勇者一行があまりに炎上するので、パーティに一流弁護士が加わることになりました。
ゆいゆい
第1話 勇者は許可なく家屋に侵入してはいけない
「ちょっと、勇者が道端にゴミ捨ててったんだけど、ありえなくない?」
「助けてくれ!勇者の攻撃が当たって自宅がめちゃくちゃだ!」
ここは王政国家ジュパング。およそ1億の国民が、遠方に棲むとされる魔王の陰に怯えながらひそひそ暮らしている。そんななか、これまで国民を救ってきたのは歴代の勇者一行であり、勇者様=神と崇めるのがこの世界の常識であった。これまでは。
それが変わり始めたのは数年前からだろうか。国民がスマートフォンなるものを入手し、情報が広く普及するようになったのだ。これにより、勇者一行の善行はもちろんのことだが、度重なる悪事までもが全国民に知れ渡ることとなってしまった。
もともとそういった悪行を認知しても見て見ぬふりをしていた国民であったが、一部の批判の声を火種にどんどんバッシングが溢れるようになった。たちまち勇者の評判が落ち、道半ばにして勇者交代か、なんて声も囁かれている。国にとっては由々しき事態である。
「はぁー。くそめんどくせえな。弁護士なんて足手まといにかならないだろ」
「しかたないじゃん。おうさまがパーティにいれろっていうんだし」
ため息をつく勇者を魔法使いがなだめる。もともと勇者一行は勇者、戦士、僧侶、魔法使いというごくごくありきたりな組み合わせだったのだが、そこに加わることになったのが一流弁護士のハシモト。スーツをきた中肉中背のメガネ男で、明らかにパーティのなかで存在が浮いている。そう、この男こそが国王からの指示のもと、勇者一行すべての火消しを託されたエリート弁護士なのだ。弁護士とはいうものの、法廷で闘うのではなく、勇者一行のしでかしを未然に防ぐことを命じられているため、こうしてつい先ほどパーティの仲間入りを果たしたのである。
「ああ、マジかったりい。とっととこんなクソな村でるぞ。アイテムはしっかりとかき集めないとな」
あくびをしながら勇者が独り言をつぶやく。髪を金に染めたこの勇者は歴代でも屈指とされる素行、品の悪さを衆人から指摘されており、支持率低下の原因のおよそ7割は彼とされている。だが、そうそう人間が変わることなんてなく、更生する意欲は現状皆無である。
「おら、まずはあそこの家だ。もらえるもんは全部もらわねえとな」
勇者が目をつけたのは比較的綺麗な2階建ての一軒家。もちろん誰の住居なのかなんて知る由もない。勇者の暗黙の了解の一つに、「勇者は国民の住居に許可なく入ることができ、好きな物品を持ち出すことができる」がある。これは勇者にとって至極当たり前なことなのだ。
「勇者様、禁止事項です」
「……あ"あ"っ⁉」
淡々と勇者の動きをとめたのはもちろん弁護士ハシモトである。メガネをきりっと上げ、諭すように喋り始める。
「勇者様があちらの住居に入られた場合、刑法第10000条住居侵入罪にあたります。これまでは正当な理由と謳って入り込んでいたようですが、プライバシーの侵害との声が多く挙がっております。ここはお控えいただくことが懸命かと」
「おい、おめえが何言ってんのかわかんねえけどさ、勇者が来ることを民は喜ぶべきもんだろうが。侵入なんて言われる筋合いはねえよ、なあ?」
勇者は他のパーティに共感を求めるが、今ひとつ反応が乏しい。もともと帝王学を曲りなりに学んできた勇者とは違い、一般国民として過ごしてきた他のパーティにはその常識は当てはまらないのだ。
「勇者様が侵入すると言うのなら引き止めはしませんが、侵入した途端、私は直ちに国王に通報させていただきます。勇者様は刑事告訴された後、二度と国王の私有地に足を踏み入れられなくなると思いますが……」
「はぁ!? なんだよそれ、めんどくせえ!! じゃあ家にあるアイテムは全部取れねえってことじゃねえか」
勇者はいらいらした様子を見せて頭を掻き、そして舌打ちする。
「加えて申し上げますが、私有地以外にあります壺類の破壊は刑法9600条器物損壊罪にあたるのでお控えいただきたく……」
「わかったよ! マジうるせえな」
弁護士が言い終わる前に勇者が悪態をついてみせる。
「じゃあ一体どうすりゃいいんだよ。アイテムなかったら死ぬぞ、俺ら」
勇者を含め、パーティ全員が弁護士のことをじっと見つめる。
「その点はご安心を。まず、このトーカー村におきまして、勇者様が家屋に入られることに同意された家主すべてに勇者訪問同意書をとっております」
「……はっ?」
何を言っているのだと言わんばかりに勇者が声を漏らす。
「該当する家屋の前には赤い旗印を立てさせていただいております。家屋内にあります財産の拝借の許可をとってありますが、先ほど申し上げましたとおり、個人の財産を損害することはくれぐれもお控えください」
「おい、待てよ。お前がこのパーティに加わったのは2時間前だろ。いつ、そんな時間があったよ?」
「皆様が昼食を召し上がっている時に、でございます」
「ああ、あのときか!」
魔法使いの女の子が何かを閃いたかのように声をあげる。小柄な女の子の口から発せられた言葉が響き渡る。
「まさかあの短時間で……ばかな……」
「それに付随してですが、村長から許可を得まして村にあるいくつかの廃屋に箪笥や壺を設置させていただきております。そこには村寄贈のアイテムが入っておりまして、そちらの備品に限り、損害が許可されます」
「はあ、どういうことだよ」
勇者の知性は決して高いとは言えず、既に状況についていけていない。
「弁護士殿。村から寄贈品があるのなら、その、直接渡してくれればいいのではないか? どうしてまた、そんな回りくどいことを……」
そう問うたのは、先ほどからほとんど口を開かなかった戦士だ。大柄なことだけが目立った特徴で、食事中含め、人前では常に鎧を装備している。
「それはですね、勇者様が家屋に入ってアイテムを入手することは一種の掟だからでございます」
「はぁ……」
「勇者様一行は法令を遵守すると同時に、勇者らしくあることが求められると私は考えております。そのためにできることは陰ながら施させていただくのであります」
抑揚のない声でハシモトが喋り続ける。パーティの面々はハシモトが発する一言一句に思わず聞き入ってしまっている。
「はあ、なんなんそれ。マジ調子狂うわ。まあ、おめえの指示したとこでアイテムを取ればいいんだな。じゃあさっさと行くぞ。こんな田舎村とっとと出てってやらあ」
そう呟いた勇者は1人歩き出し、パーティがついていく。こうして、勇者一行に弁護士ハシモトが加わった旅路が始まったのである。
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