第12話 綺麗なお姉さんに緊張しちゃった?

「めっっっっっちゃよかったね!?」

「うん、まさに神映画だった……!」


 プニキュア史上1,2を争う、最高の作品だったと思う。

 歴代のプニキュアが集う豪華な演出と、アニメ本編のテーマを補完する重厚なストーリーが両立する、約一時間とは思えない濃い内容。劇場で観れて本当に良かった。


「間違いなくこれはブルーレイも買いね」

「だな、サントラも絶対欲しい」

「ほんっとそれ! 曲も全部良すぎるのよ」


 なにこれ、めっちゃ楽しい……名作の感動をオタ友と語り合えるって、なんて贅沢な時間なんだ。

 プニキュアが教えてくれた『仲間』という言葉の意味を、いま俺は深く実感している。


「ねぇ見て! 天宮」

「おお……!」


 劇場を出てすぐの通路に、歴代プニキュアの立て看板がずらりと並んでいる。

 その中心で、俺の嫁プニクローバーが、あざと可愛い表情でファイティングポーズを見せていた。さすがに目が幸せすぎる。


「せっかくだしさ、一緒に写真撮らない?」

「お、俺も?」

「そりゃそうでしょ。2人で来たんだから」

「まぁ、そうだけど……」


 涼川真夏とプニキュアたちという完璧な構図に、どうして陰気臭い俺の顔が入らねばならぬのか。考え直した方が良い。


「俺はいいから、真夏さんだけで──」

「つべこべ言わないの!」

「うわっ」


 真夏が強引に俺の手を引き、プニクローバーの隣に並ばせた。突然のボディータッチに、もちろん俺の心臓はバクバク鳴っている。


「ほら天宮、スマホ持って」

「えっ?」

「天宮の方が腕長いんだから」


 ……自撮りってことか。できるかな。

 真夏に渡されたライトブルーのスマホは、縦長のスタイリッシュな形で、片手でシャッターを押すのは結構難しそう。


「もっと近づいて天宮。顔が入らないでしょ」

「ご、ごめん──!?」


 真夏は俺の背中に腕を回し、顔の下で小さくピースをした。もちろん俺は顔も身体もガチガチで、スマホを持つ手がブルブルと震えている。

 陰キャに気安く触れないで……。


「うーん、なんかブレるなぁ」

「よかったら撮りましょうか?」

「えっ、いいんですか!?」


 髪の長い綺麗なお姉さんが、にこやかに声をかけてくれた。

 20代前半くらいに見えるけど、手提てさげの鞄にプニキュアの妖精が付いているので、間違いなく同士だ。


「もちろん。私もプニキュア、大好きだから!」

「やっぱり!!! そのプニルンのストラップ、めっちゃ可愛いですもんね!?」

「ふふっ、ありがとー。実は手作りなの」

「手作り……すごっ!」

「あなたは彼氏さんとプニキュアデート?」

「か、彼──」

「あ。彼氏じゃなくて、。お互いプニキュアが大好きで」

「えー、いーなー。私オタ友とかいないから、いつも一人だよー」


 俺を置いて、真夏とお姉さんがすごく意気投合している。

 ……本当に真夏は、俺をオタク友だちとしか思ってないんだろうな。まあ、それが当たり前で、むしろ深冬やいのりがイレギュラーなんだけど──少し複雑。


「じゃあ撮るねー。ハイッ、チーズ!」



「やっぱり天宮、顔引きつってたね」

「……うるさい」

「綺麗なお姉さんに緊張しちゃった?」

「し、してねえよ」


 時刻は既に10時を回っており、帰りの電車は数人しか乗っていない。

 俺と真夏はドア近くの席に、横並びで座っていた。


「ちなみに私は、連絡先交換したよ?」

「いつの間に!?」

「こういう繋がりは貴重だからねぇ。大事にしないと」


 学校ではあまり見せることのないホクホク顔。

 なんだか俺まで、温かい気持ちになってくる。


「……今日はありがと、天宮。とっても楽しかった」

「俺の方こそありがとう。それと……いろいろごめん」

「まぁ、たしかに。次は寝癖くらい直してもらえると嬉しいかな?」

「ごめんなさい」


 それについてはとても反省している。

 明日の放課後、美容院に行ってみよう。


「それじゃあ私、次で降りるね」

「暗いけど大丈夫? 家まで送ろうか?」

「へー。天宮って、意外とそういう気は遣えるんだ」

「……他の気は遣えなくて悪かったな」

「ごめんごめん、でも駅から近いし気にしないで。それじゃまた、学校でね」

「うん、また」


 真夏がホームに降り、扉が閉まる。

 その後の車内は、いつもより寂しく、俺には感じられた。

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