第33話 贄の記録・2

【インタビュー記録09:片桐 文乃(かたぎり ふみの)(72歳)】

撮影日時: 2025年7月5日 19:00

場所: 対象者の自宅

(※辰巳老人に教えられた家は、まるで町を見下ろす灯台のように、高台にぽつんと建っていた。通された居間は、私設の図書館のように、壁一面が古書やファイルで埋め尽くされている。)


片桐氏: 「辰巳さんから、お話は伺いました。……森へ、行かれたそうですね。そして、『見て』しまわれた、と」


水野: 「はい。我々には、あれが何なのか、全く分かりません。この町で、一体何が……」


片桐氏: (水野の言葉を遮るように、静かに)「……東京で起きているという、お子さんたちの事件。そのご家族は、この町の出身者だと聞きました。……やはり、始まったのですね。あの忌まわしい『収穫』が」

(※片桐氏は、鍵のかかった桐の箱から、分厚いファイルを慎重に取り出す。)


片桐氏:-「これは、私が学芸員時代に、町の誰にも内緒で、秘密裏にまとめていた記録です。公にすれば、私は町から、いえ……この世から、消されてしまっていたでしょうから」

(※ファイルが開かれる。そこには、セピア色に変色した、町の子供たちの集合写真が何枚も貼られ、その幾人かには、赤いインクで、小さな丸が付けられている。)


「この、私が赤い丸で印をつけた子たち……この子たちは、この写真が撮られた翌年から、一人、また一人と……いなくなりました。病死や、事故として処理されましたが、遺体が見つかることは、決してありませんでした。そして、いなくなった子の家には、決まって、この貝殻が一つ、そっと置かれていたそうです」

(※片桐氏は、布に包まれた、青白く発光しているかのような、奇妙に美しい二枚貝を取り出す。)


片桐氏: 「『夜光の貝』。これが、『贄』に選ばれたという印です。……言葉で説明するよりも、これをお読みいただくのが一番かもしれません」

(※片桐氏は、ファイルの奥から、黄ばんだ和紙を書き写したという、数枚の原稿用紙を取り出す)


「これは、私の曽祖父の妹にあたる女性が遺した、大正時代の日記の一部です。彼女の親友だったハルちゃんという少女が、『贄』に選ばれた時のことが、子供の視点で生々しく記録されています」

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