軍と武器
3154年01月20日。氷のように冷たい研究室の中で、私は今日も政府の命令に従って兵器の設計をしている。私は、軍事関係兵器開発を国から命じられていた。とある発明コンテストに応募したところ、そこで優秀な生成を収めてしまい今こうなってしまったのだ。今でも発明コンテストの表彰式で、あの日の拍手の音がまだ耳に残っている。あの拍手は祝福ではなく、終わりの始まりだった。
「私も普通の人と同じ生活をしたい。」
そう思うようになったのは最近のことだ。今頃友達は、大学に通っているんだろうか。そう考えてしまう。きっとそういう生活のほうが幸せだったに違いない。
どれもこれも、レフリオンが発見されて以来起こっている。国は外国からの新兵器の攻撃を恐れ自国を強化しようとしているのだ。そんな研究をこんな大学生の私にやらせるなんて本当に国は終わっている。きっと強くできるのなら、金を惜しまなく使うだろう。国民が困っていてそれで助けれたとしても。今はきっと眼中にないのだ。
私は隆一博士みたいに、職として自由に研究をしたかった。そんな願望を抱きながらも、叶わないことを考えると頭が痛くなる。
「陽菜博士。先ほど言われた実験の実験結果が出ました。次の研究はどうしましょうか?」
「研究結果ありがと。私がこの実験の結果を整理するから、今日はもう帰ってもいいよ。毎日大変でしょ。たまには家族や友人に会ってあげなよ。」
「お言葉に甘えて、今日は帰らせていただきます。きっといつかこの恩はお返ししますからね。」
そして国には、私のことは25歳の博士だということにされている。だから皆は私を博士と呼び、誰も怪しまないのだ。
実際は、まだ18歳の大学生だ。何もなければきっと大学で学園生活を送っていただろう。研究をやめたい。そんな願望は叶わぬものになっていた。親にも会えない。表では私は死んだことになっている。だから、会うことは叶わない。
報告書をまとめ、自分の家に戻る。今は、3年前とは別の家に住んでいる。窓を開け夜風にあたる。
「私なんて生きている意味あるのかな。」
そう口に出してしまう。彼女には哀愁が漂っていた。
夜空には星が浮かんでいた。けれど、それはまるでガラス越しに見ているようで、どれだけ手を伸ばしても触れることはできなかった。世界と自分の間には、目には見えない厚い壁があるように感じる。
かつて、星を見るたびに未来を想って胸を躍らせた。けれど今は、ただ静かに時間が過ぎるのを待つだけになっていた。
机の上に置かれた報告書の束が、風に揺れて小さく音を立てた。その音が妙に現実的で、まるで
「まだ終わっていない」
そう告げているようだった。
「終わらせたいのに……。」
そう呟く。自分の声が部屋の中で反響して、ますます孤独を際立たせた。
誰かに、名前を呼んでほしかった。ただ、「陽菜」と呼んでくれる人が一人でもいれば、それだけで救われた気がしただろう。
だけど現実は違った。今の私は、国が作り上げた「博士」という仮面の中で生かされている。仮面を外した自分は、もうどこにもいないのかもしれない。
松田陽菜はもう居ない。今いるのは向井陽菜と言う、自分を見失った大学生だけだ。
窓の外の風に当たりながら、私は机の上の報告書に目を落とす。部下たちはまだ若く、家族や友人と過ごす時間が残されている。私はもうその時間を持てない。会うことも、笑顔を見ることもできない。奪われてしまった、家族・友人・名前。それらはもう戻ってくることはないのだろう。
だからこそ、私は願うのだ。
「あなたたちは、私の代わりに大切な人たちを守ってあげて――。」
そう言葉に出せるのは、せめて誰かが幸せであってほしいという思いだけ。自分の孤独や喪失は受け入れるしかないけれど、まだ触れられる世界にいる人たちには、どうか優しさを惜しまずにいてほしい。今の私のように後悔はしてほしくはないから。
私の目に映る彼らの笑顔が、遠く手の届かない星のように、私の胸を温める。それだけが、今の私に残された希望なのだから。
窓の外の風は、いつもより冷たかった。まるで私の心を透かしているように…
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