第24話 マンションの住人

【映像記録ファイル:VVHills_Interview_001.mp4】

撮影日時: 2025年6月29日 15:05

場所: VVヒルズ 4201号室


一条紫苑: (優雅にお茶を勧めながら)「ようこそお越しくださいました、一条と申します。どうぞ、楽にしてください」


水野: 「お忙しい中、ありがとうございます。ディレクターの水野です。本日は、先日こちらで開かれたチャリティ・ガラについて、いくつかお伺いしたく……。斎藤愛菜ちゃんのご家族も、参加されていましたね」


一条紫苑: 「ええ、ええ。よく覚えてます。とても可愛らしいお嬢様で……。あのような悲劇が起きてしまうなんて、本当に、胸が張り裂けるような思いです」


水野: 「当日のパーティの様子なのですが、何か変わったことや、例えば、斎藤さんご一家に、しきりに話しかけていた人物など、何か気になるような参加者はいらっしゃいましたか?」


一条紫苑: 「不審な参加者、ですか……?」

(※彼女は少し考える素振りを見せる。その仕草さえも、絵画のように美しい。)

「いいえ、私の記憶にある限りでは、特にそのような方はいらっしゃらなかったかと。パーティには、長年お付き合いのある、信頼できる方々しかお招きしておりませんし、セキュリティも万全を期しておりましたので。……ただ、愛菜ちゃんは、とても人懐っこいお子さんで、色々な方に笑顔で話しかけていたのが、印象に残ってます」


水野: 「そうですか……。実は、このマンション自体にも、いくつか奇妙な噂があるようでして。『赤ん坊の泣き声がする』とか……」


一条紫苑: (微笑み)「ご存知でしたか? コンシェルジュの方から伺って、私も驚いてしまいました」

「お恥ずかしい話なのですが……私の趣味で、18世紀のヨーロッパのオートマタ(自動人形)をいくつか集めておりまして。その中の一体が、時々、夜中に調子が悪くなって、内蔵されたオルゴールの音が、赤ん坊の産声のように鳴り出してしまうことがあるのです。古いものですから、中々気難しくて」

(※その説明は、突飛ではあるが、大富豪の風変わりな趣味としては、妙な説得力があった。)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る