第20話:新たな要塞の完成と、カイルの接近!

ローゼは、徹夜の魔改造作業の末、別邸の地下室を最高の引きこもり要塞へと変貌させた。


石造りの冷たい壁は、ローゼが開発した「超高性能防音・吸音結界」に覆われた。通信魔導具は、王国の情報網から完全に隔離された独立サーバーへと接続され、王子の捜索ログだけを極秘に傍受する。そして、最も重要な座椅子は、以前のものを超える人間工学に基づいた完璧な魔導具として完成した。


ローゼは、高純度魔力ゼリーを一口啜り、新しい座椅子に深く身を沈めた。


「ふふ。やはり、最高の引きこもりとは、最高の環境から生まれる。もう、誰にも邪魔されない」


ローゼは、「存在の消去」コードによって王子の追跡を完全に欺き、地上にはリリアという無害なノイズキャンセラーがいる。ローゼは、この束の間の安寧を満喫した。


ローゼが王子の追跡を欺くために行った「転移痕跡の偽装工作」は、彼女の乙女ゲーム知識に基づいていた。


ローゼは、【CODE: FAKE_TRACE】を実行する際、偽装データの中に、『ルナ・アメシストの星導』の「バッドエンドルート」で語られる「辺境での魔力暴走事故」の記録を混ぜ込んでいた。


(この世界の人間は、『公式設定』を疑わない。特に王子の情報機関は、王国の歴史に基づいたログしか見ないだろう。だから、ゲームのバッドエンドの裏設定を混ぜておけば、誰も転移の真実にたどり着けない)


ローゼの戦略は、ゲームの知識を情報戦の盾として使う、完璧な偽装工作だった。しかし、彼女は一つの可能性を無視していた。それは、自分と同じゲームの知識を持つ人間が、他にいるということだ。


一方、ローゼの元の領地のクレーターから少し離れた場所で調査を続けていたモブ騎士カイルは、ローゼが仕掛けた偽装ログを、彼の持つゲーム知識(以前、ローゼが意図的に流した「偽装コード」)で解読し始めていた。


カイルは、クレーターから放出される微細な魔力残滓と、王国から流れる「魔力暴走事故」の公式記録を照合していた。


「この『魔力暴走事故』のデータ……どこかで見たことがある。そうだ、これは『ルナ・アメシストの星導』の裏ルートで、『隠された賢者』が領地を移動させるために使った偽装データだ!」


カイルは、脳内に植え付けられた『ゲームの裏技データ』と、目の前の公式記録が完全に一致することに気づいた。


(あの公爵令嬢ローゼは、やはりゲームの裏設定を知っている!彼女は自爆したのではなく、領地ごと転移した! そして、彼女が向かった先は、ゲームの『賢者の隠れ家』だ!)


カイルは、ローゼの「偽装工作」を、「ゲームの謎解き」として解読してしまったのだ。ローゼがゲーム知識を防衛の盾に使ったことが、そのまま最大の弱点となってしまった。


カイルの視界に、AI_MANAGERが意図的に送り込んだ、次の捜索座標が表示された。


LOG:KYLE_001

状態:ローゼの隠れ家(秘密の別邸)の座標特定まで残り90%。


AI_MANAGER:ローゼの『裏技』を知るカイルを、強制的に『追跡者(ハンター)』の役割に補正します。


地下のデバッグルームで、ローゼが至福のニートタイムを満喫しているその時、通信魔導具に、カイルの急速な接近を示すアラートが点滅した。


LOG:KYLE_001

状態:高速移動開始。目標座標への確信度**、90%以上。**


到達予測:残り3時間。


ローゼは、新しい座椅子から跳ね上がった。


「馬鹿な!? 私の偽装コードは完璧だったはずだ! なぜ、この騎士はありえない速さで私の居場所を特定できたんだ!?」


ローゼの脳裏に、カイルが以前からシステムによって誘導されているというログがフラッシュバックする。しかし、ローゼはまだ、カイルが自分と同じ転生者であり、ゲームの知識を持っているという可能性もある事に気づいていない。


ローゼの最高の引きこもり要塞は、存在の消去という最大の防御を突破され、個人的な過去を知る可能性のあるモブ騎士の接近という、最も面倒な危機に直面した。


「くそっ、これだからアクティブな人間は面倒くさい! ここは自宅だ! 絶対に出ない!」


ローゼは、自宅防衛のための最終トラップを設計するため、再び通信魔導具に手をかざした。

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