女になった俺、異世界で最強魔法士として人生バグらせ中

熱した鉄球

第1話 社畜、女になる

俺の名前は凡田 優一(ぼんだ ゆういち)。

三十路を目前にした、どこにでもいる冴えないサラリーマンだ。

朝7時に家を出て、夜は終電。休日もろくに休めず、上司には詰められ、部下には舐められ、恋人なんて当然いない。気付けば、趣味も友達もなくただ「働くだけの機械」として日々を浪費していた。


そんな俺の人生は、ある日あっけなく幕を下ろした。


残業帰りの深夜。駅前の横断歩道を渡ろうとした瞬間、視界の端から迫ってきたのは暴走するトラック。気づいたときには、もう避けられなかった。


「――あ、これ、よくあるやつじゃん」


へぇ〜、痛みは無いんだなぁ。バラバラに砕けていく意識の中で、皮肉にもそんな感想が浮かんだ。ネット小説でよく読む「トラックに轢かれて異世界転生」の始まりみたいだなんて思うけど、意識が薄れて行くのを感じる。俺の人生、結局テンプレで終わるのか。


──まぶたの裏が光に満ちた瞬間、俺は目を開いた。そこは金色の光が差す、どこか神秘的な神殿のような空間だった。


正面には、まるでアニメから抜け出したような絶世の美女。緩いウェーブの金髪に、白いドレス。透き通るような肌。そして柔らかに笑むピンク色の唇。


「ようこそ!異世界転生ガチャへ。あなたは事故死しました♡」

「……えっ、ガチャ?」

「はい。転生者の能力は“スロットマシーン”で決定するのです♪」


彼女が指を鳴らすと、巨大なスロットマシーンが空から降りてきた。

ギラギラとしたライト、レバー、そして“STR”“INT”“LUK”などの文字が目まぐるしく点滅する。


「さあ、あなたの新しい人生を決めるのは……運命です!」


──変な走馬灯だなぁ。少しアニメ見るの控えるか……あ、俺もう死んだんだっけ。はは……。


半ばやけくそでレバーを引いた。

ガチャン、ガチャン――カチリ。

結果は、筋力MAX、魔力MAX、幸運MAX。

常識ではありえない、すべての数値がカンスト状態だった。


「……バグってない?これ」

「ふふっ。神の采配です!まあ、面白そうだから良しとしましょう♪」

「軽いなぁ……」


女神は楽しげに笑った。

だが、次に放たれた一言で俺は凍りつく。


「ただし、あなたの新しい肉体は“女性”になります♡」

「……は?」


夢とはいえ、慌てて自分の体を見る。

先程までとは違い、ぷるん♡とした胸の膨らみ、細い指先、声まで高くなっている。


「いやいやいや!?俺、男なんだけど!?」

「最強の力を得る代償。デメリットは必要でしょう?」


女神は悪戯っぽく微笑む。


「まあまあ、女の姿も悪いものではないですよ。むしろ、楽しめるかもしれません♡」


返す言葉を失った。最強の力と引き換えに、女として生きる未来を想像してしまう。無理無理無理!だが次の瞬間、「異世界へ1名様ごあんなーい!」という声と共に体が光に包まれ、浮遊感に襲われた。


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