで断られる前提なんだよ! 当たって砕けろって言葉知らないのかよ!?」
「砕ける前提じゃねぇか!!」
頬杖を突きながら、花に群がる虫のように人が集まっている場所に視線を移す。
そこにいるのは、まさしく花のように美しい美少女がいた。
夜空のように美しい黒髪に、澄んだ蒼穹が如く煌めく青い瞳。振りまく笑顔は心を射抜くほどで、容姿端麗さも際立つ。
まさにS級美少女だ。
「あれは可愛すぎるよな~……。彼氏いんのかなぁ! 望はどう思う!?」
「いや、いないだろ。だって見てみろよアレ」
彼女がいる方向に顎で指す。
「えーっと、ごめんね? 付き合うとかそういうの無理なんだ……。ごめん!」
「そう、か……。だけど僕、諦めないよ。絶対手に入れ……じゃなくて、振り向かせて見せる!」
「あはは……。そっか」
どうやら、大胆にも天霧さんに教室で告白をした強者がいたらしい。
ただし、彼女に告白をするという時点でそれは勇者ではなく愚者である。
「ひぇ~、イケメン主人公と名高い
晃輝が言った通り、彼女は難攻不落だ。
聞いたところによると、保育園から現在に至るまでに告白をされた数は万を超え、一度も成功者はいないとのこと。
噂では来日した石油王や超人気韓流アイドルにも告白されたらしい。
普通なら「嘘つけ」と一蹴するだろうが、「本当か……?」と俺たちに思わせる凄味が彼女にはあるッ!
(天霧さんも苦労しているだろうに。好きでも興味もない男に一方的な思いを押し付けられて……。俺だったらノイローゼになっているだろうよ)
笑顔を振りまく彼女だが、隙のない鉄壁の要塞を築いている彼女に感心の視線を送った。
「ま、望も同じくらい次元が違う気がするんだがな~。趣味で株もしてんだろ? インドア趣味も抜け目ないな!」
「多趣味ってことは必然的に金がかかる。だから始めてみたらハマったんだよ。……さて、明日の準備もあるし俺はそろそろ帰るわ」
「おう! 山楽しんで来いよー」
「また誘ってくれよな。次はそっち優先して行くから」
「おけい! じゃあな~~」
晃輝は良き親友だ。俺が多趣味で、クラスメイトとの人付き合いが少ないことを見かねて声をかけてくれるし。
今度は一緒に何かしよう。交友関係は大事だしな。
そのまま真っすぐに帰路を辿り、夕焼けに包まれた街を歩いて家へと足を運んだ。
――翌日。
家から最寄りの山までやってきていた。
「熊鈴、スプレー、マダニ対策、水分、おやつヨシ……。さぁ、まずは昆虫狩りと洒落込もうか!!」
季節はまだ夏ではない、少しばかり涼しい気候。
だが、これくらいが丁度いい昆虫だっている。今回狙っているものはそれだ。
この山はよっぽど奥地に行かなければ迷わないし、クマも出ない。
だが稀に、虫取りに来た子供が迷子になる。ちなみに俺も迷子経験アリなので、山へ行くときは下準備が大事である。
「……ん? なんか落ちてる。不法投棄か?」
山道、時々けもの道を歩き続けること数分。
落ち葉に埋もれている自然物ではない何かを発見した。
「子供用のリュック? 目だった汚れはないし、まさか……」
周囲をキョロキョロと見渡す。何も見えないのなら、次は呼吸を整えて耳を澄ます。
すると、どこからか「ひっぐ……」と泣き声が聞こえた。
その方向に向かって歩いていると、
「ひやああああ!? クマでたぁああああ!!」
「ちょ、俺はクマじゃないよ!? アイアムヒューマン! オーケー!?」
「ノー!」
「なんでぇ!?」
やっぱり、俺が予想していた通り、子供がいた。見たところ小学生くらいだろう。
どうやら錯乱しているらしい。ここはなんとか落ち着いてもらわねば……。
「あ、そうだ! えーっと確か……あった。たら~ん、リアルすぎてキモいと俺の中で好評の昆虫クッキー!!」
「……! それ、しってる。ぼくも好き……」
「リアルでかっこいいし美味しいよね! それじゃあ、はい。一緒に食べよう」
「……うんっ」
その子はクッキーを受け取り、俺が先に口に入れると続いて口に入れた。
幾分か顔色が良くなった。落ち着いたらしい。
(にしてもこの子、目が青いくて綺麗だな。顔も美形だが……あれ? なんか既視感が……)
まあそんなこと気にしている場合じゃないな。
とりあえず、遭難しかけていたこの子の保護が最優先だ。
――この時の俺は知らなかった。
俺の日常がこの子と出会ったこの日から大きく変わっていき、いずれ難攻不落のあの壁を乗り越えるということも……。
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