第3話
少女と色の罪
私の学習ポッドの壁は、完璧な灰色だ。世界は灰色でなければならない。「色」は、光の波長という無意味な差異が生み出す情報汚染だから。そう教わった。
今日の学習プログラムは、「旧世界の汚染情報識別訓練」。モニターに、次々と画像が映し出される。木。建物。動物。全てが法に従い、完璧なモノクロに処理されている。私は、そこに僅かでも色の残滓がないかを確認し、報告する。
その時だった。システムのバグだろうか。一瞬、ほんの一瞬だけ、モニターに映った「花」と呼ばれる旧世界の植物が、本来の色を取り戻した。それは、私の知らない、しかし魂を揺さぶるような鮮烈な「赤」だった。
心臓が、法で禁じられた音を立てた。全身の原子が、その色に共鳴して震えるようだった。美しい、と思った。思った、ということは、思考した、ということだ。レベル3の概念犯罪。
私は恐怖に震えながら、学習プログラムに従い、自己の短期記憶野へのアクセスを開始した。あの「赤」の情報を、完全に消去しなければならない。私は、生まれて初めて得た宝物を、自らの手で破壊する。指が、消去のコマンドを打ち込む。大丈夫。すぐに、私はまた完璧な灰色の世界に戻れる。あの美しい地獄を、忘れることができる。
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