優夢のジャンル闇鍋短編集
優夢
雨の日は、嫌いで好きで 「恋愛」
ジャンル … 恋愛 青春 失恋 初恋 甘酸っぱい
読後感 〇
2024年7月21日の作品
お題 「雨」「タオル」「景品」「星空」「願い」にて執筆
夏祭りは、急な雷雨で中断になってしまった。
明るく賑わっていた境内からは、小走りで去る人影が、次々と雨霞に消えていく。
浴衣では走れそうになくて、私は、大きな杉の下で雨をやり過ごすことにした。
跳ねる飛沫が下駄に冷たい。
降りやむ気配がない雨。
無事に帰れるかどうか、不安になってきた。
ひとりで祭りなんて、来なければよかった。
本当は彼氏と来るはずだった夏祭りは、あっさり破局でおひとりさまに変更。
今日のための浴衣がもったいなくて、半ば意地で来たから、神様のご機嫌を損ねたのだろうか。
裾の泥跳ねがひどい。
綺麗な朝顔模様の浴衣、気に入ってたのに。
鼻の奥がつんとして、うつむいた私の頭に、柔らかいものがぽふんと乗っかった。
「タオル、使って。
遠慮とかしないでくれな。福引きの景品で山ほど余ってる」
思わず声の方を見ると、緑の袴の男の人がいた。何故か、私の方を見ようとしない。
神社の関係者にしては、すごく若い感じ…高校生くらいに見える。
「その、とりあえず濡れたとこ拭いて…、
でもって、これもう一枚、その、
濡れると、透けるからっ」
彼に言われて、私は反射的に胸元をタオルで覆った。
透けてる!?
暗がりではよくわからないけれど、見ず知らずの異性からタオルを差し入れられるくらいに透けてる!?!?
恥ずかしさで顔がかあっと熱くなる。
逃げ出したい気分だったが、あいにく逃げ場はどこにもなかった。
「ええと、俺、同じ学校なんだけど。ここの宮司の息子で」
「ここって、日向(ひむかい)神社の?」
「うん。名字も日向。
知らなくて当然だと思う。俺、いっこ下だから」
なぜ、神社の息子さんが私を知っているのか。
毎年おみくじやらお守りを買いに来ている神社だから、向こうからすればよく見る顔なのだろうか。
「えっと……日向、くん?
その格好、祭りでなにか、お祓いみたいなのしてたの?」
「しないしない、なんでさ!?
俺は社務所でお守りとかお札渡す、家バイト。
神事は資格ある人しかやらねえよ」
「え、資格ってあるんだ」
「大学で単位とったり、いろいろな」
「割と普通なんだね」
「割と普通ってなんだよ!?」
喋っていると、年近い親しみが感じられてきて、少しほっとした。
「お祭り、残念だったね」
「まあな。天気はしょうがねえよ。
終わり頃だったからマシかな」
話しているうちに、雨足が弱くなってきた。
この調子なら、走って駅まで行けそうだけど……。
濡れ浴衣で電車に乗る勇気は、さすがになかった。
「このまま雨、やまなきゃいいのに」
やけくその願いは、声に出てしまったようだ。
驚いた日向くんは一瞬私を見たが、すぐに目をそらしてくれた。
「やみますように、じゃなくて?」
「やまなかったら、帰れない言い訳ができるかなって」
「ああ、その格好だからか……。
あんた、彼氏いたんじゃなかったっけ?
迎えに来てもらえねえの」
「半月前に別れたよ」
彼氏がいるって日向くんがなんで知ってるの、と思ったが、同じクラスに彼氏がいた私は悪目立ちしてたのかも知れない。
それに、もう別れたんだし。
「タクシー呼ぶ?」
「お金そんなに持ってきてない」
「……うーん」
日向くんは、そっぽをむいたまま私に手を差し出した。
「うち、替えの浴衣くらいあると思う。
母親のだから、柄は年寄りくさいかもだけど」
「お母さんが聞いたら怒るんじゃない?」
「いや、母さんに言うなよそれ!?
その、えっと、
今着てるような、綺麗で鮮やかな浴衣はないって意味で」
日向くんは、特に深い意味はなく言ったのだろうけど。
ふいに涙があふれて落ちた。
この浴衣を着て、彼氏とデートして。
きれいだね、って、言われたかったんだなあ。私。
ひとりで来ても、意味なかった。
馬鹿だなあ。
日向くんは無言で、私の手を引っ張って社務所に連れていってくれた。
中は賑わっていた。ほとんどがお祭りの関係者だろう。壮年の人が多かった。
場違いで身をちぢこめていると、日向くんは奥へ行き、入れ替わりに日向くんのお母さんが出てきた。
巫女服姿のきれいなお母さんは、にこにこと私を部屋にあげてくれて、浴衣を貸してくれた上に車で送迎までしてくれた。
巫女服で高級車のハンドルを握る姿は、なんというか、すごかった。
日向くんがどうして私を知っていたか。
道中で日向くんお母さんから聞いた話は、本人がここにいたら、言うな馬鹿やめろ、とでも叫んだことだろう。
私が逆の立場なら、絶対そうするから。
次の日は快晴だった。
日中の祭りである昼宮に、私はワンピース姿で出掛けた。
彼と彼のお母さんに、お世話になったお礼を言うために。
「日向くん」
私は、あの時の景品のタオルではなく、来る前に買ってきたハンドタオルを日向くんに差し出した。
袴に似た、若葉色を選んだ。
日向くんは聞いただろうか。
日向くんお母さんが私に、全部ばらしてしまったことを。
私が覚えていないくらい小さな頃、私は迷子になった日向くんの手を引いて、神社まで連れてきたことがあったらしい。
泣きじゃくる日向くんを鼓舞しながら、私も怖くて目を真っ赤にしていたんだという。
『もうー、白馬のお姫様よね~!
息子の片思い拗らせ期間、なかなかすごいと思わない?
ね、村上さん。フリーになったんなら、うちの息子どうかしら。
就職先確定してて、将来安泰の良物件よ~?』
日向くんの顔が真っ赤なところからして、たぶん全部わかってるみたい。
「昨日はありがとう。
それから」
私は言葉につまり、考えて、どうにか続けた。
「雨が降ってよかった、な、と、思う」
「……うん」
まだ夏休みは終わらないから。
私たちは約束した。
あの朝顔柄の浴衣を着て、晴れた日に満天の星を見に行こう、と。
そこで言いたいことがある、と日向くんは言葉を濁したから、私は。
その日から、雨と神社が大好きになったんだ。
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