第10話 三月二十九日 白壁王の第 其の貮 紫微中台の噂
「まったく、
「父はともかく、私はそのような事はありませぬよ」
「まあ、
突然、思わぬ相手の話題が出て来て、私はつい首を傾げる。怪訝な表情にでもなっていたのか、雄田麻呂も一旦、言葉を切る。
「
「ああ、
「
親王の孫である私たちは、
「
「問題がありますかね。あそこで
「ううむ、案外、兄上よりも御身の方が、食えぬ
「何を言われます。このように純真な壮士を捕まえて」
「もう一度、大学に戻るか、宮。純真と言う言葉の意味を習い直した方が良い」
「どうも、信用がありませんね、私は」
「信用置けぬな。それ故、次の
「父や兄の出世に、私は関係ないでしょうに。それに、そのような事が起きたなら、怒り狂う御仁が出てきませぬか」
「例えば
左大弁——
紫微中台の次官は大小の
「もう一度、大納言と
世間の認識では、二人は仲が良いようだ。しかし私が見ている限りでは、父と大納言の親しい様子は殆どない。朝参などで顔を合わせれば、通り一遍の挨拶はする。宴席でも並んで話す事もなければ、同じ趣味を共に楽しむ様子もまるでない。ごく稀に使いを送るとしても、兄や私の任官への口添えを頼むくらいだ。他に用事があれば、大抵は義兄の
「何よりも父は、
「それが、よう分からぬな。あの器量好みで有名な
その息子を前に、良くも平然と言ってくれるものだ。
「身持ちの悪い
あちらこちらで女にもてた類の噂ならば、この雄田麻呂の父親も例に漏れない。しかし雄田麻呂自身は、父親の記憶が殆どないと言う。それこそ私の生まれる前の事で、年寄りらの昔話の一つだ。藤原太政大臣の四人の息子の内でも、
「幸いにして、兄も私もそちらの方面は、父親に似てはおりませぬがね」
「身持ちの堅い事を誇って
坏を置いた雄田麻呂は、やけに大袈裟に椅子の背にふんぞり返る。
「誇ってなどおりませぬが」一応、肩などすくめて見せる。
「御身にはもう少し、遊ぶ事を教えねばならぬようだ。それが年上の務めというものか」何やら一人で納得している様子だ。
「遊びですか。狩りでも野駆けでも球技でも、一応はしておりますが、賭け事には手を出さぬようにしていますよ」素知らぬ振りで私は受け流す。
「馬鹿にしておるな、御身」
「滅相も」
「遊びと言えば相場が決まっておろう」
「夜の遊び、ですか、つまりは」
「
「ありませぬよ」
「では決まりだ。近い内に誘う故、楽しみにしておられよ」
「楽しみにですか、確かに」裏腹な口調で応えて見せる。
とは申せ、私とて
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