森山先輩はかわいい

看板が粉々になったところで動画は終了した。


僕は顔を上げて部長を見つめると、残りの三人も冷たい目で部長を見つめていた。僕たちの視線に気づいた部長は慌てて読んでいた本で顔を隠す。


「思い出したら腹立ってきたわ」


「右に同じ」


「あれはやりすぎだと思う」


三人は口をそろえて苦言を呈した。確かに新入生の入部テストにしては大がかり過ぎると思う。この探偵部の活動に関係があるのだろうか。


今は先ほど見た動画について考えよう。僕は隣に座っていた先生からシャーペンと紙をもらって気づいたことを書き出した。


・森山先輩、ギャル、岸先生の順番で教室を出た。

・犯行時刻は17:05から17:23の間。

・首に巻き付けられたロープはシャンデリアの鎖に通してあった。

・等間隔の机

・小さく見えた部長

・教室に戻ったのは森山先輩とギャルが同時。その後岸先生。

・首にはロープと背中に刺し傷複数あり。


ざっとこんなところか。僕はペンでこめかみをつつきながらまず何から考えるべきか思案していた。


まずは犯人についてだが、犯人は森山先輩、ギャル、岸先生の内の誰かだ。ミステリー好きの部長が考えた犯行計画で第三者が犯人はありえないだろう。


次に考えるべきなのは凶器だ。まずロープは部長の私物が使われたとして部長を刺した凶器はどこにいったのだろう。防犯カメラの映像ではそれらしきものは映っていなかった。となると犯人が持っているか、どこかに隠しているかの二択だ。


「森山先輩。部長を刺した刃物について心当たりありませんか?」


「うーん。この教室に刃物は置いていないし・・そういえば、千歳。今日家庭科の授業で調理実習があるって言っていたような。愛用の包丁ですんごい料理を作るって言っていたよね。」


「確かに家から包丁を持ってきたけど」


「その包丁見せてもらえますか?」


「・・まあ。別にいいか」


ギャルはあっさりと了承して自分のカバンから新聞紙に包まれた包丁を取り出した。僕は包丁を受け取って、そのまま新聞紙を開くと血のついた包丁が顔を覗かせた。


「言っとくけど。私じゃないわよ。いつの間にか血がついていたの」


ギャルは取り乱す様子もなく落ち着いている。そもそも自分が犯人にされても構わないといった感じだ。ギャルは僕がこの部に入るのに反対なので当然か。


「なるほど。いつごろ血がついたかわかりますか?」


「調理実習が終わったのが14時で、ついさっき包丁に血がついていたのを確認したから、14時から18時の間ってところね」


「その間でカバンから目を離したりしました?」


「まあ、休み時間くらいかしら。休み時間はほとんど自分の机にいないし」


そうなると、森山先輩か岸先生のどちらかがギャルの休み時間にカバンから包丁を取り出し持ち去ったことになる。


森山先輩だとすると、いきなり一年生の教室に二年生がきてカバンをいじりだすのは目立ちすぎる。岸先生も同様だろう。


そうなると、ギャルがこの教室に来てから二人のどちらかが包丁を持ち出したことになるが、監視カメラの映像を見る限りその様子はない。


現状、包丁を保持していられるのはギャルだけか。ということはギャルが犯人なのだろうか。


まだ情報が足りない。次は三人からそれぞれ話を聞いてみよう。まずは隣で僕が持ってきた小テストの採点をしている先生から。


「先生。今日の事件について聞きたいんですけど、いつも放課後はこの教室に来るんですか?」


「うん。職員室にいるときは気を張らないといけないから・・ここだと落ち着いて作業できるし・・」


「17時前にこの教室を出たのは何でですか?」


「いつも17時に職員室に戻っているの。そこで明日の授業の準備とかして、18時にまた部室に行って作業してる・・」


「そういえば、西宮さんが職員室に先生を呼びに行きましたけど、大騒ぎになったんじゃ」


「職員室に戻ってから少ししたときに森山さんからメッセージがきててね。「職員室の外で待っていてください」って。それで外で待っていたら、千歳ちゃんがすごい勢いで走ってきて。そしてその後私も急いでこの教室に来たの。」


「あれ?森山先輩は部長の死体を見つけた後にすぐメールを?」


「ああ。あの後すぐに栞が動き始めてね。私に先生にメールをするように言ったんだ。」


「じゃあ。森山先輩の残念ですが、栞は・・のやつは」


「当然演技だ。なかなかの女優っぷりだったろう?」


森山先輩は小さい胸を張り得意げに語った。二人の冷たい視線が今度は森山先輩に突き刺さる。


「・・その。そんな目でみないでくれ・・」


頬を赤く染めながら顔をそむける森山先輩を見て心の中でかわいいとつぶやく。


いつかこの生き物を飼おう。僕はそう心に誓った。

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