第37話 混血の儀式の記録・1
【インタビュー記録10:稲見和江(いなみ かずえ)(88歳)】
撮影日時:2025年7月6日 11:00
場所: 対象者の自宅
(※辰巳老人に連れられてきたその家は、町から完全に隔離された、山奥の一軒家だった。通された和室は、黴と線香の匂いが混じり合い、奥にある神棚には、白い布が固くかけられ、厳重に封印されている。稲見と名乗った老婆は、深く刻まれた皺の奥から、全てを見透かすような目で、水野たちを見つめていた。)
稲見氏: 「……辰巳さんから、聞きましたよ。あなた方が、あの『坂の女』を追っていると。……ええ、わかっております。あの女は、私の……我らの一族の、拭い去れぬ罪そのものですから」
水野: 「あなたは、榊一族のことを詳しく?」
稲見氏: 「私の祖母が、榊の本家から分かれた、そのまた分家の者。血は、水よりも薄まっております。じゃが、そのおかげで、一族の狂気に染まらずに済んだ……。そして、あの家が犯してきた罪を、語り継ぐ役目だけが、私に残されたのです」
水野: 「片桐さんという方から、贄の儀式の話は伺いました。ですが、榊一族は50年以上も前に、この町から消えたと……」
稲見氏: 「ええ、本家は消えました。ですが、儀式は……呪いは、消えてなどおりませぬ。一人の女が、榊小夜という女があの術の全てを継いで、この町を出ていったのですから。……そして、片桐さんが知っている話は、物語の半分でしかありませぬ。この町の誰もが知らぬ、本当の儀式の姿……。あれは、日本の神事などではありませぬ」
水野: 「どういうことですか?」
稲見氏: 「その始まりは、江戸の世……この浜に流れ着いた、異国の魔術師と、当時の榊の巫女が出会ってしまったことでした。二人は互いの術を混ぜ合わせ……決して交わってはならぬ、呪いの契約を完成させてしまったのです。それこそが、『混血の儀式』の始まり……」
(※稲見氏は、三つの儀式の道具――『星辰の貝』『魂魄の小舟』そして『賢者の心臓』について、そのおぞましい機能と役割を詳細に説明する。)
水野: 「……その儀式を続ければ、誰でも……不老になれた、ということですか?」
(※水野の問いに、稲見氏は、静かに首を横に振った。)
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