エノシマスペクタクル
@Edonnn
第1話 プロローグ
──随分とこの土地も変わったようだ。以前までは、木々と獣、虫たちの声が聞こえていたはずなのに。今は随分と小さい。
ぬるりと首を動かし、全景を望むと武士や町人が作り上げた町が見える。鎌倉、そして江ノ島に住まう人々が生み出したぼんやりとした淡い光が寂しそうによろめく。
海はとてもなだらかで「ざぶん」という波がよろめき、水面に映った月を散らしていく。
「おい一本目」
どうやら自分が一番の遅起きであったらしく、頭上にふわりと長い髭が垂れた。三本目が冷ややかな目でこちらを見ている。
「随分とお前が寝坊助だから、時刻を大分過ぎちまってらあ」
「悪かった。今日は俺が波を起こす。それでいいだろう」
「何言ってんだ。一本じゃ無理だから、こうしておれ達五本が集まってるんだろう」
二本目も「うん、うん」と自分を非難するように頷く。
しかし、彼らの声は寝ぼけていたこともあって、頭の中には入ってこなかった。
だが自分達がやるべきことは決まっていた。この自然を破壊せん、とする生物に裁きを与える、それだけであった。風を起こし、人間が作り出した文明とやらを葬るだけだ。
しかし、今日は少し状況が違った。
「なんだあれ」
四本目が、江ノ島に落ちていく一筋の光の存在に気がついた。目を凝らし、その正体を掴もうとする。それは、人。いや、自分と同じ天からの使いであった。
それは神々しくも、やさしく灯火のように輝く。柔らかい黒い髪を携え、桃色と純白のそれまた美しい着物をまとった女だった。
その細い指で手に持った琵琶を一つ爪弾くと「どくり」と心臓が震えた。
思わず波音を立ててしまったせいか、その女も自分達に気がつく。
そして微笑む。にっこりと黒々とした目がこちらを見る。
「龍よ。少し話しをしませんか」
自分達、それぞれの首は使命を忘れ、その美貌と優しい声色に心を奪われてしまった。
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