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 ねえママ、このボケ老人なんとかして。

 助けを求めるようにしてそちらに顔を振り向ける。

 しかしその顔を見たアタシは衝撃に固まる。

「ママ……?」


「ついに私たちも生まれ変われるんですね」


 恍惚とした笑みで、ママは祈りのポーズをとっていた。見たことない顔すぎて、だれあの人ってかんじ。


 生まれ変われるって、なに?

 疑問をいだいている暇はなかった。

 大人たちがいっせいに、なにかを口に入れたのが見えたから。


 毒物を飲みこんだその瞬間、ママは死ん――だわけではなかった。ただ人のカタチをとるのはやめてしまった。表皮が弾け飛び、内側のどろりと紅い中身が溢れだしたかと思うとみるみる変形して、凝固し、ママだったモノは数秒たらずのあいだに直立した一本の象の脚になってしまった。かと思えばてっぺんから次々に人の脚が生え始める。


 悲鳴が耳をつんざく。


 アタシがママに気を取られているあいだに、ほかの大人たちも異形へと変貌していた。もうだれがだれだかわからない。みんな一本の象の脚になってしまった。てっぺんからは何本か人の白いふとももが、風船みたいに伸びて、膝を折って、だらんと垂らしたつま先は、力なくゆらゆらしている。


 あまりに現実味の薄すぎる光景、気が遠くなりかけていると、地獄絵図の真ん中で、狂ったジジイが声を張った。


「さあ、次はいよいよおまえたちの番だ」


 遠くなりかけた意識が一瞬で戻ってきた。

 同時にようやくアタシは自分の置かれた状況を悟った。


 ようするにこのイかれた老人は、孫のアタシたちを脚のバケモノにするために、そのために今日ここに全員を集めたのだ。


 なにその超展開。


「怖がることはない」


 こいつはそれを救済だと信じている。

 まさに研究に心身を捧げた人の成れの果てってかんじ。


「突然のことで理解するのが難しかろう。一晩整理する時間をやるから、明日の朝またここへ来なさい」


 まるで最良のサービスをご提供するかのような顔でサイコパスは言った。


「もし拒否したら?」

 聞いたのはとなりの男。

「おまえたちの両親は、おまえたちが生まれた日からずっと、食事に少しずつ薬を混ぜている。健康でいられるのは、成人するまでが限度だ」


 予想を超えたクソ回答が返ってきた。

 親たちはみんな脚になってしまったから、事実確認もできない。

 ワンチャン脅しかな? でもこのイかれ老人と洗脳されたママとパパならそれぐらいのことはやりかねない。もし事実ならいま十八のアタシらの寿命、残り少ないじゃん。


 ほかのいとこたちはもはや抵抗力を失っていた。いつからそうだったのかわからないけれど眼鏡の男が気を失って床にぶっ倒れていて、悲鳴をあげていた女の子はすべてをあきらめたように床にうずくまって「やります……なんでもやりますから、ゆるして……」とつぶやいている。もうひとり、大人しそうな女の子はさめざめと泣きだしていた。

 泣いてもどうしようもねえ。


 アタシはひとり部屋を出た。

 逃げないと。こんな狂った場所からは。

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