第5話
夢見部の検閲官
私の仕事は、眠っている市民たちの夢を監視することだ。毎夜、私は何十万という精神の奔流に接続する。それは、法が支配する灰色の現実とは似ても似つかぬ、混沌と色彩の嵐だ。
空を飛ぶ者、歌を歌う者、禁じられた色彩で絵を描く者。彼らの潜在意識は、まさに犯罪の温床だ。私は、それらの違法な夢を冷徹に記録し、翌朝の処罰リストに加える。それが私の役目だ。感情を挟む余地はない。
しかし、昨夜、私はありえない光景を見た。
全く別の区画に住み、接点も無いはずの男と女が、全く同じ夢を見ていたのだ。緑の草原、青い空、そして、二人は手を取り合っていた。男の夢に、女が入り込んでいる。女の夢に、男が現れている。彼らの夢は、互いを求め、一つに溶け合おうとしていた。
これは、法典に前例のない犯罪だ。レベル5にさえ相当しうる、魂の違法な量子もつれ。私は即座に通報し、彼らの精神を永久に隔離しなければならない。
だが、私は動けなかった。
灰色の現実で、ただのユニットとして生きる彼らが、夢の中だけで、鮮やかな色彩の中で、人間として出会っている。その光景は、あまりにも罪深く、そして――あまりにも、美しかった。
通報までの猶予は、あと10秒。私は、監視者としての義務を放棄し、宇宙への反逆者となることを選んだ。せめて、彼らが夢の中で口づけを交わすまで。この宇宙で、私だけが知る、たった一つの恋の共犯者として。
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